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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第二部・一章 思いがけない招待状

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新しい契約

 ディーが帰ると、グリージャがやれやれと言った様子で出てきた。


『また、問題でもありましたの?』

「うん、実はハウトゥ大国の国王陛下から呼びだしがあったようで」

『まあ! あのお方、何かやらかしましたの!?』

「違うよ。わたくしを紹介してほしいって、王命が下ったみたい」

『ああ……そういうことでしたのね』


 半月後に王都ディアマンテに行くこととなったことを、グリージャに説明する。

 すると、グリージャは少ししょんぼりしたような様子を見せていた。

 そういえば、と思い出す。

 以前、ジルヴィラ王国へ行ったときも、十日ほど家を空けていた。

 それでも、クローデットの竜がクリスタリザーシーまで迎えにやってきたので、往復の移動時間はかなり早いほうだったのである。

 帰宅後、グリージャはこの一ヶ月間、静かに過ごしていたのに、と言っていたものの、リスの兄弟妹きょうだい曰く、すごく寂しがっていたという。

 素直じゃないので、グリージャがストレートに気持ちを伝えてくることはない。

 けれども今回も強がった様子を見せつつも、寂しがっているのだろうとマリエッタは思う。


『どのくらい、家を空けますの?』

「はっきりとわかるわけではないけれど、クリスタリザーシーから王都まで、馬車で一ヶ月はかかるって以前ディー様が話していたわ」

『移動だけで一ヶ月……』


 往復で二ヶ月、王都に滞在する期間も考えたら、かなり長い期間不在となる。

 夜、いつもマリエッタの傍で眠るグリージャが、二ヶ月以上も独りぼっちで過ごすことを考えただけで、胸がぎゅっと締め付けられる。

 一緒に連れて行きたい気持ちはあるものの、グリージャは家猫妖精。

 この家から遠く離れた場所へ行くことはできないのだ。

 なんて考えていたが、マリエッタはハッと気付く。


「そうだわ! 契約を変えたらいいのよ!」

『あなた、いきなり何を言っていますの?』

「グリージャと一緒に王都ディアマンテに行きたいから、契約を書き換えようと思って」

『はい?』


 説明したものの、突拍子もないことだったからか、グリージャは小首を傾げている。


「グリージャ、あなたも一緒に王都へ行きましょう!」

『な、なんですって!?』


 もちろんグリージャだけでなく、メルヴ・トゥリーにもついてきてもらうつもりだ。


「いいわよね、メルヴ・トゥリー?」

『ウン、モチロンダヨ!』


 メルヴ・トゥリーはお出かけが嬉しいのか、小踊りし始めた。


『お待ちになって。私を王都へ連れて行くって、どうしてですの?』

「グリージャと一緒にいたいから」

『私がどのような存在か、あなたはご存じなはず』

「お家を守ってくれる妖精さんでしょう?」


 グリージャの家猫妖精としての存在が重要だったのは、夜霧の魔女がいた時代である。

 クリスタリザーシー側からの騎士の侵攻から守るために、結界代わりのグリージャは絶対に必要だった。

 けれども今は、魔女の命を狙ってやってくる者などいない。


「いたとしても、今のシーズンは森は雪深くて、ここまで入ってくることはできないと思うの」


 上空から見ても、木々が複雑に生い茂っているため、家の位置を把握することは難しい。さらに空を飛ぶ生き物が着地できるような広い土地もないのだ。


「だから、グリージャがこの家にいなくても大丈夫!」

『まったく、あなたはなんてお気楽なのでしょう!』


 呆れた様子を見せているグリージャだったが、尻尾はピンと立っていて、口ひげもぴんぴんしている。グリージャが嬉しい気持ちで満たされていることは、一目瞭然だった。


「じゃあ、決まりね!」


 マリエッタがグリージャの額に触れると、魔法陣が浮かび上がる。

 契約書を展開させ、今一度、内容を見直す。

 以前、グリージャとマリエッタが結んだのは、家を守る代わりにおいしい食事と温かい寝床を提供するというもの。

 夜霧の魔女が作った契約の雛形テンプレートを応用した契約だったので、グリージャが家から遠く離れた場所に行くことはできないようになっていた。

 それを書き換える。


「グリージャは、ずっとずっとわたくしの傍に……!」

『仕方ありませんわね!』


 グリージャが了承すると、契約は無事結ばれる。

 これで、グリージャもこの家から遠く離れた場所へ行くことができるようになった。


「よかった!! 嬉しい!!」


 そう言ってマリエッタがグリージャを抱きしめると、迷惑そうな声が返ってくる。


『あなたはいちいち大げさですこと!! たった二ヶ月、離れ離れになることも我慢できないなんて』

「ええ、そうなの。わたくしはもう二度と、グリージャと離れたくないから」


 そんなマリエッタとグリージャの様子を、メルヴ・トゥリーは『仲ヨシサン、ダネエ』と言いつつ、微笑ましい様子で眺めていた。


 ◇◇◇


 それからというもの、怒濤の毎日を過ごすことになる。

 マリエッタは半月の間、森の仲間達に挨拶しつつ、庭の畑を休ませる準備でもするか、と考えていた。

 けれどもそんな暇などなく、クリスタリザーシーの屋敷に呼びだされ、ドレス用の採寸が開始された。

 出発は半月後なので、当然ながらオーダーメイドは間に合わない。

 けれどもディディエがマリエッタ用に、と数ヶ月前にドレスを数着注文していたようで、それを少しだけ寸法を直して着ていくこととなった。

 礼儀作法の先生のレッスンをディディエと共に受けることとなったのだが、マリエッタはすぐに合格をもたった。

 ディディエの婚約者が平民出身の女性と聞いて先生は張り切ってやってきたようだが、王妃教育で国際儀礼プロトコールを学び、身につけていたマリエッタにとっては、レッスンは復習みたいなものだったのだ。

 どこに出しても恥ずかしくない女性だ、と先生に言われてマリエッタは嬉しくなる。

 ディディエも誇らしげな様子だった。

 他にも護身用の体術を覚えたり、王宮の隠し通路の位置を教えてもらったり、王都の危険な区域を学んだりと、やることは山のようにあったのである。

 森の仲間達への伝言はメルヴ・トゥリーに頼んだ。畑を休耕地にする準備もしてくれるらしい。

 グリージャは魔法で結界を張って、もしものときに備えてくれているようだ。

 そうこうしているうちに、あっという間に半月が過ぎていき――。

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