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はじめに バー「創作駆け込み寺」へようこそ

 いらっしゃいませ。

 ん、なんですかその鳩が豆鉄砲を食らったような顔は。どうやらこのバー、「創作駆け込み寺」のことが分かっていらっしゃらない様子。では、説明いたしましょう。でも、その前に何か飲みましょうよ、バーなんですから。何がいいですか、ハイボール? ジントニック? ブラッティーマリー? ……え? 「カルーアミルク」? はいはい、ただいまご用意いたしますよ。え、そこのあなたは「久保田」ですって? まあ一応置いてありますからいいですけど……。え、なに、そこのあなたは「スピリタスのロック」? 死にたいんですかあなたは。お客様のご希望とあらば用意しますけど、この店、禁煙ではないので、人体自然発火しても知りませんよ、もう。え、そこのあなたは「トマトジュース」? ええ、ご用意しますよ、ちょっとお待ちくださいね。


 まずは、自己紹介からしておきましょう。

 わたしはここのマスターで丸屋嗣也と申します。ナニモンだ? ですって? ナニモンも何も、この「バー・創作駆け込み寺」のマスターです。それ以上でもそれ以下でもありません。一説には、丸屋の中の人が色々と別のところで悪さをしているようですが、それは丸屋の預かり知らぬところです。きっとご存じの人もいるのでしょうが、その辺りはお口にチャックでお願いします。もしバレちゃうとこの店を畳まなくちゃなりませんので。


 ときにお客様、表の看板を見て入られましたか?

 え、見てない? ほら、看板の下に、横断幕を下げておいたんですけど……。「20作目に悩んだら または恋する乙女じゃいられない人へ」って。

 え? 面白そうだから覗いてみた、ですって?

 うーん、この期間中はかなりエグいサービス内容なので、お客さんを絞りたいんですけど……。

 ああいや、ここにお招きしたいお客さんはまさに「20作目あたりを書いていて小説を書くことに行き詰っている人」向けなんですよ。

 20作目、っていうのがけっこうミソです。

 普通、小説を趣味にした人でも、世間の気忙しい空気に流されて、20作も継続して書いている人なんて本当に稀です。もちろん、いらっしゃるにはいらっしゃいますけど、そういう人はめちゃくちゃな小説ジャンキーです。

 そして、20作目で悩んでいる人っていうのは、かなり特殊な人たちです。

 20作も書いている人、っていうと、だいたい三種類くらいに分類できます。

①小説を書くのが死ぬほど好きな人

②仲間に恵まれて楽しく創作ライフを送っている人

③プロを目指して勉強中、あるいはそれに準ずるような高いモチベーションを持っている人

 そのうち、①の人はあんまり悩むことはありません。こういう人はいわゆる「天才」と言われる人種です。三度の飯より小説を書くのが好きで仕方がない! そんな人です。そして、そういう人はそもそも小説を書くことに悩んだりしません。悩んだとしても自分で解決しちゃう人種です。

 そして、②の人も悩むことはないでしょう。あ、いや、悩みがあるのかもしれませんけど、その悩みは大抵「最近仲間とうまくいかなくなっちゃって」とか、「あの人に嫌われているかもしれないんだけどどうしよう」みたいな内容です。ぶっちゃけそれは、人間力が問われる話になってきますので、正直丸屋には分かりかねるところです。ええ、わたし、対人恐怖症なんです。そんなやつがマスターなんてやるな、ですって? 痛いところつくなあもう。

 そう、丸屋が今日お客様として当て込んでるのは、③のような人たちなのです。

 そして、ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、丸屋は以前、初心者の方向けにエッセイを書いています(「一作目、二作目に悩んだら」)。あのエッセイにおいて丸屋はずっと、「楽しく書いて下さい」と言っています。でも、このお店の中においては、かなりズバズバと物を言うかと思います。何でかというと、あのエッセイはあくまで「小説書きのすそ野を広げる」のが目的でした。すそ野が広がると、当然本を読んでくれる人口が増えて、そうなれば小説家一人一人の印税にまで回ってイッシッシ、というわけです。でも、このお店においてはちょっとスタンスが変わり、「楽しく、けれど苦しんで書いて下さい」という風になります。なので、初心者の皆さんはお帰り下さい。そして、出来れば「一作目、二作目に悩んだら」を覗いてくれると本当にうれしいです!

 そして、このお店で語られる内容には、まるで即効性がありません。

 今、お客様方のズッコケる音が聞こえましたけど、そりゃそうでしょう。小説を書くのが上手くなりたいなら、畢竟、小説を書くことが一番の早道です。

 それに皆さん、このお店に入るなり、色んなお酒を注文したでしょう? アレと同じことです。バーで何を頼むかはその人の好みや考え方、酒の強さ弱さに依存しています。それと同じことで、小説を書く、という行為には正解がありません。言い方を変えれば、あなたにとっての正解があって、皆に通用する正解はどこにもない、ということです。なので、丸屋が出来るのは、「この道筋を辿っていけばあなたの正解に出会えるかもしれませんよ」というものになります。なので、まるで即効性はありません。もちろん、たまには即効性のあることを喋るかもしれませんが、それに頼り過ぎるのも考え物です。

 だって、あなたの正解は、あなたしか知らないんですから。バーのマスター丸屋は日本酒とカクテルが好きで皆さんにオススメしますけど、皆さんは皆さんのお好みがあるでしょうから無理強いはできません。そういうことです。


 さて、ご了解いただけましたか?

 以上の内容をすべて呑み込んで了解していただけたなら、是非ともお付き合いくださいませ。

 小説に対して、恋する乙女じゃいられない皆さんへ。

 何卒、楽しい、そして悩ましい創作ライフを――。


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