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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第二部・一章 思いがけない招待状

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言い問答

「ゾフィア嬢はディー様がお好きなの?」


 マリエッタの問いかけに、ランゲンブルグ公爵は悪びれのない様子で答えた。


「そうそう、そうなんだ! ゾフィアちゃんは一途でねえ、小さな頃からディディエ君にぞっこんだったんだよ。国王陛下とクリスタリザーシー家のご令嬢に間に生まれたご落胤らくいんということで、血筋もしっかりしているし、ゾフィアちゃんの結婚相手にぴったりだと思っていたんだけれど――」


 ランゲンブルグ公爵は急に真顔になり、リードに向かって問いかける。


「どうしてゾフィアちゃんとの結婚を断ったのかな?」

「それは説明したはず。総合的に、二人は合わないと判断した」

「なぜ? ゾフィアちゃんは健気な子だから、ディディエ君が望むレディになったはずなのに」

「貴殿がどろどろに甘やかして育てた娘が、ディディエを想った行動ができるわけがなかろうに」

「そんなことはないよ。ゾフィアちゃんはディディエ君のためならば、地の果てまで付き合ったはずだ」

「では、クリスタリザーシーの地が悪しき魔女の手によって困窮こんきゅうしていたときに、なぜ手紙の一通も送らせなかった? 王都で暗殺未遂に遭ったときだって、見舞いの一つもなかったではないか」


 リードから指摘され、ランゲンブルグ公爵はぐうの音も出ないような状況だった。


「貴殿の娘とは異なり、マリエッタさんはディディエのために、いろいろと奔走してくれた。クリスタリザーシーを災害から見事に救ったのも彼女だったし、ディディエの心を時間をかけてゆっくり癒やしたのも彼女だった。マリエッタさんがいなければ、ディディエは今もクリスタリザーシーの地で微笑むことなく、囚人のように静かに暮らしていただろう」

「ゾフィアちゃんだって、結婚を断られて傷心だったんだ。むしろ、ゾフィアちゃんのほうをディディエ君が心配しなければならなかった」

「話にならない!」


 リードはテーブルをばん! と叩いて立ち上がり、「帰らせていただく」と言ってランゲンブルグ公爵に背を向けた。


「待ってくれ。晩餐会だけは、参加してほしい。ゾフィアちゃんは君達のためを想って、一生懸命用意したものだから……!」


 ディディエも立ち上がり、マリエッタの手を引いて客間を後にする。

 魔導車ではなく、宿が用意していた出かけ先からスイートルームに戻れる転移の魔法札を使って戻ることとなった。


 メルヴ・トゥリーが皆を出迎える。


『オ帰リナサ~イ』


 リードが腕を伸ばすと、メルヴ・トゥリーは抱っこをせがむように両手を広げた。


『メルヴ・トゥリー、いい子にしていただろうか?』

『モチロン!』


 グリージャのところに行って、一緒に窓際で日なたぼっこをしていたという。


「リード様、ラウンジでお茶でも飲みましょうか」

「ああ、そうだな」


 スイートルームがある十一階のラウンジで、給仕係が淹れてくれた紅茶を飲む。

 怒りで顔を真っ赤にしていたリードも、メルヴ・トゥリーのおかげでいくぶんかは落ち着きを取り戻したようだ。


「ディディエ、すまない。ランゲンブルグ公爵の前で、あのように取り乱すつもりはなかったのだが」

「いいえ、あの場でお祖父様が物申さなければ、私が怒っていたかもしれません」

「それはよかった。ディディエが怒ると、手が付けられなくなるから」

「わたくしも悪かったわ。空気を読まずにゾフィア嬢が何を好いているか、なんて質問をしたから」

「マリエッタは悪くないです。ランゲンブルグ公爵の返答は、見当違いのものでしたから」


 愛娘の結婚を断られたのが余程心残りだったのか。

 何でもいいから一言物申したかったのだろう、とリードは言う。


「あの娘は、まだディディエに懸想けそうしているようだ」

「そう見えましたか?」

「ええ。その鬱憤うっぷんをマリエッタに向けているようだ」

「向けていたかしら?」


 そんな一言を口にすると、リードが深いため息を吐く。


「明らかに、マリエッタさんをライバル視されているような言動を取っていたが?」

「うーーーん、あ! もしかして、ディー様の結婚相手に相応しいか確かめる、なんて言った件かしら?」

「それもだが、ゾフィア嬢の言動のすべてに、マリエッタさんへの嫉妬がにじんでいたように思える」


 ゾフィアは長年ディディエに片思いしていたという。

 そんな相手が突然現れた、どこの誰かもわからない女性と結婚すると知ったら、奪われたように感じるのかもしれない。マリエッタは彼女の気持ちをそんなふうに推測する。


「ランゲンブルグ公爵にゾフィア嬢と仲よくするように言われたけれど、どうすればいいのかしら?」

「仲よくする必要はないと思います」


 ディディエは切って捨てるように言うが、マリエッタは同じ年頃の女性と知り合う機会などないので、ぜひとも友達になりたいと考えていたのだ。


「友達になりたいだと?」


 リードも目を剥きながら聞き返してくる。


「ええ!」

「あんな酷い態度を取られておいて、よく仲よくなろうだなんて考えたな」

「グリージャや、リスのお兄さんも、最初はあんなふうにツンツンしていたの。でも、最終的には仲よくなれたわ! だからきっとゾフィア嬢とも仲よくなれるはずなのよ!」


 マリエッタの成功例がツンデレ妖精猫と、森のリスだと知ったリードは、ぷっ! と噴きだすように笑い始める。


「そうか、そうか! マリエッタさんは、ツンツンした生き物と、仲よくなれる特技をお持ちなのか!」

「そうみたいなの!」


 瞳をキラキラしながら話すマリエッタを見たディディエも、耐えきれなくなったのか、笑い始める。


「マリエッタ、猫妖精や森のリスと、ゾフィア嬢を一緒に考えるのはどうかと」

「おかしいかしら?」

「ええ……!」


 肩を震わせて笑うディディエと、笑い声をあげるリードを見て、マリエッタは小首を傾げる。


 ひとまず、夜に行われる晩餐会には参加するという。


「ディディエ、ランゲンブルグ公爵が気に食わないことを言っても、聞き流すように」

「それはお祖父様も」


 マリエッタもひとまず、余計な一言を口にしてゾフィアの不興を買わないようにしなくては、と思う。

 晩餐会の時間まで余裕があるので、部屋で休んで鋭気を貯めておくこととなった。

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