表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・四章 朝霧の魔女は、秘密を知る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/35

謝肉祭にて

 謝肉祭というのは、異世界から伝わった祭りらしい。

 一年に一度、救世主が復活する。その期間は節制に努めなければいけない。

 具体的には酒を断ち、肉や魚などの命を奪う食べ物を口にせず、贅沢な甘い物なども経つ。

 そんな救世主復活の期間が訪れる前に、目一杯食べて、飲んで、踊って楽しもう、という主旨の祭りなのだ。


 街は花や色とりどりの布テープで飾られ、賑やかだった。

 街の人達は、動物を模った仮面を被ったり、魔女や悪魔の姿に仮装していたりする。

 露天も多く出店されており、仮装アイテムが売られていた。


『猫サントカ、犬サントカ、仮面、カワイイネエ』

「ええ、そうね」


 ぼんやりと、街並みを眺めていたら子ども達が走ってやってくる。羊と牛の仮面を被っていた。

 頭巾を被ったメルヴ・トゥリーをのぞき込んだので、マリエッタはギョッとする。


「わー、この仮装、よくできているねえ」

「なんの仮装?」

『メルヴ・トゥリー、ダヨオ』

「メルヴ・トゥリーって、森の大精霊じゃん!」

「へえ、こんな姿なんだ」


 カッコイイと褒められ、メルヴ・トゥリーは照れているようだった。

 怪しまれずに済んだので、マリエッタは内心ホッとする。


 先ほどから、チラチラと見られている。メルヴ・トゥリーを連れているからかと思っていたが、違った。皆、マリエッタを見ている。

 周囲の人達は皆、仮装していた。素顔を晒しているのは、マリエッタだけ。

 何か、仮面を買って付けたほうがいいのだろう。

 マリエッタは急いで、近くの店で仮面を購入する。

 たくさん種類があって迷ったが、グリージャに似た灰色の猫の仮面があった。それを選んで付ける。


 猫の仮面を付けたら、注目されなくなった。ホッと胸をなで下ろす。

 露天では、さまざまな品物が売られていた。

 地方の伝統工芸品に、喋るぬいぐるみ、夜闇の中で光る小鳥、水晶魔石などなど。

 食べ物も、多く売られていた。

 特製のソースを付けて焼いた串焼き肉に、魚のすり身を丸めて揚げたもの、米粉を練って作った団子に蜜を垂らしたもの。

 見て回るだけでも楽しい。


 メルヴ・トゥリーと手を繋ぎ、会場を見て回る。


 広場では、音楽隊が愉快な楽曲を演奏し、男女が手を取り合って踊っていた。

 仮装しているので年齢などははっきりわからないものの、動きを見ているとどうやら年若い男女のようだ。


 近くで、兎の仮面を被った女性と、猪の仮面を被った男の会話が聞こえた。


「なあ、俺達も踊ろうぜ」

「あの踊りは恋人達のダンスでしょう? お断りするわ」

「ちょっ!!」


 曲によって、誰と踊るかというのが決まっているようだ。

 断られた猪の仮面の男を内心気の毒に思っていると、視線が交わってしまった。


「あ、あんた――!」

「え?」


 猪の仮面の男はずんずんと接近し、マリエッタの肩を掴む。


「さっき街の入り口にいた、仮面を被っていなかった女だろう?」

「そうだけれど」


 肩に手は置いたまま、猪の仮面の男は話し続ける。

 年齢は、二十歳前後だろうか。栗色の髪に、オリーブ色の瞳を持つ。

 ディーに触れられたときはドキドキするばかりだったが、猪の仮面の男に触れられるとゾクゾクと寒気がする。居心地の悪さを覚えていた。


「すっごい美人だったから、注目を集めていたんだけれど、やっぱりわざとだったの?」

「な、何が?」

「ああやって、仮面を被らないでのこのこやってくるのは、男漁りにきている証なんだ」


 男漁りと聞いて、いまいちピンとこなかった。

 しばし考えた結果――とんでもなくはしたない行為だったと気づく。

 肩にあった手を払おうとしたが、びくともしなかった。


「ダンス、一緒に踊ってやろうか?」

「い、いいわ。わたくし、そういうつもりで、来たのではないの」

