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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・三章 朝霧の魔女は、奮闘する!

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クリスタリザーシーへ

 しとしと、しとしとと雨が降る。

 雨期がやってきたようだ。一年に一度、雨が降り続ける日があるらしい。


「雨が降る雰囲気とか、雨音は好きだけれど、毎日続くとちょっぴり飽きてしまうかも」

『マリエッタ、あなたでも飽きますのね。何でもかんでもいい方向に捉えて、毎日雨最高! とか言いそうなのに』

「そこまで脳天気じゃないわ」

『あらあら、ごめんなさい』


 雨も今日で五日目。今日はまだ雨量は少ないほうだが、街のほうは分厚い雲が浮かんでいる。


『きっと街は、大雨でしょうね』

「そんな……!」


 この五日間、ディーと会っていない。

 これまで、三日に一度は顔を合わせていた。そのため、たった五日間会わないだけで、長く会っていないように錯覚してしまうのだ。


 毎日雨だが、元気だろうか。マリエッタは気になって仕方がない。


「五日も降ったら、恵みというよりは、厄災だわ」


 先日メルヴ・トゥリーと森野菜を植えた畑も、危うく水没しそうになった。

 今は魔法で水はけをよくし、必要以上に雨が降り注がないようにしている。


 一生懸命作った畑である。台無しにさせるわけにはいかなかった。

 と、ここで気づく。

 マリエッタの畑がこれだけダメージを受けているのならば、街の畑も似たような状況ではないのかと。


「わたくし、街に行ってくるわ」

『は?』

「街の畑も、冠水かんすいの被害に遭っているかもしれない」

『え? マリエッタ、ちょっとお待ちになって。どうして、あなたが街に行きますの?』

「だって、街の人達は、一生懸命作物を育てているわけでしょう? 雨でダメになったら、悲しいと思うの」

『でも、無関係のあなたが行く必要はないと思うのですが』

「それは、そうだけれど……」


 マリエッタは冠水寸前の状態を見てショックを受けた。半日使って作った畑でさえ、ここまで思い入れがあるのだ。

 ずっと世話をしていた畑や農作物がダメになったら、街の人達の落胆は大きいだろう。

 いてもたってもいられない。そういう状態だった。


「わたくしは、畑の冠水を防ぐ方法を知っているわ。その力を、街の人達のために使いたいの」

『でも、こんな薄暗い雨の中、どうやって街まで行きますの?』 

『メルヴ・トゥリーニ、任セテ!』


 天井にぶら下がっていたメルヴ・トゥリーが、蔓を伝ってするする降りてくる。


『転移魔法デ、街マデ、連レテイッテ、アゲルヨ』

「メルヴ・トゥリー、ありがとう!」


 マリエッタはメルヴ・トゥリーの体を、ぎゅっと抱きしめる。葉っぱが頬に突き刺さっていたが、気にしない。感謝の気持ちを伝える。


「グリージャはお留守番をお願い。サッと行って、すぐに戻ってくるから」

『本気ですの?』

「ええ、本気よ」

『でも、街のほうは酷い雨ですわ。今日は寒いし、風邪を引いてしまうかもしれない』

「大丈夫」

『大丈夫ではありませんわ!』


 グリージャはマリエッタに、お人好しが過ぎる、わからず屋さんだと叫んだ。大きな瞳が、ウルウルと潤んでいる。マリエッタを心から心配しているのだろう。


「グリージャ、ありがとう」

『なぜ、お礼を言いますの? 私は、あなたに怒っているのに!』


 言葉を返す代わりに、マリエッタはグリージャをぎゅっと抱きしめた。


「グリージャは、わたくしの帰りを待っていて」

『……』


 グリージャから離れ、頭を撫でる。

 こうしてはいられない。準備をしなくては。

 まず家用の魔女の外套を脱ぎ、洗濯籠に放り込む。

 クローゼットから取り出したのは、防水魔法を施した外套。内側に、ありとあらゆる水を弾く魔法陣が描かれている。雨の日でも、庭仕事ができるように作っていた一着だ。

 防水外套を着込んで、頭巾を深く被った。

 物置部屋に並べられた、身の丈ほどもある杖を手に取った。先端に六角柱形の水晶があしらわれている。マリエッタの手に驚くほど馴染んだそれは、触れただけで体内の魔力が活性化された。

 杖は、魔法使いにとってのマッチ棒みたいなものだ。

 人はマッチ棒があれば、簡単に火を熾せる。それと同じように、杖があれば魔法を比較的簡単に発動させることが可能なのだ。


 物置部屋には、多くの品物を詰め込めることが可能な〝魔法鞄〟もあった。


「この鞄、すごいわ」


 魔法鞄の容量は、〝無限〟と魔法陣に描かれいる。

 限りない物資を、詰め込むことを可能としているようだ。

 年季の入った鞄だ。歴代の魔女から受け継いだ古い品物なのだろう。


「そうだわ!」


 マリエッタは思いつく。

 もしかしたら、薪がなくて寒い思いをしている人達がいるかもしれない。そう思って、火の魔石をあるだけ詰めておく。食べ物に困っている人達もいるだろう。パンや保存食なども持っておいた。


