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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第二部・一章 思いがけない招待状

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冬を迎えた森と、朝霧の魔女マリエッタ

 ハウトゥ大国の辺境にある領地、クリスタリザーシーの森の奥地には、〝嫌われ者の、夜霧の魔女〟と呼ばれる悪しき魔女が棲んでいると言われていた。

 けれどもその魔女は心を入れ替えたのか、それともまったくの別人なのか、〝朝霧の魔女〟と名乗るようになったという。

 その朝霧の魔女はクリスタリザーシーが災害に襲われたさい、土地と領民らを守った。

 けれども領民らは朝霧の魔女に対し、懐疑的な考えを捨てきれず、暴行に出ようとする者もいた。

 そんな中、領主であるディディエだけは朝霧の魔女を信じ、傍に居続けた。

 ディディエは悪しき魔女に唆されているのだ、なんて心ないことを言う領民もいる。

 ただそれは全員が全員というわけではない。

 朝霧の魔女が顔を出すようになってから、以前のように酷い自然災害に襲われることはなくなった。

 それどころか天候に恵まれ農作物は大豊作、領民らの暮らしはよくなっていく。

 さらに、無愛想だった領主ディディエが笑顔を見せるようになったのだ。

 朝霧の魔女は悪しき魔女ではない。

 そう思えるようになっていく領民も増えていっているという。

 状況は少しずつではあるが、変わっていった。


 ◇◇◇


 クリスタリザーシーにある森の奥地にて、のほほんと暮らす魔女マリエッタがいた。

 王女として育った身分であるにも関わらず、彼女は平々凡々とした暮らしの中に身を置き、その毎日を楽しんでいるのである。

 今日も深い雪に包まれた畑に立ち、今日もくわを握り、世界樹の大精霊メルヴ・トゥリーと一緒に野菜の収穫をしていた。


「よいしょっと!!」


 かけ声と共に鍬を持ち上げると、真っ白なジャガイモが次から次へと地上に顔を出す。


「雪ジャガイモ、たくさん採れたわ!!」

『大豊作ダネエ!』

「ええ、本当に」


 雪ジャガイモは真冬に魔力が豊富な森で採れる〝森野菜〟と呼ばれるもので、マリエッタが栽培を得意とする農作物であった。

 メルヴ・トゥリーが森の中で雪ジャガイモの種イモを発見したので、栽培に繋げることができたのである。


「この雪ジャガイモで、クリームシチューを作りましょう」

『イイネ! 猫サン、喜ブヨ!』

「そうだといいけれど」


 メルヴ・トゥリーの言う猫さんとは、マリエッタの家を守護する家猫妖精グリージャのことである。


「たっぷり作りましょう」

『ウン!』


 土まみれの雪ジャガイモを洗わないといけない。

 けれども今のシーズンは水仕事をしたら、あっという間に手が荒れてしまう。

 そんなときこそ役に立つのが、マリエッタが使う魔女術ウィッチ・クラフトだった。


「――湧き出ろ、水よ(ヴァーテル)


