お買い物へ
ディディエとリードはマリエッタの料理を絶賛しながら、完食してくれた。
二人とも疲れている様子だったが、食後は顔色などもよくなったように思える。
「すみません、私のせいで、宿で待機していなければならない状況になってしまい」
「ディー様のせいではないわ。それに、ゾフィアがやってきてくれて、少しお話しできたの」
「ゾフィア嬢と、ですか?」
「ええ! お友達になったのよ!」
ディディエとリードは、信じがたいという表情でマリエッタを見つめる。
「マリエッタさん、ゾフィア嬢はディディエを訪ねてやってきたのだろう?」
「ええ。容態が気になっていたみたい」
「面会できないと断ったから、文句を言われたのでは?」
「いいえ、ゾフィアはディー様を心配していて、わたくしから容態を聞いて安心していたわ。それだけよ」
「ならばいいのだが」
昨日、ゾフィアが明らかにマリエッタへ敵対心を抱いているように見えたので、ディディエは心配したという。
「ゾフィアは言葉はきついかもしれないけれど、とってもいい娘よ。また、会う約束もしているの」
外出禁止令が解除されないことを踏まえて、宿でお茶会を開くことになった件も報告しておく。
「ゾフィアが昨日晩餐会に参加していた、アンハルト侯爵、ビュッセル伯爵、ゴーン伯爵のご令嬢方も紹介してくださるようで」
「マリエッタ、社交は無理しなくてもいいですからね」
「いいえ、わたくし、お茶会を楽しみにしているの」
これまで同じ年頃の娘と交流する機会がなかったのだ。
彼女らがどういう人物で、何を考え、話すのかマリエッタは楽しみにしている。
「少し、嫉妬してしまいますね」
「ディー様が?」
「ええ。私のマリエッタが、皆に知れ渡ってしまうのは、少し寂しいです」
「そんなことないわ! わたくしにとっては、ディー様が一番だから」
そう言ってディディエの手を握ると、嬉しそうにはにかむ。
ここでリードがごほん、ごほん! と咳払いした。
「私はそろそろ部屋に戻ろう」
「リード様、ゆっくり休んでね」
「ああ、そうしよう」
去り際にリードはマリエッタにあることを伝える。
「ああ、そうだ。外出禁止令は解けたようだから、気晴らしにディディエと買い物にでも行くといい」
「そうなのね! でも、ディー様も休んだほうがいいのでは?」
「いいえ、宿に引きこもっていたほうが、具合が悪そうで。マリエッタさえよければ、一緒に買い物に行きませんか?」
「ええ、行きたいわ!」
「よかった!」
そんなわけで、マリエッタとディディエは買い物に出かけることとなった。
「グリージャはどうする?」
ディディエとリードがやってきてから、姿を隠してしまったグリージャにマリエッタは問いかける。
『私は留守番しているわ』
「そう。メルヴ・トゥリーは――」
リードと手を繋いで部屋に戻ろうとしていた。
「メルヴ・トゥリー、リード様のこと、お願いね」
『ワカッタ!』
どうやら二人きりで行くこととなりそうだ。
少しだけ休憩をしてから、宿を出発することとなる。
「何か欲しい物はありますか?」
「食材が欲しいの!」
二食分作って、森から持ってきた食材はほとんとなくなっていた。
「市場にいろいろ売っているかしら?」
「ええ。王宮からの帰りに立ち寄りましたが、品数が豊富にあったようです」
「だったら、そこに行きましょう!」
宿のエントランスホールから、市場へ繋がる転移魔法があるという。
それを利用し、一瞬で市場に到着することとなった。
王都ディアマンテの台所とも呼ばれている市場は、朝から夕方まで豊富な食材が入れ替わり立ち替わり販売されているようだ。
青果店の店主がマリエッタに声をかける。
「いらっしゃい、お嬢さん、採れたての野菜が入荷しているよ!」
「見せていただけるかしら?」
「ああ、好きなだけ見てくれ!」
つやつやと輝くトマトに、手に取らずともシャキシャキなのがわかるキャベツ、泥が付いた新鮮なニンジンやカブなどなど、新鮮な野菜の数々を購入する。
「たくさんありがとうねえ。お似合いの二人だから、りんごもおまけに入れておくよ」
「ありがとう!」
ディディエとお似合いだと言われて、マリエッタは嬉しくなった。
他にも、卵や牛乳、バターなども買って、魔法の鞄に詰め込んだ。
端から端までしっかり見て回ったあと、来た方向へと戻っていく。
「ディアマンテはオシャレな街だけれど、ここはクリスタリザーシーの市場に少し似ていて、なんだか安心するわ」
「そうですね。この辺りは魔法の整備が整っていないようです」
なんて話をしていたら、どこからか怒号が聞こえた。
「俺は、俺達はお前らのやり方に同意していない!!」
マリエッタは思わずディディエと顔と顔を見合わせてしまう。
「何かあったのかしら?」
「みたいですね」
声がしたほうへ進んでみると、一番初めに買い物をした青果店の店主と騎士達が何やら揉めているようだった。
「ここは魔法開発がすでに決まっていて、魔法が使えない者達は魔力を提供する決まりだ!」
「そんなことなんて知らん!! 俺は昔からここで商売していたんだ!! それを勝手に魔法仕掛けにしようだなんて、納得できるわけあるか!!」
「王太子殿下の政策に文句を付けるなんて、国家反逆罪と見なされても、構わないのか!?」
「なんだと!? この野郎!!」
青果店の店主が拳をあげた瞬間、「捕らえろ!!」と騎士が叫ぶ。
まるで大捕物をしているかのように、騎士達が青果店の店主に詰め寄った。
その瞬間、ディディエが割って入る。
「何をしているのですか!?」
ディディエは青果店の店主を守るように立つ。
「なんだ、お前は!?」
「クリスタリザーシーの領主です」
「田舎の領主が、俺達になんの用事――」
「待て、そのお方は、王太子殿下の弟君である、ディディエ様だ!」
隊長格と思われる騎士が静止する。
「詳しい事情は知りませんが、力任せに政策を進めるのはどうかと思います」
「申し訳ありません」
隊長格の騎士は深々と頭を下げ、まだ出直すと言って引き下がっていった。
ディディエは盛大なため息を吐いたあと、青果店の店主に大丈夫かと声をかける。
「大丈夫だ。お兄さん、すまなかったねえ」
「いえ……」
いったい何が起こっているのか。
会話を聞いた限りでは、この辺りの市場を魔法仕掛けにする開発計画があると言っていたのだが。
「少し、詳しい話を聞かせていただけますか?」
「もちろんだ」
そろそろ閉店しようかと思っていたところだったらしい。
しかしながらお店に並んでいた野菜は、騎士との一悶着で荒らされていた。
「これじゃあ売り物にならないなあ」
「店主さん、ここにある野菜を全部、わたくしに売ってくださらない?」
「でも、落ちて傷ついているんだ。それに、こんなにたくさん持って帰るのは大変だし、食べきるものじゃなだろう?」
「平気よ。なんでも入る魔法の鞄があるから。それに、食材は加工して保存できるから」
「だったら、半額以下の価格で買い取ってくれるかい?」
「いいの?」
「ありがたいくらいだ」
そんなわけで、マリエッタはワケアリ野菜を安価で買い取った。
青果店の閉店作業が終わったあと、近くにある酒場で事情を聞くこととなる。




