調査結果
翌日――マリエッタは王宮へ向かうディディエとリードを朝から見送ったあと、お茶会の準備を行う。
ドレスや装着するアクセサリー、髪飾りなども選んだ。
コンシェルジュにお願いし、ドレスを着せてくれるメイドも派遣してもらう。
化粧を施し、髪も結って、マリエッタの身なりは整った。
鏡に映る姿は、我ながらとてもきれいではないか、なんてマリエッタは思ってしまう。
これもメイド達の腕前がいいからなのだろう。
ディディエにも着飾った姿を見せたかったが、帰ってくるのは夜の遅い時間だと言っていた。
今日のところは、グリージャとメルヴ・トゥリーへお披露目するだけにしておこう。
メイドやコンシェルジュがいなくなったあと、マリエッタは深いため息を吐く。
「はあ、ドキドキするわ!」
『こういうお茶会こそ、あなたの本業ではありませんの?』
「スニューウにいたときは、同じ年頃の女の子達とお茶会を開いていたけれど、十歳からジルヴィラ国にいて、幽閉されていたから、久しぶりなの」
『そうでしたわね』
同年代の娘と喋ったのも、クローデット以外ではゾフィアが初めてである。
仲よくなれるだろうか、とマリエッタはドキドキしていた。
「そうだわ! 一品、ちょっとしたお菓子を作ってみようかしら?」
『あと一時間くらいでやってくるというのに、何を作るのですか?』
「火を使わない、簡単なお菓子よ」
材料はリンゴの固形ジャムとクリームチーズ、胡桃、クラッカーの四つ。
固形ジャムを薄くカットし、上にクリームチーズを塗って、その上にも固形ジャムを乗せて重ねていく。
これをクラッカーの上に載せて、上に胡桃を載せたら完成。
「固形ジャムのなんちゃってチーズパイの完成! グリージャ、味見をしてみて!」
『ええ、わかりました』
グリージャは口にした瞬間、ハッと目を見開く。
『チーズケーキみたいで、おいしいですわ!』
「本当? よかった!」
すでにラウンジにはお菓子がたっぷり用意されている。
マリエッタは固形ジャムのなんちゃってチーズパイを、テーブルの端に置いた。
「これでよし、っと!!」
あとはご令嬢方を待つばかりである。
残りは三十分ほどくらいか。
なんて考えていたら、ゾフィアの訪問がコンシェルジュより知らされた。
「お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん」
しばらく待つと、ゾフィアがやってくる。
「ごめんなさいね、少しお話ししたくて、早めにやってきたわ」
「ええ、どうぞ」
マリエッタは部屋に案内し、コットンキャンディ茶を振る舞う。
「まあ、ありがとう! 喉が渇いていたの!」
ゾフィアは頬を赤く染めつつ、コットンキャンディ茶を飲む。
「はあ、本当においしいわ」
「気に入ってくれて嬉しいわ」
ゾフィアは緊張の面持ちで、ディディエやリードはいるのかと聞いてくる。
「ディー様とリード様は、国王陛下から呼びだされているみたいで、不在なの」
「そう、よかったわ。あの二人はなんだか見透かされている気がして、ドキドキしちゃうのよ」
「わかるわ」
絶対に隠し事なんてできない。
「それで、話したいことなんだけれど、仕事が速い探偵が、早速お三方について調べてきたのよ!」
まず、アンハルト侯爵から話を聞くこととなる。
「アンハルト侯爵はここ数年、夫人非公式の愛人に酷く入れ込んでいるみたいで、お屋敷にはほどんど帰ってこないみたい。夫婦仲は冷え切っていて、夫人は放置しているようなの」
実権はアンハルト侯爵夫人が握っているようで、なんら問題はないという。
「けれども愛人に夢中になるあまり、娘の結婚相手探しについては長年放置気味で、最近になって慌てて探し始めたみたいだけれど、なかなか相手が見つからないそうよ」
続いてビュッセル伯爵について、ゾフィアは調査結果を発表する。
「ビュッセル伯爵は家族思いで夫人のことを深く愛しているようだけれど、最近事業に失敗したらしくて、莫大な借金を返すために、どんな仕事でもするみたい。最近、取引を行っていないジルヴィラ国から許可されていない薬を輸入したとかで、国から厳重注意を受けたそうよ」
最後にゴーン伯爵について。
「ゴーン伯爵は魔法事業を進める協力者で、騎士隊を管轄下に置いていることから、非協力的な者達に制裁を加えるようなことをしているみたいね」
どうやら三人が三人とも、世間で人目をはばからないといけないことに手を染めているようだ。
「まあ、アンハルト侯爵の愛人問題については、貴族社会では珍しいことではないけれど」
「そ、そうなの!?」
「ええ。私のお父様はお母様一筋だったけれど、他家では愛人を迎えることはごくごく普通のことみたい」
男性だけでなく、女性でも愛人を迎えている者は少なくないという。
「でもね、相手に伝えないまま、愛人を迎えるというのは禁忌なのよ!」
「愛人を迎えていることに変わりはないのに?」
「ええ、そうよ。愛人にかかるお金を夫婦間で共有し、しっかり管理するの。それが規則なのよ」
隠しているということは、どこか後ろめたい事情があるということだとゾフィアは指摘する。
「アンハルト侯爵夫人も愛人に気付いていて放置しているというのも、問題よね。夫婦として終わっているわ」
「お、終わってる……!」
マリエッタの両親は仲がよく、愛人なんて影すらなかった。
そのため、そういった貴族の裏事情を聞いてマリエッタはショックを受けてしまう。
「あなた、他人の話を聞いただけでそんな顔をして、自分の夫が愛人を迎えたいなんて言ったらどうするのよ」
「ディー様が愛人!?」
考えただけで脳天に雷が落ちたような衝撃を受ける。
けれども、マリエッタは愛人について否定してはいけないと思った。
「あら、以外ね。あなたみたいないい子ちゃんは、愛人なんて絶対に嫌、って言うと思ったのに。案外、割り切った関係なの?」
「い、いいえ、違うわ。でも、わたくしだけは、愛人の存在を否定してはいけないの」
「どうして?」
「ディー様は、ディー様のお母様は――っ!!」
国王陛下の愛人である。
それに関わる悲劇が、クリスタリザーシーで暮らさなければいけなくなったディディエの事情が絡んでいるのだ。
「だ、大丈夫! ディー様が大事に想っている女性を、わたくしも愛せるはずだわ」
こみ上げてくる気持ちが涙となって出てきても、世界でただ一人、マリエッタだけは受け入れなければならないのだ。
ゾフィアもそれに気付いたのか、ハッとなる。
「ごめんなさい! ディディエ様のお母様は……そうだったわね。忘れていたわ」
「いいえ、いいの」
おそらくディディエは愛人なんて迎えないだろう。
わかっているが、もしものときを考えておくと傷は浅くなるかもしれない。
そんなふうにマリエッタは考えている。
「ゾフィアのおかげで、この国の愛人事情について知ることができたわ」
「いいえ……」
なんとも言えない雰囲気になってきたところで、コンシェルジュがやってくる。
「お嬢様方がいらっしゃったようなのですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん!」
お茶の用意もお願いし、ゾフィアとマリエッタはラウンジで待つこととなった。




