表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/47

11、されど説明はしないとね

 うーむ、サカザキさん、凄いなあ。いきなりライターですもんね。いや、「小説家になったわけじゃないじゃん」ですって? いやいや、ご存じですか? ライターとか新聞記者出身の小説家ってけっこう多いんですよ。コラムとか記事を書くことによって腕を磨いて、取材のノウハウを学んだ上で小説家に転身すれば中堅どころの小説家さんのスキルは十分備えているという寸法です。それに、ライターさんってどうしても特定の事象に詳しくなるので、その知識を小説に生かせたりもします。まあ、ライターとして優秀でも小説家としてはいささか問題のある例(例えば……、丸屋も愛読している某オカルト系ライターの方が小説を書いていた時期があるんですが、余りの内容に小説家として大成せず、今でもオカルト系ライターをしています)もありますけどねー。とにかく、いずれにしても、文筆業に近づいておけば、いつか立つ瀬もあるというものです。それに、あのマツコ・デラックスさんもコラムニスト出身ですよね。……だからどうしたって話ですね、はい。

 っと。今、丸屋を呼ぶ声がしましたね。はいはいただいまー。

 おや、あなたは歴史小説家を目指して勉強中のスズキ君ではないですか。どうしたんです?

 え、さっきの話を聞いていた? 僕も小説の中で説明が多い気がするから、どんどん説明を減らしていきます、って? うん、それがいいです。説明っていうのはどうしても冗長になりがちですからね!

 で、でも、スズキ君。君の作風の場合だと、あんまり説明を削らない方がいいですよ。


 前回の論旨とは明らかに矛盾してしまっているような気もしますが、実はこれ、矛盾するものではありません。

 丸屋がやり玉にあげていたのは「冗長でリアリティのない説明はするな」という話であって、「説明をするな」と言っているわけじゃありません。

 前回も話しましたが、説明が必要な小説ジャンルはけっこうあります。例えばこの世界とは全く違うルールが適用されているファンタジー。科学法則(ときには実在しないことさえある)が物語に関わってくるSF、現実の経済の動きを説明しなくてはならない経済小説、トリックやギミックが入り組んでいる推理小説など、枚挙にいとまがありません。あ、スズキ君が頑張っている歴史小説もその一つですね。

 そういった小説にあっては、説明をすべて省いてしまうとその道の人にしか理解されない小説が出来上がってしまいます。もちろん、その道の人向けに小説を書いているのならそれも一つのマーケティングですが、多分大抵の作者さんは、出来るだけ多くの人に読まれたい! と願っているに違いありません。そうなると、物語の難易度を下げるためにも説明を差し挟む必要があります。

 なので、こういう小説を書いている人は、「説明をできるだけ書かない」なんていう悠長なことを言っていられなくなります。

 じゃあ、だからといって、冗長な説明をだらだらとやってしまっていいのか。NOです。

 古典SFなんかですとそれこそ十ページにも渡る原理説明が書いてあるわけですが、あれは古典SFがまだ古典ではなかった頃、つまりアレが最前線だった頃の読者が、そういう小説を我慢して読んでくれたマゾ読者だったというだけのことです。どこかでお話ししましたが、古典で是とされている方法論が、そのまま現代で使える道理はないのです。

 じゃあ、どうすべきなのか。

 簡単です。「面白い説明」に徹すればいいのです!

 説明が飽きられてしまうのは、つまらないからです。要は、面白い説明に徹すれば、読者さんは喜んで読んでくれます。

 これはきっと色んなテクニックがありますし、多分その辺りは他のエッセイを参照した方が分かりやすいのかなあとは思いますが、ここでちょっと丸屋式のテクニックを少々。

 まずお伝えしたいのが、「説明を小分けにすること」です。

 特にこれは世界観の説明で使えるテクニックですが、あることを一か所で全部説明しようとするのではなくて、いろんな場面で小出しに伝えていくことで説明の冗長さを緩和しようという狙いのある方法です。ファンタジーで、冒頭部分で世界観を一気に説明しちゃうんじゃなくて、ある時は敵と戦っている最中に魔法の説明をして、またある時に教会で神父さんにそれとなくこの世界での死生観を説明させたり、またある時には大魔王に元の世界に戻れる方法を喋らせちゃったり。そうやって話の筋に少しずつ説明を練り込んでいけば、説明っぽさは分散されます。

 また、「関係ない例外事項や細かな事項は説明しない」というのもテクニックの一つです。

 たとえば、あなたが江戸幕府の大名を主人公に小説を書くことにしたとして、「大名」を説明しようとするとします。普通でしたら「徳川将軍に直接臣従している家臣の内、一万石以上を安堵された者」が定義ですね。でも実はこの決まりには例外があって、五千石なのに大名となっている家もあります。でも、小説において、そういう説明は無駄です。削りましょう。でも、仮に、「五千石なのに大名の家」の人を主人公にするなら、その辺りはしっかり説明してやらなくちゃなりません。その見分けが大事なわけです。あとは、大名の話になるとどうしても旗本制度との境目といった、学者さんの間でも議論のある問題を書きたくなるところですが、この辺りは果断に削りましょう!

 でも、説明ってどう上手くなったらいいんだろう? というそこのあなた! 実は凄くいい腕の磨き方があります。

 エッセイを書くことです。(もちろん種類にもよりますが)エッセイは高い論理性が求められるものなので、書いていくうちに自然と流暢な説明が出来るようになりますよ。

 

 小説における説明って、意外に奥が深いんですよー。小説家さんの中には、説明を読んでるだけでワクワクさせるような豪の者もいますからねー。そういう人の技術を盗むのも一つの手ですねえ。

 どうしましたスズキ君。なんか怖い顔してますね。

 え? お前がこの店を開いてるのって、さては自分の説明力を磨くためなんじゃないかって?

 ぎ、ぎくっ!

 あ、あいや、そんな下心が……ないっちゃあないしあるっちゃああるんですが……。そもそもボカァ雇われ店主ですのでね、その辺りはオーナーさんに言っていただけると。

 え、オーナー出てこいって?

 すいません、オーナーさんは設定が定まってないので出てこないんですよ。

 メタは止めろ馬鹿、ですって?

 はは、じゃあ、次はその話にするとしますか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