彼女達の事情
先ほどアルマはマリエッタが作る料理を、素人の真似事だと言っていた。
それなのに、マリエッタのお菓子を絶賛してしまった。
アルマはさらなる墓穴を掘る。
「こ、この固形ジャムがおいしいだけで、料理の腕前がいいわけでは」
「その固形ジャムを作ったのも、わたくしです」
「え……、そうなの、すごい」
素直な感想がアルマから零れてしまう。
すぐさまハッとなり、口を閉ざすも後の祭りだった。
ゾフィアが呆れた様子で指摘する。
「もしやあなた方は皆、ディディエ様と結婚するマリエッタが羨ましくて、粗探しをしていたのでは?」
アルマはギクッと肩を震わせ、エマは目を伏せる。
ローズだけはカラッとした様子で認めた。
「やはり、わかってしまいましたか? そうなんです。私達、ゾフィア嬢の言うとおり、ディディエ様と結婚話が浮上していたのに、できなかった面々なんですよ!」
「なっ、ローズ嬢、お待ちになって!」
アルマが慌てた様子で言うも、少しだけ遅かった。
「見てくださいよ、アルマ嬢。マリエッタ様のそつのなさを。ぽややんとしているようで、お茶会のマナーはしっかりしているし品もあって、貴族の私達に交ざっていてもまったく違和感がない。魔女だって話ですけれど、マリエッタ様は良家……いいや、それ以上のお育ちのお方ですよ」
アルマはローズの発言に対し、否定する言葉が浮かばなかったのか、唇をぎゅっと噛みしめる。
「アルマ嬢、認めてしまいましょう。マリエッタ様は、私達が三人で束になっても、勝てるようなお方ではありません」
エマも諦めた様子で言う。
アルマは盛大なため息を吐いたあと、マリエッタに謝罪した。
「マリエッタ様、その……酷い意地悪を言ってしまい、申し訳ありませんでした」
「いいのよ、気にしないで」
「マリエッタはそう言っているけれど、しっかり反省するように!」
ゾフィアは厳しく言ったものの、すぐに表情を和らげる。
「なーーんて、偉そうに言ったけれど、私もディディエ様に選ばれたマリエッタを嫉妬して、嫌がらせをしてしまったのよ」
アルマとエマはどういう反応をしていいものか困っている様子だったが、ローズだけは笑い始めた。
「結局、私達は同じ穴のムジナだったんですね!」
「そうなの。マリエッタは寛大で、私のときも許してくれたのよ」
「ゾフィア嬢は何をしたんですか?」
「私はお酒がたっぷり染みこんだお菓子を出したり、晩餐会の前に利尿効果が高い紅茶を飲ませようとしたり」
「うわあ、私達のやったことがかすみそうなことをしたんですね」
「そうよ」
アルマは思わず「胸を張って答えることではないような……」と言ってしまう。
そのやりとりを聞いたエマは、ついに堪えきれなくなったのか、笑ってしまった。
「ご、ごめんなさい。笑うような話ではないのに……」
マリエッタは首を横に振り、大丈夫だと答える。
「あとは王太子殿下の急な参加を告げずに、間違った席に座らせて恥をかかせようとして――本当に、ごめんなさいね」
謝罪後、ゾフィアはアルマやエマ、ローズのことをじっと見つめる。
しばし考えるような仕草を取ったあと、話し始めた。
「今日のあなた達、少しおかしいわ」
「おかしい、と言いますと?」
アルマの返しに対し、ゾフィアは「特にあなたがおかしいの」と指摘する。
「気に食わない相手に対して、ストレートな物言いをするお方ではなかったでしょう? 何かあったのですか?」
アルマとエマ、ローズの三人は顔を見合わせ、なんとも言えないような表情でいる。
ゾフィアの言葉を否定する者はいなかった。
この話題はこのまま流れると思いきや、ローズが思いがけないことを打ち明ける。
「実は私達、嫁き遅れになるかもしれないんです」
「なんですって!?」
ハウトゥ大国でも指折りの名家の娘達がなぜ、結婚相手が見つからないのか。
それには共通の理由があるという。
「どうしてそんなことになっているのよ」
「父親が結婚相手を探さないので」
三人に共通していたのは、ディディエが結婚相手の候補にいたこと。
「けれどもそれは、ゾフィア嬢の動向を見ながら交渉する、と父が言っていたんです」
父親にどうなっているのかと聞いても、ディディエは今、クリスタリザーシーの災害で忙しく、結婚なんてしている暇はないという返答があるばかりだったという。
やっとのことでクリスタリザーシーの情勢も落ち着き、今度こそ結婚話が進むだろうと思っていた矢先、ディディエの婚約発表が王都に届く。
「相手はゾフィア嬢ではなく見ず知らずの女性。貴族ではなく、魔女という噂が流れて、とっても驚きました」
アルマとエマ、ローズの三人はよく集まって茶会を開く仲だったが、ディディエが婚約者候補だったことは話していなかったらしい。
「婚約の報を聞いて、初めて私はアルマ嬢やエマ嬢に、打ち明けたんです」
そうしたら、ローズと同じようにアルマやエマもディディエと結婚する話があったことを知った。
「父親に対する不信感と、ディディエ様の結婚相手への嫉妬、結婚できないかもしれないという焦り……さまざまな感情が入り乱れて、マリエッタ様を糾弾するような行動に出てしまいました」
ゾフィアとアルマ、エマ、ローズの三人は、奇しくも同じような状況にいたらしい。
今から結婚相手を探すとなれば、同じ年ごろの男性は格下の家に生まれた者しかいない。
彼女達から見て格上の家に生まれ、かつ爵位を持つ、もしくはこれから継承するような同年代の男は、すでに婚約者がいるか結婚してしまっているのだ。
「父も母も、格下相手との結婚なんて望んでいないでしょう」
もしも結婚するとしたら、親子ほども年が離れた貴族の後妻である。
アルマは頭を抱えながら、自らの気持ちを爆発させる。
「ディディエ様と結婚できるかもしれないと聞いて、何年も待っていたのに、できないどころか、父親よりも年上の男性に嫁ぐなんて、我慢できません!!」
そんな感情のすべての鬱憤が、マリエッタへの攻撃として現れてしまったのだ。
「マリエッタ様、ごめんなさい。あなたは本当に何も悪くないのに……」
「いいえ」
それ以上、マリエッタは何も言えない。
意にそぐわない相手との結婚が苦しいのは、よく知っているから。
ここでエマが、この先の身の振り方について教えてくれた。
「実は私達、このお茶会が終わったあと、修道院に身を寄せる予定なんです」
「ど、どうして!?」
マリエッタは驚き、思わず理由について聞いてしまう。
「皆、父親が探す結婚相手に期待ができないからなんです」
貴族女性として生まれたからには、家の繁栄を願って結婚しなければならない。
そのために美しいドレスや宝飾品などが与えられ、教養や礼儀を身につけながら生きてきたのだ。
それに反するというのは、貴族女性として恥ずべきことでもある。
「けれども父が貴族としての正しい在り方を見せてくれないと、応えようがありません」
後妻として嫁いだ者達の中には、息子や娘達から財産泥棒だと詰られたり、親族から無視されたり、と不幸な話しか聞かない。
「そのような結婚をするために、私達は生まれたわけではありません」
酷い扱いを受けるくらいであれば、修道院に行って神に仕えるほうがいい。
奉仕活動をすれば、国の発展に繋がるはず。
そう考え、修道院へ身を寄せることを計画していたようだ。
「そんな話し合いをする中で、ゾフィア嬢からマリエッタ様が参加するお茶会へのお誘いが届いたものですから」
「一言、物申してやろうと思ったわけです」
ローズだけは「私は反対したけれど」なんて言葉を付け加える。
すべての話を聞いたゾフィアは、すっかり同情してしまったようだ。
「あなた達も辛い思いをしていたのね」
話しているうちに浮かんだ涙を拭うアルマとエマだったが、ローズだけは違った。
「なーんか、話しているうちに父親に対して、腹が立ってきました!」
このあと大人しく修道院に身を寄せる計画だったようだが、スッキリしないままで行くのもどうかと思ったという。
「お父様に少しギャフンと言わせたいです」
「ぎゃふん?」
ローズの奔放な物言いに、アルマとエマはぽかんとした表情を浮かべる。
エマがローズを諫めるように言った。
「その、ローズ嬢、私達が修道院に行くことが、お父様達にとって痛手になるのでは?」
「でも、その様子を見ることはできませんよね?」
アルマは真剣な表情を浮かべつつ「それはたしかに」と呟く。
迷いが出てきた三人に、ゾフィアが提案する。
「いい話があるの。聞いてみない?」




