パーティーへようこそ!
庭には、これまで仲良くしてきた動物や妖精達がたくさん来ていた。皆、木の実や果物、キノコなどの土産を持参している。
「みんな、ありがとう! 森野菜、たくさん食べて行ってね!」
何事かと覗きにきた鳥や兎も誘った。わいわいと、賑やかになる。
リスの兄弟妹も、絹雲母を土産にやってきた。
『おーい、マリエッタ、やってきたぞ!』
「いらっしゃい!」
鹿の親子や熊の姉妹、花妖精に、湖の精、カエルの大家族など、次々と招待客が訪れる。
最近、マリエッタが森で素材集めをしているので、珍しい石や薬草なども土産として集まっていた。
「みんな、ありがとう! とっても嬉しい」
マリエッタの作った森野菜は大好評だった。おいしい、おいしいと、皆嬉しそうに頬張っている。
そんな様子を、グリージャは樽の腕に座りつつ眺めていた。
メルヴ・トゥリーは、招待客に森野菜を配り、もてなしていた。
楽しいひとときを、これでもかと味わう。
始まってから一時間ほどで、ディーがやってきた。
大勢の動物達を前に、ギョッとしている。
「ディー様、いらっしゃい!」
「ええ。なんと言いますか、すごい賑わいですね」
「驚いたでしょう? わたくしも、こんなに来てくれるとは思わなくて、びっくりしているの」
皆にディーを紹介して回った。
ディーはこのようなことは初めてなのだろう。緊張しているように見えた。
「あ、そうだ。マリエッタ、これを、あなたに」
差し出されたのは、懐中時計。蓋に、鷹獅子の紋章が刻まれている。
「以前、時計を持っていないと言っていたので」
「まあ、ありがとう!」
ディーが訪問時間を言ったときに、魔女の家には時計がないことに気づいたのだ。その話を、ディーはずっと覚えていたのだろう。
「鷹獅子、かっこいいわ。でもこれ、大事なお品ではないの? とても年季が入っているけれど、銀製で、丁寧にお手入れされたよい品だわ」
「これは、母から譲り受けた品なんです」
「お母様の懐中時計ですって!?」
世界にふたつとない、貴重な品だろう。これはディーが大事に持っておくべき物ではと思ったが、彼はマリエッタに使ってほしいと言う。
「マリエッタに、使っていただいたほうが、母も喜ぶと思いまして」
「ディー様……!」
懐中時計を胸に抱き、深々と頭を下げた。
「ディー様、ありがとう。毎日お手入れをして、大事にするわ」
ディーのために用意したテーブルに案内する。そこには、マリエッタが腕によりをかけて作った森野菜料理が並べられていた。
魔法で保温状態にしていたスープも、皿に装う。
「森野菜のフルコースなの。お肉はないから、物足りないと思うのだけれど」
「いえ、ありがたいです。あまり、肉が得意ではなくて」
「まあ! どうしてなの?」
「幼少期に、無理矢理狩猟に連れて行かれて、狩った兎をその場で解体するように命令されたんです。それ以来、肉が受け付けなくて」
「そうだったのね。ごめんなさい、聞いてしまって」
「いえ、気を遣われるより、ありがたいです」
普段は野菜をメインに、魚とほんの少しの肉を食べているという。
「恥ずかしい話なのですが、肉を食べないと、どうにも力がでないのです」
「それは仕方がないわ、人間ですもの。それに、ディー様は騎士ですから」
「ありがとうございます」
野菜は大好物だというので、マリエッタはホッと胸をなで下ろす。
森野菜は生で食べてもおいしい。きっと、気に入るはずだ。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます」
ドキドキしながら、ディーがマリエッタの料理を口にする様子を見守る。
「ディー様、どう?」
「おいしいです」
ディーはそう言って、やわらかく微笑んだ。マリエッタの胸は、喜びで満たされた。
「マリエッタ、あなたも見ていないで、食べてください。料理は、一緒に食べたほうが、おいしいのでしょう?」
ディーの言葉を聞いて、ハッとなる。それは以前、マリエッタが伝えた言葉であった。
「そう、そうなの! 誰かと食べたほうが、料理はおいしいのよ。ディー様とご一緒できるなんて、夢のようだわ」
「現実ですよ」
ほわほわと幸せな気持ちに浸るマリエッタだったが、前回、ディーにふるまった食べ物について思いだしてしまう。
「大変だわ! わたくし、前回ディー様にシチューを振る舞ってしまった!」
シチューには、肉が入っていた。苦手だと知らずに、食べさせてしまったのだ。
「マリエッタ、どうかお気になさらず。苦手なのは、肉汁が滴るような料理ですので。シチューは、食べられます。その、肉は丸呑みですが」
「丸呑み……! 小さくカットしていて、よかったわ」
「ええ。マリエッタのシチューの肉は、食べやすかったです」
ホッと胸をなで下ろす。
好みについては、付き合う上で詳しくありたい。マリエッタはポツリと零した。
「わたくし、もっともっと、ディー様がどんなものが好きなのか、何が嫌いなのか、知りたいわ」
「そういうことを言ってくれるのは、マリエッタくらいですよ」
「どうして?」
これまでやわらかい表情を見せていたディーだったが、急に真顔になる。マリエッタは、しまったと思った。
以前、師匠である老婆からも、何でもかんでもどうして、どうしてと聞きすぎると。
好奇心旺盛過ぎるのは、はしたない。はっきり言われた記憶が甦った。
そうでなくても、先ほど肉が嫌いな理由を問いただしてしまったのだ。
「ごめんなさい。わたくし、知りたがり屋さんで」
「知りたがり屋さん、ですか?」
「ええ、そうなの」
ディーは手で目元を隠し、肩を震わせている。
怒っているのか、呆れているのか。マリエッタにはわからない。
「あの、ディー様――」
名前を口にした瞬間、ディーは笑い始める。
「なんですか、知りたがり屋さんというのは? 恥ずかしがり屋なら、聞いたことがありますが」
「師匠に言われたの。呆れるくらい、好奇心旺盛だって」
「なるほど。言い得て妙かと」
「は、はあ」
マリエッタはディー公認の、知りたがり屋さんとなった。
初めは無表情か怒っているかのどちらかでディーだが、こうして見ると表情が豊かである。もっとたくさん、笑っているところを見たい。
マリエッタが笑わせたらいいのだが、彼の笑いのツボはいささかズレているように思えた。
「なぜ、私について、誰も知りたがらないか、という話でしたね」
「ディー様、無理をなさらないで。なんでも聞きたがる、わたくしが悪いのだから」
「いいえ、聞いてください。たぶん、ずっと誰かに話したいと、思っていたのです」
庭は賑やかだ。マリエッタは家の中へディーを招く。
心が落ち着く薬草茶と、蜂蜜入りのビスケットをふるまった。




