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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・三章 朝霧の魔女は、奮闘する!

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メルヴとお仕事をしよう

 美しい鳥のさえずりで、マリエッタは目を覚ます。

 起き上がり、背伸びをした。


「んん~~!!」


 マリエッタの隣では、グリージャが丸くなって眠っていた。起きる気配はなし。

 天井からは、メルヴ・トゥリーがぶらさがっている。頭部から生やした蔓を、天井のはりに巻き付けているのだ。

 ぷうぷうと鼻提灯を膨らませて眠っている様子は、可愛いとしか言いようがない。

 マリエッタが「ふふ」と笑うと、メルヴ・トゥリーは目を覚ましたようだ。


「おはよう、メルヴ・トゥリー」

『ンンッ……ア、オハヨー!』


 ぶら下がるために使っていた蔓を収納し、見事な着地を見せる。マリエッタは思わず拍手した。

 これだけ騒がしくしても、グリージャは眠ったまま。朝食ができると目を覚ますので、今はそのままにしておく。


 まずは、洗面所へ向かって身なりを整える。

 顔を洗い、歯を磨いた。髪の毛を梳り、三つ編みにまとめた。

 寝間着を脱いで、シンプルなワンピースをまとう。その上から、魔女の外套を着込んだ。

 メルヴ・トゥリーは葉っぱを濡らしたタオルで拭いてあげた。

 グリージャはブラッシングを嫌がるが、メルヴ・トゥリーは手入れを受け入れてくれる。

 それどころか、心地よさそうに目を細めるのだ。


『アリガトネエ』

「どういたしまして」


 互いに会釈したあと、マリエッタのお腹がぐーっと鳴った。


「朝食の準備をしましょう」

『ハ~イ!』


 台所へ行き、食品棚の前で腕を組む。

 森の動物達のおかげで、食料は豊富だ。今は、何を作ろうかと悩むくらいである。

 マリエッタが手を伸ばしたのは、森リンゴ。森に自生する、小ぶりの果実だ。


「今日は、森リンゴのパンケーキにしましょう」

『ワーイ』


 料理が決まると、調理台の上でメルヴ・トゥリーが小躍りする。その様子は、愛らしいとしか言いようがなかった。


 マリエッタはおたまを握り、魔女術で行うパンケーキ作りを開始した。

 まず、材料を並べて行く。

 二種類の小麦粉にふくらし粉、砂糖に塩、卵、牛乳、バター、水。

 ボウルを置いて、呪文を唱えた。


計量せよ(メジャリング)!」


 おたまで指し示した小麦粉が、触らずとも宙に浮いて傾く。ほどよい量が、ボウルの中へと入っていった。

 そこに、ふくらし粉、砂糖、塩が加えられ、よくかき混ぜる。

 これに、別のボウルに入れて混ぜた卵、牛乳、水を入れながら撹拌魔法でくるくる生地を合わせるのだ。 

 油を塗った鉄板を用意し、生地と一緒に魔法をかけた。

 すると、生地が鉄板に跳んでいき、ジュワジュワと音を立てながら焼けていく。自動でひっくり返り、完全に焼けたら皿のほうへと跳んでいった。パンケーキの完成である。


 同時進行で、森リンゴの調理に取りかかる。


「包丁とん、とん、とん」


 マリエッタが唄うように呪文を唱えると、包丁が動いてリンゴを薄くカットしていった。

 これを、魔法で熱した鍋で、砂糖に絡めつつ焼いていく。

 アッという間に、森リンゴのキャラメリゼの完成である。


 パンケーキを三枚重ね、バターを載せる。その上から、リンゴのキャラメリゼを乗せ、ソースを垂らす。グリージャの分と、ふたり分盛り付けた。

 魔女のパンケーキ、森リンゴのキャラメリゼを添えて、の完成である。

 メルヴ・トゥリーには、蜂蜜を湯で溶いたものを作った。これが、大好物らしい。