 魔力と引き換えに水が生まれる。

 けれども水を作りだしただけでは、雪ジャガイモを洗うことはできない。

 続けて、マリエッタは呪文を唱えた。


「――巻き上がれ、竜巻よトルネード


 魔法で作り出した水を竜巻が飲み込み、ぐるぐる回転し始める。

 そこに雪ジャガイモを放り込むと、水と風の力で土が取り除かれていく。

 あっという間に雪ジャガイモはきれいになった。


「これでよし、と!」


 魔法が解けると、雪ジャガイモは雪原に着地する。

 マリエッタはしゃがみ込み、メルヴ・トゥリーと一緒に雪ジャガイモを回収していった。


『雪ジャガイモ、キレイニ、ナッタネエ』

「ええ!」


 魔女術というものは本当に便利だ、とマリエッタは改めて思う。

 けれどもそれに依存しきるというのも、よくないことだと考えていた。

 魔力が少なくなったり、魔法が使えなくなったり、不測の事態はいくらでも思いつく。

 そのためマリエッタは週に何度か〝魔法に頼らない日〟を設け、自分で料理をしたり、家事をしたり、畑仕事をしたりしている。

 ここでの暮らしが永遠ではいかもしれない、という考えも頭の片隅に置いていた。


『雪ジャガイモ、真ッ白!』

「美しい森野菜だわ」

『ダネ!』


 考え事は止めて、家に戻って料理をしよう。

 マリエッタはそう思い立ち、庭をあとにしたのだった。


 帰ってくるなりグリージャが小走りでやってきて、マリエッタを出迎えてくる。


『まあまあまあ、顔を真っ赤にして。外で何をしていましたの?』

「森野菜を収穫していたの」

『真冬に採れる野菜なんかあるのですか?』

「ええ! 見て、雪ジャガイモっていうの!」

『雪玉のように真っ白ですのね』

「そうでしょう?」


 この雪ジャガイモを使ってクリームシチューを作るのだと言うと、グリージャは尻尾をピン! と立てて喜ぶ素振りを見せてくれる。

 しかし、すぐに我に返ったようで、マリエッタひ小言を言い始める。


『料理よりも先に、暖炉で体を温めることが先ではなくって?』

「畑仕事の前に、屋根の雪下ろしもしていたの。寒いどころか、体はぽかぽかなのよ」


 今、暖炉の火に当たったら暑くてバテてしまう、とマリエッタはグリージャに訴えた。


「グリージャ、いつも心配してくれて、ありがとう!」

『なっ、べ、別に心配なんてしていませんわ! あなたが風邪を引いて寝込むと、わたくしが看病しなければならなくなるから!』


 グリージャはマリエッタを母のように、姉のように見守り、優しく接してくれていることを知っている。ツンとした言葉も、マリエッタには微笑ましいと思ってしまうのだった。

グリージャは『ふん!』と言っていなくなる。

食事ができたら機嫌か治ることを、マリエッタは知っていた。


「さてと、作りますか!」

『メルヴ・トゥリーモ、オ手伝イスルヨ~!』


 そんなわけで、マリエッタはメルヴ・トゥリーと一緒にクリームシチュー作りを始めた。


「メルヴ・トゥリーは、材料を切ってくれる?」

『ワカッタ!』


 メルヴ・トゥリーは自らの葉をナイフのように鋭くさせ、雪ジャガイモの皮を剥いて一口大にカットしていく。

 手際はよく、任せてもよさそうだ。

 マリエッタはベシャメルソースを作る。

 鍋にバターを入れてじっくり溶かし、溶けてきたら小麦粉を入れた。

 混ざった材料がまとまり、クリームみたいになってきたら、別の鍋で温めていたミルクを注ぐ。

 泡立て器を使ってくるくる丁寧に混ぜ、ふつふつと煮込んでいく。

 とろとろになってきたら、塩とコショウ、ナツメグなどのスパイスを入れて味を調える。

 具材はブイヨンスープで煮込んで、じっくり火を通しておく。

 そこにベシャメルソースを加えて煮込んだら、クリームシチューの完成だ。

 朝、焼いたパンと一緒に食べることにした。

 食卓の準備が整ったら、グリージャを呼ぶ。


「グリージャ、食事の準備ができたわ」


 マリエッタの声を聞いたグリージャは走ってやってきて、椅子の上にぴょこんと軽快に飛び乗る。

 その隣にメルヴ・トゥリーも腰掛けた。


「メルヴ・トゥリーには、蜂蜜水ね」

『ヤッター!』


 グリージャはクリームシチューを前に、瞳を輝かせている。


『マリエッタ、いただきましょう』

「ええ」


 グリージャは猫舌なので、少し冷ましたクリームシチューを用意していた。

 手と手を合わせて祈りを捧げたあと、食べ始める。

 雪ジャガイモはほくほくで、甘みもある。クリームシチューと相性抜群な森野菜だった。


「グリージャ、どう?」

『最高ですわ!』

「よかった!」


 メルヴ・トゥリーも嬉しそうに蜂蜜水を飲んでいる。

 幸せな食卓だな、と思うマリエッタだった。

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