街を見て回ろう!
マリエッタにとって、王都ディアマンテの様子はどれも新鮮そのもので――。
「ディー様、あれは何かしら?」
マリエッタが指差す壁には、料理が作られる様子が映し出されている。
動く絵画と言えばいいのか。マリエッタは初めて目にするものだった。
「あれは魔法広告です」
「魔法広告?」
「ああやってレストランで料理を作る様子を実際に見せて、集客する目的があるんです」
「そうだったのね、すごいわ!」
他にも季節に関係なく咲く魔法の花や、魔法の水で作られた噴水、地面が動く道路など、マリエッタが目にするものすべてが魔法仕掛けだった。
「ディー様はこんなすばらしい街で育ったのね」
「そうなのですが、実はあまり街を歩き回ったことはないのです」
その話を聞いて、マリエッタもそうだったと思い出す。
「わたくしも、故郷であるスニューウの街は、あまり知らないわ」
酷く冷え込み、雪深く、道行く人もどこか忙しそうで冷たい。
そんな様子を知ったのは、クローデットの記憶の中だった。
どれもが、マリエッタが知ることのなかったものである。
自分がどれだけ恵まれた環境に身を置いていたのか、痛いくらいにわかってしまう記憶だった。
「見て回ると言っても、案内できるほど詳しくなくて……」
「だったら、一緒にディアマンテの街を探検しましょう!」
「探検、ですか?」
「ええ! 楽しそうでしょう?」
マリエッタがにっこり微笑みかけると、ディディエもつられるように笑顔になった。
「では、あちらのお店に行ってみましょうか」
「ええ!」
そこは魔法雑貨店で、国内の魔技巧師が作ったという魔技巧品などが豊富に販売されているお店だった。
マリエッタが気になったのは、調理道具である。
「ディー様、火がなくても使える魔法の鍋ですって!」
「魔力を付与するか、火の魔石をセットする必要があるようですね」
「それでも便利だわ!」
他に自動で鍋をかき混ぜるお玉、料理が冷えないお皿、材料を入れただけでジュースができるカップなど、マリエッタにとって魅力的に思う商品ばかりだった。
「買って帰りますか?」
「どうしましょう」
『その前にマリエッタ、あなた、この国のお金を所持していますの?』
グリージャの指摘を聞いて、マリエッタは「あ!!」と声を上げる。
「そういえば、ハウトゥ大国で使えるお金を持っていなかったわ」
「お金の心配なら必要なく。私がプレゼントしますので」
「悪いわ! たくさんドレスなどいただいたばかりなのに」
「お気になさらず。これまでお金をあまり使わないあまり、祖父に怒られたこともありましたので」
「そうだったの?」
「ええ」
ディディエの気持ちは嬉しかったものの、なんでも入る収納鞄は旅行鞄の中で、持ってきていなかったのだ。今調理道具を買ったら探検の邪魔になる。
そう思ったマリエッタは、調理道具の購入を保留とした。
「帰るまでに決めておくわ」
「わかりました」
続いて入店したのは、魔法書を売るお店。
店内の本棚にはぎっしり魔法書が並んでいた。
入りきれなかった本は、空中をふよふよと浮かんで回っていた。
「こんなにたくさんの魔法書を見たのは初めてよ」
『そうなのかい?』
マリエッタの言葉に聞き覚えのない声が返事をしたので驚く。
声がしたほうを見ると、白くて足が十本もある、細長い生き物がマリエッタを覗き込んでいた。
「きゃあ! あ、あなたは?」
失礼だとわかりつつも、初めて見る不思議な姿に悲鳴をあげてしまう。
『おいらはイカ妖精さ!』
「イカ、妖精さんなのね」
店主の使い魔で、魔法書の整理整頓や接客を行っているらしい。
ディディエに見たことがあるのかと聞いたところ、初めてだという。
「落ち着いていたから、見たことがあるのかと思っていたわ」
「調理済みのイカならば、目にした覚えはあるのですが」
なんでもイカという生き物は海に存在していて、食べることもあるという。
雪国暮らしのマリエッタには、これまで縁がなかった生き物だったのだ。
『海のイカと、おいらは違う存在だからな! 海のイカは地上で活動できないから!』
「そ、そうなのね」
海のイカはどんな味なのか。気になったものの、イカ妖精に聞かないほうがいいとマリエッタは思った。
『今日はどんな魔法書を探しにきたんだ?』
「魔女術の魔法書はあるかしら?」
『魔女術? また、古めかしいもんを探しているんだな』
魔法が発展したハウトゥ大国では、先ほどの魔法雑貨店で見たような、魔法が付与された生活道具が普及している。
そのため、いちいち家事や掃除などに魔法を用いる魔女術は廃れているようだ。
『どこから来たんだ?』
「クリスタリザーシーよ」
『あーーー、その辺りのどどどどど田舎だったら、魔技巧品も大して普及していないだろうから、魔女術も必要になるんだろうなあ』
クリスタリザーシーの領主であるディディエの前で何を言っているのか、なんてマリエッタは思ったものの、余計なことは言わないほうがいいと思って言及しなかった。
『イカ妖精さん、それで、魔女術の魔法書を見せていただける?』
『いいぜ!』
イカ妖精は触手のように足を伸ばすと、一冊の本を棚から引き抜く。
『ほらよ!』
「ありがとう!」
それはクローデットの家にない、魔女術の料理の専門書だった。
「パンケーキの魔法、スープの魔法、クッキーの魔法――どれも面白そうだわ!」
「では、この本をください」
ディディエがイカ妖精に言うので、マリエッタは驚いてしまった。
「ディー様!?」
「魔法書一冊くらいであれば、探検の邪魔にならないでしょうから」
「ありがとう! 嬉しいわ」
現在店主はいないようだが、イカ妖精が精算してくれるようだ。
『代金は金貨二枚だが、何年も放置されていた魔法書だから、金貨一枚でいいぜ!』
「まあ、ありがとう!」
『へへ、いいってことよ』
イカ妖精は羽根の形をしたしおりを魔法書に挟み、慣れた手つきで紙袋に入れる。
『支払いは魔法通貨でいいか?』
「ええ」
『だったら、ここによろしく!』
そう言ってイカ妖精は水晶を差しだす。
ディディエはそれに手をかざすと、魔法陣が浮かんできた。
ちりん、と鈴の鳴るような音がした。
『まいど!』
魔法通貨というのは、銀行商で管理されている預金を魔法でやりとりできるサービスだという。
銀行商で登録した魔法を展開するだけで、支払いを完了することができるようだ。
マリエッタは便利だ! と感激してしまった。