「メルヴ・トゥリーは、蜂蜜湯を運んでね」

『ハーイ!』


 パンケーキを食卓へ持って行くと、すでにグリージャが待っていた。


「あ、グリージャ、おはよう。もう起きたんだ」

『おはよう。甘い匂いで、目が醒めました』

「そっか」


 食材への感謝の命をしたのちに、パンケーキをいただく。

 ナイフで一口大にカットし、キャラメリゼしたリンゴとともに頬張った。


「んん~~~~~!!」


 生地の外側カリカリ、中はふんわり。森リンゴの甘酸っぱさと、キャラメルソースの濃厚な甘さがパンケーキとよく合う。

 バターが溶けたところは、甘塩っぱくておいしい。


 グリージャも、ナイフとフォークを器用に操り、パンケーキを食べている。尻尾はご機嫌な様子で、左右に揺れていた。

 メルヴ・トゥリーは、小さな口で蜂蜜湯をゆっくり飲む。葉がツヤツヤになってきたので、おいしくいただいているのだろう。


 お腹がいっぱいになったら、ひと休み。

 メルヴ・トゥリーとグリージャは、窓から差し込む光に包まれ、気持ちよくなったのだろう。寄り添って眠っている。

 マリエッタも、欠伸が零れた。起きたばかりだというのに、うとうとしてしまう。


「少しだけ……」


 マリエッタも長椅子の背もたれに体を預けながら、眠ってしまった。


 ひと眠りしたあとは、庭仕事をする。

 庭の雑草を魔女術で引き抜き、花や木々に水を与えていった。

 水球を魔法でいくつも作り、おたまで指し示して飛ばしていく。

 若干、水球の着弾位置がズレたときは、メルヴ・トゥリーが蔓で叩いて軌道修正してくれた。

 グリージャは庭に置かれた樽の上で微睡んでいる。日なたぼっこを楽しんでいるのだろう。


 今日は、庭に畑を作る。

 動物達が持ってきてくれた、森野菜を植えるのだ。

 森野菜というのは、森の中に自生する野菜だ。人が作る野菜と異なり、魔力を多く含んでいる。全体的に小ぶりではあるものの、栄養たっぷりでおいしいのだ。

 森野菜作りで重要なのは、土壌に魔力がたっぷりあること。

 そのため、通常の野菜作りとは方法が異なる。


「えーっと、まずは、土を耕してふかふかにする」


 マリエッタは魔女が所持していたクワを手に取り、土へと振り下ろす。だが――。


「か、固い!!」


 長年、魔女が何度も行き来し、圧し固められた土は簡単に解れなかった。


「うう……!」

『メルヴ・トゥリーニ、任セテ!』

「え?」


 メルヴ・トゥリーは自らの身の丈よりも大きなクワを手に取り、力強く振り上げた。

 そして、下ろされたクワの刃は、土をえぐる。

 ざっく、ざっくと土は掘り返されていく。


「わー、すごい! メルヴ・トゥリーって、力持ちなのね」

『エヘヘ』


 メルヴ・トゥリーは土を耕し、マリエッタは森野菜の成長の妨げになる石や虫の幼虫を除去していった。


 一時間ほどで、土は解された。

 マリエッタとメルヴ・トゥリーは、同時に「ふう」と息をつく。


『次ハ?』

「森野菜の栄養分となる、粉末魔石を撒くの」


 粉末魔石――それは魔力を多く含む魔石を粉砕したものである。

 夜霧の森の魔女は多くの魔石を持っていたので、昨晩、マリエッタが魔法で粉末状にしていたのだ。


「これが、粉末魔石よ」

『ワー、キレイダネ』

「別名、砂粒宝石って呼ばれているわね」


 魔石自体が、宝石のように美しいのだ。

 粉末魔石は四大属性――火、水、風、土の魔石を均等に混ぜて作ることが推奨されている。マリエッタは魔法書に書かれていた通りに、粉末魔石を作成した。


 マリエッタが粉末魔石を撒き、メルヴ・トゥリーが土を混ぜていく。

 最後に、土を熟成させる魔法をかけたら、森野菜が育つ土壌の完成だ。

 おたまを構えたマリエッタは、呪文を唱える。


