表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・二章 新米魔女は、騎士と邂逅する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/36

突然はじまる魔女ライフ

 マリエッタの一日は、太陽が昇るのと同時に始まる。

 家中の窓を広げ、空気を入れ替えた。

 いまだ微睡みのなかにいるグリージャからは『寒い!!』と抗議の声があがる。


「朝露を含んだ風は、家の中を浄化してくれるのよ」

『はいはい、わかりました、わかりました』


 グリージャには、マリエッタがまとうカーディガンをかけてあげた。

 朝食を作らなくては。

 まず、庭に行って鶏から卵をもらう。

 森には、〝コッコ〟という種類の野生種の鶏が生息していた。

 庭に魔法陣を描いてパンの欠片を置いていたら、卵と引き換えてくれる。

 グリージャの分とふたつ、回収してそっとかごに入れる。

 そのまま、庭にしゃがみ込む。手入れがされていない庭には、森野菜が自生しているのだ。どれも小ぶりだが、マリエッタとグリージャが食べるだけなので十分である。


「レタス草に、茎ニンジン。それから――花トマトもある!」


 どんどん摘んで、カゴの中へと放り込む。あっという間に、カゴはいっぱいになった。


 家に戻り、朝食の支度を始めた。

 慣れたもので、両手で魔女術を操り、ふたつの料理を作れるようになった。


 片方の手では、チーズ入りのオムレツ。

 もう片方の手では、サラダを作った。

 昨日の残りのキノコスープとパンを温めたら、マリエッタ特製の朝食の完成だ。

 食卓に並べ、グリージャを呼ぶ。


「グリージャ、食事の用意ができたよ!」


 朝に弱いグリージャだったが、食事ができたとなれば起きてくる。

 欠伸をしながら、椅子に跳び乗った。


「今日のオムレツは、チーズ入りなの」

『まあ、すてき!』


 食材を与えてくれる森の生き物たちに感謝し、マリエッタとグリージャは食事を始める。

 まずは、新鮮なコッコの卵で作ったオムレツから。

 ふんわり巻いた卵は、黄金色に輝いていた。そこに、真っ赤なトマトソースをかける。

 ナイフを沈め、一口大にカットした。

 卵に包んだチーズが、みょーんと伸びる。それを、口の中へと運んだ。


「んんんんっ!!」


 あまりのおいしさに、マリエッタの足がパタパタと動いてしまう。

 グリージャも、口の端にトマトソースを付けた状態で、尻尾をピーンと立たせていた。

 最高! と、ふたりの声が重なる。 


 マリエッタが夜霧の森の魔女の家にやってきてから、早くも一週間が経った。

 料理をしたり、庭周辺を冒険したり、野草を摘んだりと忙しい日々を過ごしている。

 食料は豊富にあり、困らなかったが限りあるものだ。いつか、買いに行かないといけないだろう。


「夜霧の森の魔女は、お買い物はどうしていたの?」

『竜に乗って、ぴゅうっと街まで飛んで行っていたみたい』

「へえ、そうなんだ」


 夜霧の森の魔女の家から街まで、徒歩だと三時間ほどかかるらしい。

 往復で六時間である。

 そのような長い距離を、歩けるものかと心配になってしまった。


『あなたも、何か使い魔を召喚したらいかが?』

「うーん。どうししましょう」


 正直、使役する自信はない。

 それに、自分の力だけで生活したい、という野望もあった。


「街に行かなければならない状況になったら、考えてみようかな」

『それがいいですわ』


 街に行くときは、姿を変えたほうがいいという助言を受ける。


「それは、どうして?」

『あなた、自身の姿を忘れましたの? 〝嫌われ者の、夜霧の森の魔女〟ですのよ?』

「そうだったわ!」


 そういえば、屋根裏部屋に変化の巻物がたくさんあった。あれは、街に行くときの変装用だったのかもしれない。


「街の人達は、太陽が昇らなくて、大変だったでしょうね」

『それはもう!』


 太陽が昇らなかった期間は、一年間。それでも、街の人々にとっては大きな迷惑だったらしい。


『畑の作物は腐ったり、地面のぬかるみから馬車の行き来が難しくなって物流が滞ったり、霧の発生で冒険者が遭難しかけたり……まあ、いろいろですわ』


 ここへやってきていた騎士が、夜霧の森の魔女と戦いながら被害状況を捲し立てていたらしい。

 思っていた以上に、街への被害は深刻だった。


「なんてことを……! 謝って、許してもらえるのかしら?」

『さあ?』


 グリージャは許してくれた。けれども、領主や領民達はそうもいかないのかもしれない。騎士達だって、夜霧の森の魔女を敵と認識し剣を抜くだろう。


 ごめんなさいと謝るだけでは、許してもらえない。

 グリージャが言っていた話を思い出す。

 ならば、どういうふうに接すればいいものか。

 今のマリエッタにはわからなかった。


「どうすればいいのかわからないけれど、とりあえず、今日はベリー摘みに行かないと」

『能天気なお方だこと』

「グリージャ、ありがとう」

『褒めていないので!』


 そんなわけで、マリエッタは森にベリーを摘みに行く。

 このシーズン、森に自生しているのは霜ベリー。

 冬の雪降る前の、霜が降りるシーズンに実を生らす。

 湿気に強く、霧雨が多かった中でも、しっかり実を付けているらしい。

 グリージャの案内で、霜ベリーがある場所を目指した。


「やっぱり、パンにはジャムを塗りたいよね」

『そうですわね』


 魔女の家には、まったくと言っていいほど甘い物がなかった。

 キャラメルソースばかりでは物足りなくなってきたので、こうして森にベリーを摘みに出たというわけである。


 森の中は、霧の影響か一週間経ってもじめじめしていた。森の状況は、良好とはいえない。夜霧の森の魔女が、太陽の光を独り占めしてしまった弊害だろう。

 木々は色あせ、大地に根を下ろす草花は元気がない。

 マリエッタは魔法を使い、大地の水はけをよくし、植物には魔力を分け与える。すると、元気を取り戻すのだ。


「森がダメになると、魔物を呼び寄せてしまうって、本で読んだことがあるの」

『ええ……。実際、この森は以前に比べて、魔物が多くなりましたわ』


 マリエッタは魔物避けの魔法をかけてあるので、接近どころか、気配すら感じない。

 ただ、完璧な魔法はないので、グリージャから気を付けるようにと言われている。


『魔物よりも、警戒すべきは騎士かもしれませんわ』

「そうね」


 しばらく歩いた先に、霜ベリーの自生している場所にたどり着く。

 それは、マリエッタにとって初めて見る、野生のベリーであった。


「わ……!」


 真っ赤に入れた霜ベリーを、ひとつ手に取った。

 霜が降りて、実の表面が薄く凍っている。


『食べてみてくださいまし。とっても甘いので』


 勧められるがまま、マリエッタは霜ベリーを口に含む。

 薄氷は舌の上で一瞬にして溶け、果肉を噛むと甘い果汁がじゅわっと溢れる。


「冷たい。それから、甘い!」

『そうでしょう? 霜ベリーは、ベリーの中で一、二を争うほど、甘いベリーでしてよ』


 冬の寒い気候の中で果肉が凍らないように、実にたっぷりと糖分を蓄えているらしい。


「これでジャムを煮たら、絶対においしいに決まっているわ」

『ええ!』


 マリエッタはせっせと、ベリーを摘んでカゴに入れるという作業を繰り返す。

 カゴがいっぱいになる前に、背後から声がかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