「はは。今更上品ぶっても、遅いんだよ」

「な、何を――」

『ヤメテー!』


 メルヴ・トゥリーが猪の仮面の男とマリエッタの間に割って入り、ぴょんぴょんと跳びはねている。


「邪魔なんだよ、ガキが!」


 あろうことか、猪の仮面の男はメルヴ・トゥリーを足で追い払おうとした。

 その瞬間、マリエッタの体が動く。

 素早く猪の仮面の男の手を払いのけ、メルヴ・トゥリーを庇うように抱きしめた。

 結果、蹴り上げた足はマリエッタの背中に届こうとしていたが――。


「何をしているのですか!」


 衝撃は、届かなかい。雄々しい鷹獅子の仮面を被った青年が、猪の仮面の男の首根っこを引っ張っていたから。


 猪の仮面の男を乱暴に払い除け、鷹獅子の仮面の青年はマリエッタに手を差し伸べる。


「お嬢さん、大丈夫ですか?」


 声を聞いて、すぐに気づく。彼は、ディーだ。

 マリエッタはこくりと頷き、手を取った。


「こちらへ」

「え!?」


 人の注目が集まる中、鷹獅子の仮面の青年はメルヴ・トゥリーを抱き上げ、マリエッタを連れ出す。


「あ、あの――!」


 引き留めようと声をかけたが、歩みは止まらない。

 強引さはない。

 手も、振り払おうと思えばできるだろう。

 歩みも、そこまで早くはなかった。


 触れた手が、熱い。

 先ほどのように、悪寒が走ることもなかった。


 路地を曲がり、どんどん人込みから遠ざかっていく。

 警備の騎士がいる階段を上り始めた。いったい、どこに連れて行くのだろうか。

 マリエッタはあとに続く。


 階段を上った先にあったのは、街を見下ろす灯台だった。

 大きな魔石が填め込まれており、魔物避けとして機能しているらしい。

 見張りがいることから、人の立ち入りは禁じられているのだろう。

 ここまで来られたのは、鷹獅子の仮面の青年が領主であるディーだからだ。


 鷹獅子の仮面の青年は振り返り――仮面を外した。

 済んだ青い瞳が、マリエッタを見つめる。

 同じように、マリエッタも仮面を外した。


「すみません、マリエッタ。こんなところにまで連れ出して。静かなところが、ここしか思いつかなくて」


 やはり、ディーはわかっていてマリエッタを助け、連れ出したようだ。


「その、ありがとう」

「いえ」

「どうして、わたくしだとわかったの? 声?」

「声が、聞こえたのです。こっちだ、と」

「声?」

「ええ。どこかで聞き覚えのある声でしたので。ああ、あなたの家にいる、猫妖精の声に似ていたかなと」

「そういえば、グリージャが祝福をかけてくれていたのを忘れていたわ」


 グリージャがディーを導いてくれたようだ。


「目にした瞬間、あなただとすぐにわかりました。普通の女性とは違いますから」

「そ、そう?」


 グリージャにどこからどう見ても箱入り娘だと言われたことを思い出す。

 ディーにも、マリエッタは危うい存在として認識されているのだろう。


「ごめんなさい。騒ぎを起こすつもりはなくて」

「わかっています。向こうが、勝手に絡んできたのでしょう?」

「あ、えっと、私もあの男性ひとを見ていたから、悪かったというか、なんと言うか……ごめんなさい」


 はあ、と盛大なため息が返される。

 ディーをひと目見るだけのつもりが、とんでもない事態を引き起こしてしまった。マリエッタは反省する。


「あなたを、謝肉祭に誘おうと思っていたんです」

「どうして、誘ってくださらなかったの?」

「あのように大勢の人がいますので、何かあったら大変だと思い、誘えなかったのです」

「そう、だったのね」


 ディーの気遣いなんか知らずに、マリエッタは街で騒ぎを起こしてしまった。

 いたたまれない空気になる。

 領主であるディーの招待がないのに、参加すべきではなかったのだ。


「ご、ごめんなさい。お祭りの空気は十分楽しんだし、ディー様にも会えたから、もう帰るわ」


 メルヴ・トゥリーに向かって差し出した手だったが、握りしめたのはディーだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