「――ふかまれ、熟成エージング


 畑の表面に大きな魔法陣が浮かび上がり、淡く光った。すると、土全体が発光し、魔法陣が弾けるのと同時に収まる。

 土は驚くほどサラサラ、ふかふかになった。  


「よし、大成功!」

『ヤッタネ』


 マリエッタは外套のポケットから、森野菜の種を取り出す。

 レタス草に、茎ニンジン、花トマト、小玉ジャガイモ、甘露タマネギと、五種類の種を貰っていたのだ。


 畑に畝を作り、種を植えていく。

 最後に、水をたっぷりあげたら、あとは月の光が育ててくれる。

 通常の野菜は陽光を受けてすくすく育つ。

 一方で、森野菜は魔力をたっぷり含んだ月光で育つのだ。

 順調に育ったら、一か月ほどで食べられるようになる。


「楽しみだね」

『ウン、楽シミ!』


 作業がいち段落すると、昼食の時間となった。

 マリエッタは肉団子のスープ作りに取りかかる。

 すでにスープは仕込んでいたので、あとは肉団子を作るばかりだ。


 魔法で豚肉と野菜を細かく挽いて混ぜる。アクセントとして、茎ニンジンを入れるわけだが、最後の一本を使ったことをすっかり忘れていた。


「どうしよう。茎ニンジン、庭に自生していたのはすべて取ってしまったし……!」


 茎ニンジンは、コリコリとした食感が楽しめる森野菜である。魔女術で作る肉団子に欠かせない食材だ。


「うーん。コリコリした食感があるのとないのでは、違うのよねえ」

『ダッタラ、メルヴ・トゥリーノ、葉ッパ、使ッテイイヨ』

「え!?」


 そう言って、メルヴ・トゥリーは頭上に三枚生えた葉っぱのうちの一枚を引き抜き、マリエッタへそっと差し出した。


「そ、そんな! メルヴ・トゥリー、葉っぱ、採っても大丈夫なの?」

『ウン、平気。明日ニナッタラ、新シク、生エルヨ』

「そ、そうなんだ……」


 だったらと、ありがたくいただく。

 メルヴ・トゥリーの葉っぱも、コリコリとした食感を楽しめるらしい。

 感謝しつつ、メルヴ・トゥリーの葉っぱを細かく切って肉団子の生地の中に混ぜた。

 塩、コショウ、香辛料で味付けした生地を、魔法で丸めて揚げていく。

 ジュワジュワと音を立てながら、肉団子が揚がっていった。

 それを、スープの中へと入れる。しばらくぐつぐつ煮込んだら、肉団子のスープの完成だ。


 グリージャを呼んで、食卓につく。


『まあ! おいしそう!』

「たくさん食べてね」


 メルヴ・トゥリーには、蜂蜜ゼリーを作ってあげた。食べやすいように砕いて、甘い炭酸ジュースで割っている。


「さあ、いただきましょう」


 食材に感謝しつつ、いただきます。

 肉団子は大きいので、ナイフで割った。すると、肉汁がジュワーッと溢れてくる。それがスープに溶け込んで、極上の味わいとなるのだ。

 一口大にカットした肉団子を、マリエッタは頬張った。


「むむうっ!?」


 噛むと、さらに肉汁が溢れてくる。野菜と肉の旨みが、じゅぎゅっと濃縮されているようだった。

 メルヴ・トゥリーの葉っぱのコリコリ感もいいアクセントとなっていた。


「というか、メルヴ・トゥリーの葉っぱ、ものすごくおいしいわ!」


 マリエッタの発言を聞いたグリージャが、飲んでいた水を噴き出しそうになった。


『ちょっ! なんてものを食材として使っていますの!?』

「だって、魔女の肉団子には、コリコリとした食感がどうしても必要だったの!」

『メルヴ・トゥリーノ葉ッパ、オイシイ?』


 問いかけられたグリージャは、こくりと頷く。


『ヨカッタ!』


 メルヴ・トゥリーのおかげで、最高の昼食となった。

 お腹いっぱい食べ、朝と同じく眠ってしまったのは言うまでもない。

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