調査開始!
馬車に揺られていると、マリエッタはハッと気付く。
「そういえば、今日は魔導車じゃないのね」
「私、あれに乗ると気分が悪くなるの」
「ものすごく早かったものね。目がくるくる回るかと思ったわ」
「そうなのよ」
魔法で暮らしが便利になる反面、それに適応できない者も少なくはないという。
「街が魔法で溢れているのも、ここ数年なの」
王太子が推し進めている計画だという。
そういえばディディエも、街の変化に驚いていたことをマリエッタは思い出した。
「いずれは何もかも、魔法で解決できるような街にしたいそうよ」
それはそれで楽しそうだと思う反面、魔力をどうやって賄うものなのか、気になってしまう。
「王太子殿下は少し他人の意見を聞かずに、強引に物事を進めるところがあるのよね。それで、お父様はいつも振り回されているみたい」
「いろいろ大変なのね」
「ええ」
皆、他人に知られないところで苦労をしているのだ。
「そういえばゾフィア嬢は――」
「ゾフィアでいいわ」
「だったらゾフィア、わたくしはマリエッタ、と呼んでくれる?」
「わかったわ、マリエッタ」
こうして呼び合うと、友達という感じがする。
マリエッタはなんだか嬉しくなった。
「さっき言いかけていたことは?」
「ああ、そう! 晩餐会に招待されていたアンハルト侯爵、ビュッセル伯爵、ゴーン伯爵にはわたくし達と同じ年頃のご令嬢がいるようだけれど、お付き合いはあるの?」
「まあ、ほどほどに」
アンハルト侯爵の娘アルマは社交的で、月に二度お茶会を開いているらしい。
ビュッセル伯爵の娘エマは控えめな性格で、ゾフィアとはあまり交流がないという。
ゴーン伯爵の娘ローズは深窓のご令嬢という雰囲気だが、活発で明るい性格のようだ。
「よく会うのはアルマだけれど、友達というほどではないわ」
あくまでも貴族としての付き合いをするばかりで、プライベートで会う者はいないという。
三人とも結婚相手が決まっていないと晩餐会で話していたのをマリエッタは思い出す。
「彼女達がどうしたの?」
「いえ、毒殺のターゲットがわたくしだったのならば、ディー様と結婚を望んでいる父親の誰かが、毒を盛った可能性もあると思って」
「ああ、たしかに」
王太子の訪問は突然だったので、アンハルト侯爵、ビュッセル伯爵、ゴーン伯爵の三人は知らなかったはず。
そのため、席順が変わったことを知らずに、暗殺の計画がそのまま進んでしまった可能性もあるのだ。
「ひとまず、使用人に話を聞いてみましょう」
「そうね」
そんな話をしているうちに、ランゲンブルグ公爵家に到着した。
家令がゾフィアをうやうやしく出迎える。
「おかえりなさいませ、ゾフィアお嬢様」
騎士隊の立ち入り調査があったかどうか聞いてみると、まだだと言う。
「お願いがあるの」
「なんでございましょう」
「昨日の晩餐会で、食後酒を運んできた給仕係を呼んでくれる?」
「かしこまりました」
リビングルームで待つこと五分、顔をまっ青にさせた青年がやってくる。
ゾフィアはさっそく、事件について問い糾すようだ。
「あなたが昨日、食後酒を運んできた給仕係ね?」
「はい」
「事件については聞いているでしょう?」
「もちろんでございます」
「だったら、あれが毒入りだったか、知っていて運んだのかしら?」
あまりにもストレートな物言いだった。
「いいえ、まさか!!」
執事が運んできたワインを、そのまま運んだだけだと訴える。
「わかったわ。では、執事を呼んできてくれるかしら?」
「かしこまりました」
さらに待つこと五分――執事がやってくる。
「お待たせいたしました、ゾフィアお嬢様。昨日の件について、お聞きしたいようで」
「ええ、そうよ。晩餐会で出したワインについて、聞かせていただきたいのだけれど」
「そちらのワインでしたら、王太子殿下とアンハルト侯爵、ビュッセル伯爵、ゴーン伯爵がお土産としていただいた物を、そのままお出ししたまでです」
「誰のワインだったのよ」
「それが、全部同じワインでして」
なんでもランゲンブルグ公爵には大好物のワインがあり、訪問者は必ずと言っていいほどそれを持参してくる。
「皆、同じワインですって?」
「ええ」
「誰のワインを開けたか、わからないの?」
「わたくしめは、ワインを厨房に運んだまででして……」
執事は一応、王太子のワイン、アンハルト侯爵のワイン、ビュッセル伯爵のワイン、ゴーン伯爵のワインと、 並べてワゴン車で運んだという。
厨房まで持って行って、給仕係に引き継いだようだ。
その後、どのようにしてワインが運ばれたか、というのは把握していないという。
「わかったわ。給仕係をもう一度呼んでちょうだい」
「かしこまりました」
先ほどの給仕係が、再度やってくる。
「というわけで、ディディエ様が飲んだワインは、どなたが持ってきたワインだったの?」
「いえ、それが、把握しておらず……申し訳ありません」
ゾフィアは思わず、天井を仰いだ。




