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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・三章 朝霧の魔女は、奮闘する!

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勇気ある行動を

 その後、しばし待つように言われる。

 副官らしき男に事情を話しているようだが、ディーも反対にあっているようだった。

 頼る相手が、〝夜霧の森の魔女〟だからだろう。無理もない。

 けれども、ディーはなんとか部下を説き伏せたようだ。五分と経たずに、戻ってくる。


「マリエッタ、急ぎましょう」

「ええ」

『メルヴ・トゥリーモ、イルヨ』

「メルヴ・トゥリーも、頼みます」

『ハーイ』


 ディーと共に馬に跨がる。

 馬は白馬だった。見目麗しいディーは、王子様のよう――だとは思わない。

 顔があまりにも険しかった。眉間に皺を寄せている王子様など、存在しないだろう。

 マリエッタだって、姫君だったが泥だらけだ。ある意味、ディーとはお似合いである。

 メルヴ・トゥリーは、ディーの背中にひしっと抱きついていた。振り落とされないように、胴に頭上から生やした蔓を巻き付けている。

 そのような状態で、馬は駆けていった。


「領民が、十五人も川に呑み込まれました」


 早い段階で、川に近づくなと注意していたらしい。けれども、様子を見に行くと言って出かけた男達が、次々と呑み込まれていったという。


 畑の作物は、川から引いた水で育てていた。そのため、すでに畑は冠水した状態だったらしい。


 騎士達はずっと、家を一軒一軒回って注意を促し、困ったことがあれば支援を続けていた。

 そんな状況だったが、騎士達の対策が遅いと、勝手に動き出す者がでてきた。

 川縁に土嚢どのうを摘めばいいと思いつき、有志を募った。その結果、男達は街に戻らなかった。


「もっと早く、注意を促していたら、こんなことには――!」


 ディーは手綱をぎゅっと握る。多くの人が死に、悔しい思いをしていたのだろう。

 マリエッタはそっと、ディーの手の甲に触れた。


「ディー様、魔法は、必ず成功させるわ」


 これ以上、街の人達を死なせはしない。マリエッタは決意する。


 雨によって増水した川は、どんどん陸地を削っていた。氾濫も、時間の問題だろう。

 勢いが止まらない川を前に、マリエッタは呆然とする。


「この川が溢れたら、街はあっという間に呑み込まれます。丘の上にある領主の館も、浸水するかもしれません」

「ええ」


 想定以上の水量である。

 魔法で水を蒸発させようと考えていたが、あまりにも多すぎた。

 増えた雨量のすべてを蒸発させたら、マリエッタの魔力が尽きてしまうだろう。

 どうすればいいものか。

 心臓が、嫌な感じに鼓動する。


 マリエッタの命と引き換えにすれば、多くの人の命を救えるのだ。

 そうだ、それしかない。


 そもそも、マリエッタは聖獣の召喚すらできず、祖国の民を窮地に陥れるところだった。

 当時の状況に比べたら、まだいい。

 人々を助けられる術を、知っている上に実行できるから。


 これ以上死者を出したら、ディーも悲しむだろう。

 命を散らすほどの魔法を使うのは、正直に言ったら恐ろしい。

 家で待つグリージャも、悲しむだろう。

 けれど、やるしかない。

 川の氾濫を止められるのは、マリエッタしかいないのだから。


 覚悟を決め、杖をぎゅっと握りしめる。

 呪文を口にしようとした瞬間、ディーが話しかけてきた。


「マリエッタ、鞄が邪魔ではありませんか? 馬の鞍にぶら下げておきます?」

「鞄?」


 ふと、魔法鞄を見下ろす。その瞬間に、マリエッタはピンと閃いた。


「鞄……そうだ、鞄よ!!」

「はい?」


 マリエッタが死なずに済む方法が、残っていた。

 無限の収納力がある魔法鞄に、川の水を移動させたらいいのだ。

 水を操るのも、多くの魔力を消費する。けれど、命を散らすほどではない。


「ディー様、ありがとう! いい方法を思いついたわ」

「いい方法、ですか?」

「ええ。川の水を、この魔法の鞄に詰め込むの!」


 マリエッタの説明を聞いたディーは、理解しがたいとばかりに目が点となる。


「あのね、これ、魔法の鞄なの。たくさんの物をどばーっと詰められる魔法がかかっていて――」

「よくわかりませんが、試してみましょう」

『メルヴ・トゥリーモ、オ手伝イ、スル!』

「ええ、お願い」


 メルヴ・トゥリーには、魔法鞄を固定させる仕事を頼んだ。大量の水が流れ込んでくるので、押さえておくだけでも大変だろう。


「大丈夫?」

『メルヴ・トゥリー、頑張ル!』

「ディー様は、見守っていて」

「そのつもりです」

「でも、危なかったら逃げてね」


 返事をしないので、抗議のつもりでディーを振り向く。


「安心してください。危険を感じたら、あなたを連れて逃げますので」

「わたくしはいいの!」

