保存食を作ろう!
マリエッタは腕まくりし、魔法の鞄から保存食にする野菜を取りだす。
カブにタマネギ、ニンジン、キャベツにカリフラワー、トマト。
王都ディアマンテの郊外には魔法で管理された畑があるようで、季節に関係なく豊富な野菜が販売されている。
冬にトマトがあるなんて、とマリエッタは不思議な気持ちでいた。
ただそのトマトも、地面に落としてしまったため、傷みかけている。
早く加工し、保存食にしなければと思った。
保存方法にはいくつか種類があり、砂糖を入れて煮詰めるジャムに砂糖と水で煮込むコンポート、砂糖と水で作ったものに漬け込むシロップ漬け、果物の果汁などから作るジュレジャム、徹底的に煮固めて作る固形ジャム、野菜を煮汁や塩、水で漬ける瓶詰め、さまざまな食材を酢と塩で保存する酢漬け、魚や肉などを油に漬けて作るオイル漬けなどがある。
今回は野菜が中心なので、酢漬けメインになるだろう。
グリージャは欠伸をしつつ、見守ってくれるようだ。
メルヴ・トゥリーはお手伝いすると言って、刃先をナイフのように鋭くさせていた。
「じゃあ、メルヴ・トゥリーはここにある野菜の皮を剥いて、切ってくれる?」
『ワカッタ!』
メルヴ・トゥリーに下ごしらえを任せている間、マリエッタは調理に取りかかる。
まず、早急に加工する必要がある、落として潰れかけたトマトから手を付け始めた。
トマトをしっかり洗って、水分を飛ばす。
潰れかけている箇所はナイフでそぎ落とす。しかしながら腐っているわけではないので、マリエッタはそのまま口に放り込んだ。
「うん、甘くておいしいトマトだわ!」
グリージャにも食べるのを手伝ってもらった。
『まあまあおいしいわね』
「でしょう?」
鍋にたっぷりの水を張ってトマトを入れて煮込み、くたくたになったらしばし冷水に浸しておく。
別の鍋でみじん切りにしたタマネギをしんなりするまで炒める。
トマトは水から上げて、タマネギと一緒にペースト状にする。
乳鉢でいちいち擂るのは大変なので、ここで魔女術を使う。
「――細かく砕いて液化せよ、回転刃!」
あっという間にトマトとタマネギがピューレになる。
このピューレに塩、砂糖、オレガノ、ローリエなどの薬草を加えてしばし煮込んで、煮沸消毒させた瓶に詰める。
トマトソースの完成だ。
「このトマトソースがあったら、スープや煮物がすぐできるわね!」
『楽しみにしているわ』
「ええ!」
残りの野菜は、種類ごとに酢漬けにする。
酢に水、砂糖、ローリエで作ったビネガー液と野菜を瓶に詰めていく。
色とりどりの酢漬けの瓶をマリエッタは並べていった。
『ワア、キレイダネエ』
「でしょう?」
傷みそうな野菜はすべて保存食として加工できた。
ついでにリンゴも加工する。
果肉と皮、種に切り分け、そのすべてを鍋でぐつぐつ煮込む。
途中で皮や種を抜き、魔法でピューレ状にする。
砂糖、レモン汁を加えて煮詰めたものを、バットに流し込む。
しばし冷やしておいたら、ゼリーみたいに固まるのだ。
魔法書によると、リンゴに含まれる成分に糖分を加えることによって、ゲル化するのだとか。
本当に固まるのか、マリエッタはわくわくしてしまう。
固まるまで数時間かかるので、あとのお楽しみだ。
「これで保存食作りは終わりね」
マリエッタはホッと胸を撫で下ろす。
ふと、静かになっていることに気付いてグリージャがいた長椅子を見ると、気持ちよさそうに眠っていた。メルヴ・トゥリーもカーテンレールにぶら下がってうとうとしている。
マリエッタも少し休もうと思って隣に座った。
疲れていたのか、グリージャやメルヴ・トゥリーと一緒にうたた寝してしまった。
◇◇◇
コンシェルジュが扉を叩く音で目覚める。
どうやら昼食の時間らしい。
グリージャは目覚めていたようで、マリエッタの顔を覗き込んでいた。
「わたくし、いつの間にか眠っていたみたい!」
『いいご身分ですこと』
昼食が用意されているラウンジに行くと、すでに料理が用意されていた。
アンチョビサラダに、鹿のパテ、冬野菜のコンソメスープに、豚すね肉のワイン煮込み、デザートは白桃とホイップクリームのムース。
メルヴ・トゥリーにはリンゴの固形ジャムに蜂蜜をかけたものを用意してみた。
『コレ、オイシイネエ!』
「でしょう?」
先ほどリンゴを使って作った固形ジャムは、しっかり固まっていたのだ。
マリエッタもあとでグリージャと一緒に食べてみようと思っている。
昼食もグリージャと半分こしながら、平らげたのだった。
午後からは魔法書をさらに読み込もう、なんて思っていたらゾフィアから手紙が届く。
アンハルト侯爵令嬢アルマ、ビュッセル伯爵令嬢のエマ、ゴーン伯爵令嬢のローズから返信が届いたという。
明日、宿のラウンジでお茶会を開くことが決まったらしい。
マリエッタはすぐさまゾフィアに手紙を書き、コンシェルジュに託す。
暗殺未遂事件の犯人は王太子だという方向性で調査が進められているようだが、念には念を入れて、彼女達の父親の情報を聞き出したい。
さらに、普段の王太子の様子も知ることができたら、と思っている。
頑張ろう、と改めて気合いを入れるマリエッタだった。
夜になると、ディディエとリードが疲れた表情で戻ってきた。
「おかえりなさい、ディー様、リード様」
「ただいま戻りました」
食事は国王陛下と一緒に食べてきたようだ。
「王太子殿下は依然として黙秘を続けているようなのですが、部屋から数種類の毒物が発見されたようで……」
「まあ!」
「王太子殿下はこうと決めたら絶対に口を割らないお方で、幼少期からの訓練の結果、自白剤も効かない。あとは拷問でもしないと、真実を聞き出すことはできないだろう、と国王陛下がおっしゃっていた」
「そう、だったのね」
やはり王太子が犯人で間違いないのか。
だとしたら、わかりやすく自分が参加した晩餐会で犯行に及ぶのだろうか、などとマリエッタは考えてしまう。
「この先、調査が進んだら、毒の入手ルートなども明らかになるでしょう」
また明日も、呼びだされているという。
「すみません、国王陛下に挨拶すらできない状況が続いて」
「いいえ、大丈夫! 明日はご令嬢方とここでお茶会を開くことになったの。退屈はしないだろうから、心配なさらないで」
「ええ……」
マリエッタも明日は戦いに挑むような気持ちで、お茶会に参加しなければと思った。




