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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・三章 朝霧の魔女は、奮闘する!

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決意のマリエッタ

 ホッとしたのもつかの間のこと、畑の被害を思い出す。


「そうだわ。ディー様、畑の水も、ついでにどうにかしましょう」

「今から、ですか?」

「ええ、今から」


 再び馬に跨がり、街の郊外にある畑へ向かった。

 畑は辺り一面、水没している。

 余計な水はすべて蒸発させたが、ダメになった野菜はどうにもならない。

 葡萄の木は根が水没したからか、元気がなくなっていた。

 収穫間際だったジャガイモも、地上に飛び出ている。腐っているようだった。


「あ……」

「これは、仕方がないですね」


 畑は、助けられなかった。マリエッタはがっくりと、肩を落とす。


「大丈夫です。畑は、人がいる限り再生できますから。あなたは、領民を救いました。感謝しても、しきれません。深く、感謝します」

「ディー様……」


 街の人達の誤解を解いて、マリエッタの奮闘を伝えたい。ディーはそう望んだが、マリエッタは首を縦には振らなかった。


「きっと、街の人達は片付けなどで忙しいと思うわ。また今度、落ち着いた頃にくるから」

「わかりました。今回の大雨は、あなたが起こしたものではないと、誤解を解いておきますので」

「ありがとう」


 マリエッタはメルヴ・トゥリーの転移魔法で帰宅する。

 家の前には、グリージャが待っていた。


『マリエッタ、お帰りなさい』

「グリージャ、ただいま」


 マリエッタは泥だらけだったが、グリージャは気にせず抱きついてきた。


『よかった、無事で』

「ええ」

『ワア、見テ見テー!』


 メルヴ・トゥリーが、何かを発見したようだ。

 グリージャを抱き上げ、街のある方向を振り返る。


 晴れ渡った大空には、虹がかかっていた。


「きれい」

『本当に』


 頑張りに対する報酬のような虹に、ひたすら見入ってしまった。


 ◇◇◇


 大雨から一か月後――復興は完了したというので、マリエッタは街へ足を運んだ。

 ディーが街の人達を集めて、街を救った張本人であると知らせてくれる。

 感謝の言葉に包まれていたが、そればかりではなかった。


「皆、騙されてはいけない! この魔女は、ここを霧に覆う魔法をかけた悪い魔女なんだ!」


 暖かな雰囲気が、一瞬にして凍り付く。


「どういうつもりで、霧なんか発生させたんだ!」

「そうだ、そうだ!」


 ひとりが叫んだら、他の者達も続く。ディーが「止めなさい!」と言っても、治まらない。


「この、魔女め!!」


 石が飛んできた。

 マリエッタは避けずに受け止めるつもりだったが、ディーが剣の鞘で弾いた。


「誰です、今、石を投げたのは!?」


 シーンと、静まり返った。

 せっかくディーが用意してくれた場だったのに、このザマである。

 マリエッタは深々と、頭を下げた。


「ごめんなさい。いくら謝っても、犯した罪はなくならないでしょうけれど。わたくしは、一生、皆様に償うつもりでいます」


 ディーがこの場から、マリエッタを連れ出す。追いかけてまで、責める者はいなかった。

 街にある騎士隊の詰め所にたどり着いた。客間に通され、休むように言われる。


「紅茶を用意しましょう。ジュースのほうがいいですか?」

「ディー様、どうかお構いなく」


 それよりも、話したいことがある。そう言って、ディーを引き留めた。


「初めてディー様に出会ったとき、わたくしは、お願いをしたわね」

「あなたが悪い魔女か否かの監視、ですか?」

「ええ」


 マリエッタの思っていた通り、ディーは公正な態度で監視を続けていた。


「ディー様は、わたくしを悪い魔女ではないと、判断した、と言ってもいいのかしら?」


 そう問いかけると、ディーは深々と頷いてくれる。

 胸にあったもやがかった感情が、薄くなっていった。


「すべての人達に認めてもらうのは、とても難しいことなのかもしれないわ」


 マリエッタは誠意を示し続けていたら、きっと理解してもらえると信じて疑わなかった。けれども、現実は厳しい。


「犯した罪は消えない。被害に遭った人達の心も、完全に癒やされることはない。ナイフで深く傷つけた怪我の跡が一生消えないように、なかったものにはできないの」


 マリエッタは、夜霧の森の魔女の体を乗っ取った。

 彼女の体や魔力だけ、自分のものにするのは都合のいい話である。その罪までも、自身のものにしようという覚悟を決めていた。


 しかしながら、人々の怒りを目の当たりにしたときになって気づいた。

 罪までも背負うことの、過酷さを。


「ディー様、今後、街で困ったことがあれば、助けの手を差し伸べたい。でも、こうして顔を合わせて会うのは、最後にしたほうがいいと思うの」

「なぜ、ですか?」

「わたくしと関わることによって、ディー様まで悪く言われてしまいそうで、怖くて」


 マリエッタは魔法鞄から、紙の束を取り出す。

 それは、手紙を書いて折りたたむと、マリエッタのもとへと飛んでいく魔法をかけた便箋であった。


「何かあったら、このお手紙を使って。ディー様や街の人達に危機が訪れたら、飛んでいくから」


 顔は、上げられない。ディーが怒っている気配を、これでもかと感じていたから。

 マリエッタは立ち上がり、深々と頭を下げる。


「では、ディー様、さようなら」


 魔法鞄の中から転移魔法の巻物スクロールを取り出し、呪文を指先でなぞる。すると、魔法が発現された。


「マリエッタ、待ってくだ――」


 ディーの言葉は最後まで届かず、マリエッタの体は魔法の光に包まれて消えた。


 家に戻った途端、マリエッタは迎えたグリージャの前で泣いてしまう。


『ちょ、ちょっと、何がありましたの!?』

「うううっ……わああああっ!」


 もう二度と、ディーには会えない。

 それがどうしようもなく、悲しかったのだ。

 胸が引き裂かれるような思いを味わう。


 マリエッタはグリージャに抱きつき、小さな子どものように泣きわめいてしまった。

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