「よくないです。私についてはいいので、早く魔法を頼みます」

「え、ええ、そうね」


 マリエッタは杖をぎゅっと握り、キッと川を睨む。

 呪文を唱えた。


「――水よ《ヴァーテル》、流れを我が方向へ!」


 一方的に流れるばかりだった川に、渦巻きが生じた。

 細く巻き上がった水は、マリエッタのほうへ飛んでくる。

 向かう先は、魔法鞄の中。勢いよく流れていくが、メルヴ・トゥリーが支えているおかげで問題なく収納されていた。


 魔力がものすごい勢いで消費されていく。魔法を維持させる杖も、ビリビリと震えていた。

 地面はぬかるみとなっているので足の踏ん張りが効かずに、どんどん下がっていく。


「くっ……!!」


 まだまだ、川の水は大量にあった。魔法の展開は続けないといけない。

 歯を食いしばり、状況に耐える。


 手の感覚は、ほとんどなかった。

 杖を手放したら、水は街へと流れてしまうだろう。それだけは、絶対にあってはならない。


 一瞬でも気を抜いたら、体が吹き飛ばされる。

 わかっているのに、これまでにない魔力の消費に、気を失ってしまいそうだった。


 順調に、川の水は魔法鞄の中へと流れている。もう少しだけ、頑張らないといけない。


「はあ、はあ、はあ――ううっ!!」


 強い風が吹いた。

 足下がふらつき、手から杖が離れそうになる。


 もう、ダメ! 

 そう思ったのと同時に、ディーがマリエッタの腰を抱いて体を支えた。

 それだけではなく、がたつく杖も押さえてくれる。


「ディー様!!」


 術者以外が、魔法を使うさいに杖に触れるのは危険だ。

 現に、杖を握るディーの手から、血が滴っている。


「ディー様、離して! 危険だわ!」

「私のことは気にせず、魔法に集中してください。終わるまで、こうして支えておきますから」

「ディー様……!」


 あと少し、あと少しだ。

 マリエッタは歯を食いしばり、魔力の消費に耐えた。


 勢いあった川の流れが、落ち着いていく。

 もう、大丈夫。

 そう判断したのと同時に、マリエッタは膝から頽れた。


「マリエッタ!」


 ディーがマリエッタを抱き寄せ、支えてくれる。


「川、もう、大丈夫?」

「ええ。流れは収まったようです」

「よ、よかった……」


 メルヴ・トゥリーが魔法鞄の蓋を閉じ、マリエッタへと差し出してくれた。


「メルヴ・トゥリーも、ありがとう」

『イイヨ!』


 ゴホゴホと咳き込んだら、口元を押さえた手が真っ赤に染まっていた。

 おそらく、魔力の使い過ぎだろう。

 人は魔力をもって、世界と繋がっている。魔力がなくなれば、生きてはいけないのだ。

 意識が遠のいていく。そんな状況の中で、メルヴ・トゥリーが思いがけないことを言った。


『メルヴ・トゥリーノ葉ッパ、食ベテ』

「え?」


 メルヴ・トゥリーは頭上に生えた葉っぱを引き抜くと、ディーに手渡す。


『食ベサセテ』

「こ、これを、ですか?」

『ウン。元気ニ、ナルカラ』


 メルヴ・トゥリーは、世界樹から生まれた精霊。魔力が満ち、生命力に溢れたその葉を食べると、瞬く間に元気になるという。


 ディーはメルヴ・トゥリーの言葉を信じ、葉をマリエッタの口に含ませた。


「う……!」


 ごくんと飲み干したあと、冷え切っていた体が一気に温かくなる。そして、脱力している状態だったが、活力が戻ってきた。

 倦怠感や息苦しさも、なくなった。

 ディーの胸に背中を預けなければ起き上がれなかった重たい体も、一瞬にして軽くなる。


「嘘……!」

『元気ニ、ナッタ?』

「ええ、元気」


 マリエッタは立ち上がって見せる。ディーは信じられないと、呟いていた。


「メルヴ・トゥリー、ありがとう!」

『イエイエ。ツイデニ、雨モ、止メルネ』

「え?」


 メルヴ・トゥリーは何やら鼻歌を歌いつつ、くるくると踊りながら回る。


『ふんふんふん~、△×○□~~♪』 


 発音は、言葉にできない。すぐに、精霊語だと気づいた。

 妖精語と異なり、精霊語の研究はまったくと言っても過言ではないほど進んでいかなった。人間族には理解できない、未知なる領域でもあるという。


 そんな精霊語の歌を口ずさむメルヴ・トゥリーの周囲には、淡く輝く魔法陣が完成していた。


『×××、△△△、○○○~~~!!』


 メルヴ・トゥリーが両手を掲げると、雲間から太陽の光が差し込んだ。

 そこから一気に、雨雲が消えてなくなる。

 あっという間に雨は止み、空は晴れた。


「なっ……!」

「は、晴れた、わ」


 川の勢いは収まり、雨も止み、空は晴れている。

 先ほどまで、危機的状況だったとはとても思えない。

 ひとまず、マリエッタはメルヴ・トゥリーに感謝の気持ちを伝えた。


「あの、メルヴ・トゥリー、ありがとう。驚いたわ。あなた、とてもすごいことができるのね」

『ウン!』

「私からも、感謝する」

『イエイエ~』


 ひとまず問題解決――。

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