「よし! メルヴ・トゥリー、行きましょう」

『ハーイ!』


 メルヴ・トゥリーは元気のいい返事をしてくれた。グリージャは、目をウルウルさせたまま、マリエッタを睨んでいる。


「グリージャ。みんなで暮らす大事な家だから、守っていてね」

『そんなの、わかっていますわ!』

「ありがとう」


 いつの間にか、しとしと雨から本降りになっていた。街のほうは、さらに酷くなっているという。


 メルヴ・トゥリーはブツブツと、呪文を唱えている。

 足下に、魔法陣が浮き上がる。

 体が、ふわりと軽くなった。転移魔法が発動したのだろう。


『マリエッタ、気を付けて』

「うん!」


 グリージャと言葉を交わした瞬間、視界がくるりと回転した。

 一瞬真っ暗闇の中に包まれたが、すぐに周囲の景色が変わる。


 ふわふわしていた感覚から、急降下した。


「きゃあ!」

『ワー!!』


 なんとか着地する。

 ここが街? という言葉は、土砂降りの雨にかき消された。

 水が満たされた桶をひっくり返したような、強い雨である。


 メルヴ・トゥリーは頭上から生える葉っぱを大きく成長させ、傘のようにして雨を弾いていた。


 舗装されていない道は、ぬかるんでいて酷いありさまだ。

 辺りには木造の家が並んでいる。木々が並び、自然豊かな街のようだ。

 このような大雨の中、人々が行き交っている。何かあったのだろうか。

 男達だけでなく、女達までも雨に濡れながら忙しなく走り回っていた。


「きゃあ!」


 マリエッタの脇を通り過ぎようとしていた女性が、ぬかるみに足を取られて転んだ。

 年頃は四十代くらいだろうか。傘も差さずに、全身びしょ濡れだった。

 助けてあげないと。マリエッタはすぐに動く。


「大丈夫!?」


 駆け寄って手を差し伸べたが、顔を上げた女性はマリエッタを見てハッと肩を震わせた。


「その黒い外套……! あんた、もしかして〝夜霧の森の魔女〟かい!?」

「いえ、わたくしは――」

「この、憎たらしい魔女め!!」


 女性はそう叫び、泥の塊をマリエッタに投げつけた。頬に当たり、顔が泥まみれとなってしまう。


「この雨も、あんたのせいだろう?」

「いいえ、違う」

「あんたのせいなんだ!!」


 続けざまに泥を投げつけられた。全身、泥まみれとなってしまう。

 外套は水を弾くものの、泥は想定していなかった。


「氾濫しかけた川を見に行った男達が、大勢呑み込まれたんだ! あんたのせいで!」

「川……?」

「ああ、そうだ」

「川が、氾濫しそうなの?」

「そうだと言っているだろうが」


 ならば、マリエッタが様子を見に行く先は畑ではない。川だ。

 踵を返そうとしたところで、女性から腕を掴まれる。


「一発、殴らせろ! うちの夫は、死んだんだ!」

「きゃあ!」


 メルヴ・トゥリーが『喧嘩ハ、ダメー!』と割って入ろうとしたが、女性の肘鉄を受けて吹き飛ばされてしまう。


『ワー!』

「メルヴ・トゥリー!」


 女性が拳を振り上げた瞬間、背後より鋭い声が響く。


「何をしているのですか!!」


 振り返った先にいたのは、馬に跨がったディーであった。背後に、多くの男達を従えている。


「ディディエ様! 大雨は、夜霧の森も魔女の仕業なんです」

「そうではないと、説明したでしょう! これは、自然災害です!」


 騎士が駆け寄り、女性を引き寄せる。拘束から逃れたマリエッタは、そのままぬかるみの中に突っ込んでしまった。


「マリエッタ、大丈夫ですか!?」


 ディーが駆け寄り、泥だらけのマリエッタを起き上がらせてくれる。


「あ……、ディー様、ありがとう、ございます」

「あなたは、どうしてこんなところにいるのですか?」

「街の畑が、冠水していると思って、心配して、やってきたの」


 大変なのは、畑ではなかった。街の近くにある川が、氾濫しかけているという。


「ここは危険です。今すぐ逃げてください」


 川が氾濫したら、街をも呑み込む。これから領民全員、避難させるという。


「でしたらわたくしが、川の氾濫を魔法で止めるわ!」

「何を、言っているのですか?」

「水を操る術を、知っているの。それに、メルヴ・トゥリーもいるから」

「メルヴ・トゥリー?」


 ディーの近くに立っていたメルヴ・トゥリーが、手を掲げて挨拶する。


『メルヴ・トゥリーダヨ』

「な、なんですか、これは?」

『森の精霊よ』

「精霊!?」


 いつもいつでも冷静沈着なディーであったが、精霊の登場には度肝を抜かれたのだろう。青い瞳を、極限まで見開いている。


「川は、わたくしに任せて。ディー様は、避難を」

「何を言っているのですか。あなただけに、任せるわけないでしょう」

「え?」

「一緒に行きます」

「でも、危険だと思うの。成功するかも、わからないし」

「自信がなければ、挑まないでください。迷惑です」

「い、いえ! 自信は、あるわ! 大丈夫。きっと」


 それは、マリエッタ自身に言い聞かせるような言葉でもあった。


「成功する自信があるのならば、私も同行します。あとのことは、部下に任せますので」

「あ、待って! 食料を、持ってきたの。街の人達に、渡してくださる?」

「ええ、わかりました。その、ありがとうございます。助かります」


 雨のせいで、物流が滞っているらしい。食べる物にも困っている者達がいるようだ。

 マリエッタは魔法鞄から食料を取り出し、ディーの部下らしき男性に託す。

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