お茶会
ラウンジで待っていると、三人の令嬢が登場する。
アンハルト侯爵令嬢のアルマ。
ビュッセル伯爵令嬢のエマ。
ゴーン伯爵令嬢のローズ。
どの令嬢も美しく、華があった。
マリエッタは圧倒されそうになるも、なんとか笑みを浮かべて迎えた。
ここはホスト側である、マリエッタのほうから声をかけないといけない。
勇気を振り絞って、挨拶した。
「みなさま、ようこそ。お会いできて光栄だわ」
ゾフィアの紹介で、マリエッタは自らを名乗る。
「彼女はクリスタリザーシーからやってきた、ディディエ様の婚約者であるマリエッタよ」
「はじめまして」
スカートの端を持って膝を折る。下げていた頭を上げると、一瞬ピリッとした空気を感じたが、先頭に立っていたアルマはにっこり微笑んだ。
「はじめまして、マリエッタ様。私はアルマと申します」
アルマは美しいブルネットの髪を三つ編みに結い上げた、美しい娘である。
ドレスの着こなしも洗練されていてそつがない。
「はじめてお目にかかります、エマと申します」
エマは控えめな様子ながらも、優雅でおしとやかな雰囲気が魅力的だった。
「はじめまして、ローズです!」
ローズは明るい笑みを浮かべつつ、マリエッタに挨拶してくれた。
「どうぞ、おかけになって」
「ありがとうございます」
ここでコンシェルジュの手によって紅茶が運ばれてくる。
タイミングはばっちりだ、とマリエッタは内心思った。
紅茶はコンシェルジュに、王都で流行っている一番摘みの茶葉を使って淹れるよう頼んでいたのである。
皆、一口飲んでおいしいと言ってくれた。マリエッタは内心ホッと胸を撫で下ろす。
何を話せばいいものか、なんてマリエッタが考えている間に、アルマが話し始めた。
「ディディエ様が結婚すると聞いて、いったいどんなお方を選ばれたのかと気になっておりました」
エマもこくりと頷き、ローズは「私も!」と調子を合わせる。
「まさか、貴族のお生まれでないお方だったなんて。魔女とお聞きしましたが、本当なのでしょうか?」
エマとローズは何も言わなかったが、マリエッタの返答を待っているように思えた。
「わたくしは――」
発言に関して気をつけないと、ディディエの名誉を傷付けてしまう。
ただマリエッタは、魔女であることに誇りを持っていた。
魔女の肩書きのないマリエッタならば、ディディエも、クリスタリザーシーも救えなかったのだ。
それにディディエから魔女であることを伏せておくようにとは言われていない。
まっすぐアルマを見つめ、マリエッタは答える。
「ええ、魔女よ」
すると、アルマとエマ、ローズは驚いた表情を浮かべていた。
これまで大人しくしていたエマが物申す。
「ディディエ様はずっと、ゾフィア嬢と結婚するのではないか、と噂されておりました。それがまさか、魔女と結婚されるなんて」
ローズも続けて反応する。
「びっくりしました! 一時期お父様が、ディディエ様との結婚を検討している時期があったのですが、ゾフィア嬢と結婚されるだろうから遠慮したんです」
こういう結果になるのであれば、名乗り出ていればよかった! とローズはハッキリ言う。
すかさず、ゾフィアが注意する。
「あなた方、マリエッタに失礼よ」
それに対し、アルマは悠然とした様子で言葉を返した。
「異国の王女様と結婚するならまだしも、どこの生まれかもわからない魔女に、敬意を払う必要などあるのでしょうか?」
「アルマ嬢、発言に気をつけなさい! ディディエ様が選んだ相手にそのような態度を取ることは、ディディエ様を侮辱することと同じなのよ!」
「ディディエ様はディディエ様、マリエッタ様はマリエッタ様でしょう」
はじめにマリエッタが感じていた空気のぴりついた様子は、気のせいではなかったのだと気付く。
しん、と静まり帰る中、エマがマリエッタに話しかけてきた。
「普段、マリエッタ様はクリスタリザーシーの地で何をされているのでしょう?」
「森の奥で暮らしているわ」
「森で? どういった暮らしを?」
「薬草を摘んだり、畑を耕して野菜を育てたり、料理を作ったり」
エマは眉を顰め、非難するような眼差しでマリエッタを見ていた。
アルマは追い打ちをかけるようなことを言ってくる。
「料理だなんて、使用人がすることですのに。ディディエ様は召し使いと結婚されるおつもりなのでしょう?」
マリエッタはなんと返していいのかわからず、口を閉ざす。
「料理と言っても素人の真似事なんでしょう? まさかそんなものを、ディディエ様に食べさせているのではありませんよね?」
「それは――」
気まずい空気になりかけていたが、ローズがお菓子を食べて「うわ、おいしい!」と声をあげた。
「このお菓子、とってもおいしいですよ! みなさん、食べてください」
そう言って勧めたのは、マリエッタが作った固形ジャムのなんちゃってチーズパイだった。
アルマとエマは皿を目の前に突き出されたので、手に取って食べ始める。
「あら、本当においしい」
「初めて食べるお菓子ですね」
ゾフィアも気になったのか、一つ摘まんで頬張る。
「上品な味わいで、今までにないお菓子ですね」
「どこのお店のお菓子なのでしょう?」
「お土産で買って帰りたいです!」
皆、マリエッタが作ったお菓子と知らずに絶賛していた。
ゾフィアがコンシェルジュを呼んで、詳しい話を聞こうと提案する。
「追加で持ってきてもらいましょう!」
ここでマリエッタがお菓子について説明する。
「実はそのお菓子、わたくしが作った物なの」
その言葉をきっかけに、再度気まずい空気となった。




