食事を囲んで
黄金パンの最後の一口を食べきったグリージャが、マリエッタに問いかける。
『ねえマリエッタ、こういう料理は、作りたてが一番おいしいのでは?』
「ええ、そうよ」
『だったら、あの人達の黄金パンはあのように放置していてよろしいの?』
グリージャはディディエとリードの分の黄金パンが、一番おいしい瞬間を逃しつつあるのが心配のようだ。
「大丈夫なの。黄金パンには、新しい魔法書にあった魔法をお皿にかけていてね」
それは、〝できたて料理〟の魔法である。
「できたて料理の魔法がかかっていたら、食べ終わるまであつあつのままなのよ」
『まあ、そんな便利な魔法がありますのね!』
「そうなの! すごいでしょう?」
そんなわけで、黄金パンはいつでもおいしい状態でディディエとリードに提供できるのだ。
「グリージャ、ディー様とリード様の黄金パンを心配してくれてありがとう」
『別に、あのお方達が冷え切った黄金パンを食べても、まったく問題ないのですけれど!』
「ふふ、またそんなことを言って」
グリージャの言動にほっこりしている場合ではなかった。
マリエッタは調理を再開させる。
二品目はスープを仕込む。
地面に落下させて少し傷んだ野菜をタマネギ、トマト、カブをみじん切りにし、水を張った鍋に入れる。
続いてスライスしたニンニクを炒めた油で鶏肉に火を通し、これも鍋に加えた。
タイム、オレガノなどの薬草を加えたあと、塩、コショウをぱっぱと振ってから魔法を唱える。
「――ぐつぐつ煮込んで、あったかいスープよ!」
魔法陣が浮かび上がり、鍋が光り輝く。
一瞬の間に、スープが完成した。
味見をしてみたのだが、野菜はほくほくやわらかく煮込まれていて、味もおいしい。
「よし!」
他にホウレンソウのクリーム煮に、ジャガイモのグラタン、白インゲンと根菜のキッシュ、と野菜中心のメニューが完成した。
ワゴンに完成した料理を並べ、ラウンジに運ぶ。
事前に約束していた時間となり、ディディエとリード、メルヴ・トゥリーがやってきた。
「市場で買った食材で、いろいろ作ってみたわ」
「おいしそうですね」
「マリエッタさん、大変だろうに、作ってくれてありがとう」
「いえいえ」
メルヴ・トゥリーには、リンゴの蜂蜜漬けをお湯で溶いたものを用意してみた。
『ワア、オイシソウ!』
「お口に合うといいけれど」
『嬉シイ!』
オススメは黄金パンだと紹介する。
「黄金パンはディー様が買ってきた、バゲットを使って作ったの」
「これがあの、金属のように硬いバゲットだなんて」
「信じられないな」
神に感謝の祈りを捧げてから、いただくことにした。
ディディエとリードは黄金パンが気になっていたのか、真っ先に食べ始める。
「これは――!?」
「なんと!!」
二人とも一口食べるなり、驚いた表情を浮かべる。
「表面はカリッと香ばしく、中はシュワッとしていて……おいしい!」
ディディエは真顔で感想を述べる。
リードはこくこく頷きながら、黄金パンを食べ進めていた。
どの料理もおいしい、おいしいと言ってくれるので、マリエッタは嬉しくなる。
メルヴ・トゥリーも新作の蜂蜜リンゴ水を気に入ってくれたようだ。
「マリエッタ、慣れない場所で料理を作って大変だったでしょう?」
「みんながおいしいって言って食べてくれることが、何より嬉しいことなの。だから気にしないでね」
「ありがとうございます」
ただ明日からは、宿の料理を食べることにするという。
「おそらく明日は朝が早いですし、帰りも遅いと思われますので」
国王陛下と魔法開発の問題について話し合うようだ。
マリエッタも来るかと誘われたものの、ゾフィアから連絡があるかもしれないので、今回は留守番をしておくことにした。
「明日は野菜の加工をしながら、のんびり過ごすわ」
「わかりました」
食後のデザートとして作ったチョコレートタルトを囲みながら談笑する。
楽しい夜は、あっという間に過ぎていった。
◇◇◇
翌日――ディディエとリードはマリエッタが起きるよりも早く、出かけていったらしい。
コンシェルジュがディディエからメッセージカードを預かっていた。
『いい子にしているように書いていますの?』
「いいえ、何かあったらすぐに呼ぶようにってあるわ」
『まあ、父親みたいなことを言いますのね』
「ふふ、父親みたいでも、こうしてメッセージをくれるのは嬉しいわ」
朝食をコンシェルジュがラウンジに運んでくれる。
三種類のサンドイッチとカリカリに焼いたベーコン、カボチャのポタージュに茹で卵、温野菜のサラダ――豪勢な朝食が用意された。
量は二人分あるのではないか、と思うくらいである。
「ごゆっくり」
「ありがとう」
一人では食べきれないので、グリージャに協力してもらう。
「グリージャ、朝食、一緒に食べましょう?」
姿は見えなかったのだが、声をかけるとどこからともなく登場する。
『仕方ありませんわね!』
「ありがとう!」
途中でメルヴ・トゥリーも起きてきた。
手にはディディエが作ったらしい、蜂蜜水がある。
『メルヴ・トゥリーノタメニ、作ッテクレテイタ、ミタイ』
「よかったわね!」
『ウン!』
ほどよくぬるくなっていて、おいしいという。
「グリージャ、わたくし達も食べましょう」
『その前に! きちんと鑑定魔法で料理を調べませんと!』
毒の混入していないか、確認してから食べるように言われてしまう。
「そうね、警戒に越したことはないから」
マリエッタは鑑定魔法を発動させ、毒の有無を確認する。
「大丈夫みたい」
『だったら、いただきましょう』
どの料理もおいしくて、朝から感激してしまう。
グリージャも『まあまあですわね』と言いつつも、瞳はキラキラ輝いていた。
あっという間に食べてしまう。
「食べ過ぎてしまったわ。少し休憩……」
『動かないと、脂肪になってしまいますわよ!』
耳が痛くなるような言葉を言ってくれる。
マリエッタは重たくなった腰を上げ、野菜の保存食作りを開始することとなった。




