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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第二部・二章 事件について調査せよ!

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魔法開発について

 青果店の店主は、トマと名乗る。

 トマは市場に近い場所にある、大衆酒場へディディエとマリエッタを案内した。

 店の入り口には、〝魔法開発反対!!〟と書かれたポスターが貼られている。

 どうやら王都ディアマンテの魔法開発には、反体勢力がいるということがわかった。

 店内は思いのほか広く、円卓が三十ほどあるだろうか。そのほとんどが埋まっていて、わいわいと賑わっている。

 労働者階級の人達が常連のようだった。

 はつらつとした様子のおかみが、ジョッキを左右に三つずつ持った姿で迎えてくれた。


「いらっしゃい、トマさん! おや、そのお客さんは……!?」


 貴族がやってくるような店ではないからか、おかみは驚いた様子でいた。

 そんなおかみが円卓にジョッキを置くと、そこにいた客達もディディエとマリエッタを見る。


「なんだあ、お貴族様じゃないか!」

「こんなところになんの用事なんだあ?」


 好意的には聞こえない言葉の数々に、マリエッタはたじろぐ。

 なんと言葉を返せばいいのやら、なんて思っていたらディディエはマリエッタを背に隠すように、一歩前に出てきた。

 一気にぴりついて一触即発の空気となったが、トマが慌てた様子で間に割って入った。


「違うんだ。この人達は、王太子の騎士から俺を守ってくれたんだよ」

「トマ、それは本当か?」

「ああ、信じてくれ」


 トマはディディエのことをクリスタリザーシーの領主様だと紹介する。マリエッタはその婚約者だと。


「クリスタリザーシーの領主様だって!? うちの商店の穀物をたくさん買ってくれた領主様じゃないか!」

「うちのワインもたくさん注文してくれた、上得意様だ!」


 クリスタリザーシーは夜霧の魔女の雨のせいで、農作物がまったく育たなかった。

 そのためディディエは王都からさまざまな品物を買い付け、領民に通常の価格よりも安く提供していたのである。


「その節は大変助かりました」

「いいや、俺達も魔法開発反対していたから、商売があがったりだったんだ」

「王太子の野郎が、俺達との取引の大半を妨害しやがって……!」


 どうやらディアマンテの街の魔法開発を進める王太子と、反対する商人との間で衝突が起きているらしい。

 その辺の詳しい事情については、トマが詳しく話してくれるという。

 ここでおかみが提案する。


「込み入った話だろうから、裏にある休憩室を貸そうか?」

「そうしてくれるとありがたい」

「じゃあ、こっちにおいで」


 おかみの気遣いで、従業員用の休憩室を貸してもらえることとなった。

 そこはテーブルに椅子が四脚あるだけのシンプルな部屋である。

 おかみが「サービスだよ」と言って、麦芽酒と炙ったソーセージを持ってきてくれた。


「貴族様が口にする物じゃないだろうけどね」

「いいえ、ありがたくいただきます」


 ディディエはそう言って、麦芽酒を飲んだ。

 昨日、酒で毒殺されかけたのに、大丈夫なのかとマリエッタは心配になる。

 ディディエは涼しい表情を浮かべつつ、おかみに「おいしかったです」と感想を述べた。


「お口に合ったようで、何よりだよ。それにしても、いい飲みっぷりだねえ! っと、邪魔しちゃいけないね」


 おかみは「ゆっくりしておいきよ」と言っていなくなる。


「まったく、飲まないとやってられないな!」


 トマは履き捨てるように言ってから、麦芽酒を飲み干した。


「ぷはーーーー!!」


 マリエッタも飲んだほうがいいのか、と手を伸ばしかけたが、ディディエがテーブルの下で制する。

 無理をするな、と言いたいのだろうが、こういう場では出された酒を飲むことが信頼にも繋がる。

 マリエッタは麦芽酒のジョッキを両手で持ち、ごくごくと飲んだ。


「おお、いける口か?」

「嗜む程度だけれど」

「そうか、いいな!」


 ここにきて初めて、トマが明るい笑顔を見せる。

 やはり、飲んで正解だったのだ、とマリエッタは思った。


「すまない、本題に移ろう」


 市場の魔法開発について――。

 それは五年も前から出ていた話だったらしい。


「王太子の野郎が、市場の在り方を一新し、人と人との売買を撤廃させて、魔法で何もかも管理するとか言いやがって」


 そのようなやり方など受け入れることなどできない、と市場の商工会が反対をしたことから、計画は一時的に中断されていたそうだ。


「このまま皆で協力し、反対していたら話はいつか流れると思っていたんだが」


 王太子側は商工会が苦しむような圧政を強いてきたという。

 そういえばゾフィアの父親であるランゲンブルグ公爵も、王太子が進める魔法開発に頭を悩ませていると話していたような、とマリエッタは思い出す。


「さっきの穀物と酒を売る商人は、反対派の中でも過激派で、王太子が派遣した騎士を返り討ちにしていたんだ。その結果、王都での商売ができないよう、規制を強いられていたみたいで」

「それらの話は、まったく耳に入っていませんでした」

「上手く隠していたんだろうよ。ずる賢い王太子の野郎が思いつきそうなことだ」


 反対派の商人との取引を斡旋したのは、リードだったらしい。


「祖父は把握していたかもしれませんね」


 リードはクリスタリザーシーが大変な状況だったため、あえて耳に入れないようにしていたのかもしれない。


「ここ最近、王太子の騎士達が強行的な態度に出ることもあって」


 ただ市場の場所を明け渡して、商売のすべてを魔法で管理するだけでなく、魔法に精通していない者達は魔力を献上するように言ってきていたという。


「これまでは大人しくしていたが、今日ばかりは我慢できなくて、騎士達を怒鳴りつけてしまった」  


 もしもディディエがこなかったら騎士達に連行されていただろう、とトマは顔を青ざめさせながら口にする。 


「本当に助かった。ありがとう」


 トマは頭を下げ、改めてディディエに感謝したのだった。

 その後、おかみが気を利かせ、騎士があまり通らない裏口から出て行くように案内してくれた。

 トマとおかみの見送りを受け、酒場をあとにする。


「この辺りは魔法の回路が整備されていないので、大通りに出てから宿へ転移したほうがよさそうですね」

「使える場所と、そうでない場所があるのね」

「ええ、そのようです」


 マリエッタはディディエに続こうと一歩踏み出した瞬間、くらりと目眩を覚える。


「わっ!!」


 すぐさまディディエが反応し、マリエッタの体を支えてくれた。


「マリエッタ、大丈夫ですか?」

「ご、ごめんなさい。少し、お酒に酔っていたみたいで」


 麦芽酒は普段、食事のときの飲む酒よりも強かったようだ。

 先ほどまではなんとか歩けていたが、酒場から出た途端に緊張の糸が切れてしまったのだろう。


「大丈夫ですよ」


 ディディエはそう言って、マリエッタを横抱きにして歩き始めた。


「なっ、ディー様!?」

「宿までこうして送りますので、ご安心を」

「あ、安心なんてできないわ!!」


 無理して酒を飲んだ結果、恥ずかしい思いをしてしまう。

 大通りに出ても、ディディエはマリエッタを下ろそうとしない。


「あの、ディー様、わたくしはもう心配ですので。ディー様も病み上がりだし」

「いいえ、お気になさらずに」

「とても気になるわ!」


 道行く人々の好奇の視線をびしばし浴びながら、マリエッタはディディエと共に宿に戻ったのだった。

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