作戦
「それで、調査って具体的にどうするの?」
「まず、晩餐会に関わっている使用人達を調べたいところだけれど――」
外出許可が出ていないので、すぐに行動に移せるものではないだろう。
「だったら、私が連れてきた侍女に扮して、一緒に帰るのはどう? すぐに行って帰ってくればいいだけの話だし」
「いいかもしれないわ!」
そんな計画に、待ったをかけるのはグリージャである。
『お待ちになって。マリエッタ、あなた、その作戦を騎士に内緒でするつもりですの?』
「ディー様に話したら、反対されてしまうわ」
『そうでしょうね』
ディディエは過保護で、マリエッタが何かあれば、血相を変えてどこでも駆けつける。
行動の一つも慎重で、マリエッタのように思いつきで動くような人物ではない。
「グリージャ、お願い! 協力して」
『どうしましょう』
「あとで、グリージャが大好きなパンケーキを焼いてあげるから!」
『まあ、それでしたら、協力しなくもないですが』
「ありがとう!」
メルヴ・トゥリーも協力してくれるという。
そんなわけで、入れ替わり大作戦を行うこととなった。
すぐさま廊下で待機していたゾフィアの侍女が部屋に招かれ、マリエッタと服を交換する。
侍女にはグリージャが幻術をかけて、マリエッタに見えるようにしてくれた。
マリエッタは侍女の手を握り、本を読んでいる振りでもしておくように言っておく。
「コンシェルジュのお方くらいだったら誤魔化せると思うけれど、ディー様やリード様は騙せないと思うの。だから、この二人がきたときは、これからお風呂に入るとか言って、先延ばしをしてくれるかしら?」
「承知しました」
なるべく早く戻ることを約束し、マリエッタはこっそり宿を抜け出すことにした。
グリージャはマリエッタの影に隠れ、メルヴ・トゥリーはバスケットに入ってもらい、上から布を被せておく。
マリエッタ自身はベールを被り、顔を伏せてゾフィアのあとを続いた。
廊下に護衛の騎士がいたものの、マリエッタに気付く者はいなかった。
あっさりスイートルームがある階から魔導昇降機に乗ったまではよかったが、十一階で停まってディディエとリードが乗ってきた。
マリエッタは口から心臓が飛び出そうになる。
ディディエは魔導昇降機に乗っていたゾフィアに気付き、「おや」と反応した。
「ま、まあ、ディディエ様!」
「ゾフィア嬢、どうしてここに?」
「ディディエ様を見舞いにやってきたのですが、ご不在だと言われてしまい、帰るところだったの! お元気そうで、何よりだわ!」
「おかげさまで」
ディディエはそれ以上何も話そうとせず、ゾフィアに背中を向けていた。
リードはゾフィアを睨むように見ていたので、マリエッタはひたすら気配を消すように努めていた。
早くロビーに着いてくれ、と思うも、こういうときの時間は永遠に感じてしまう。
次の瞬間、ゾフィアがリードに話しかける。
「閣下、これからどこかへ行かれるの?」
「事件のことで国王陛下が話を聞きたいようで、呼びだしを受けた。しばしの間、王宮へ出かけるだけだ」
「そうだったのね」
やっとのことでロビーに到着する。
ディディエが壁際に寄って、先に下りるよう促した。
ゾフィアは迷いのない足取りで歩き、マリエッタもあとに続く。
「待ってください」
すれ違った瞬間、ディディエが声をかける。
マリエッタは跳び上がりそうになるくらい、驚いてしまった。
「あなた――」
ディディエがマリエッタの肩に触れそうになった瞬間、ぱちん! と音が鳴る。
「私の侍女が何か?」
「……いいえ、なんでもありません」
「そう。では、急ぎましょう」
ゾフィアはマリエッタの手を取り、足早にロビーを通り抜ける。
最後は小走りとなり、ランゲンブルグ公爵家の馬車へ飛び乗った。
御者に合図を出し、すぐに出発してもらう。
「はあ、心臓に悪い!!」
「まさかディー様と一緒になるなんて、思いもしなかったわ」
「本当に!」
すれ違った瞬間、ディディエはマリエッタに気付いただろう。
けれどもディディエは途中で声をかけるのを止めた。
「魔法の気配がしたの。グリージャかメルヴ・トゥリーが何か魔法をかけたのかしら?」
『ソウダヨ』
どうやらメルヴ・トゥリーが、ディディエの意識を逸らす魔法をかけてくれたらしい。
「ありがとう。ディー様には、調査が終わったらきちんとお話しして、謝るつもりだから」
きっと怒られるだろう。けれどもそうでもしないと、事件はもみ消されてしまうに違いない。
徹底的に調べなくては、とマリエッタは思う。
「でも、ディー様達が出かけていてよかったわ。侍女さんが心配だったから」
「そうね」
ディディエやリードが帰る前に、ランゲンブルグ公爵家での調査を終えて帰らなければ。
そんな気合いと共に、向かったのだった。




