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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・二章 新米魔女は、騎士と邂逅する

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世界樹の大精霊

 翌日――マリエッタは外にでて驚く。

 家の前に、キノコや果物、魚など、食品が届けられていたのだ。


「こ、これは!?」


 驚いているところにコッコがやってきて、卵を産み落としていく。


「えっ、ええ~~!?」


 コッコはマリエッタに会釈し、去って行った。

 グリージャが家からひょっこり顔を覗かせる。


『マリエッタ、どうしましたの?』

「グリージャ、見て。食料が、こんなにいっぱい!」

『まあ!』


 葉っぱに何か引っ掻いたようなものが添えられてあった。


「これ、何かしら?」

『妖精語ですわね。〝森をきれいにしてくれて、ありがとう〟と書かれてありますわ』

「では、これらはお礼の品々なのね」

『そうみたい』


 ありがたく、いただく。

 キノコはオイル漬けにしたり、乾燥させたり。

 果物はジャムやシロップ漬け、ジュースにする。

 魚は燻製にした。

 あっという間に、食料棚が潤う。


「これで、しばらく食料に困りませんわね!」

『お店屋さんみたいですわ』


 昼食は、保存食作りのさいに余った魚の骨で出汁を取ったスープ。

 グリージャが大絶賛してくれた。

 昼からはビスケットを焼いて、グリージャと共に森へ行く。

 妖精や動物達の「ありがとう」という囁きが、どこからか聞こえてきた。

 直接礼を言う者達へは、お近づきの印としてビスケットをあげた。


 たどり着いた先は、森でもっとも大きな樹が生える場所。

 ここに、森の精霊が棲んでいるという。


『この樹は、世界樹の種から生まれた樹ですの』

「そうなの」


 世界樹――それは、月から降り注ぐ魔力を溜めることができる、唯一の樹だ。

 溜めた魔力を精製し、供給している。世界の核とも言えるものなのだ。

 どこにあるのかは明らかにされておらず、世界樹自体が創作なのではと囁かれるくらいである。


「ということは、こちらの樹は、小規模な世界樹、というわけなの?」

『ええ、そうですわね』


 守護する精霊を、グリージャですら見たことがないという。

 街ができる前から立ち、この地を守っているようだ。

 おそらく、大精霊が宿っているのだろうとグリージャは推測している。

 マリエッタはドキドキしながら、大樹を見上げた。

 神聖は気を、これでもかと感じる。

 だが、ずっとこうしているわけにもいかないだろう。

 何事も挑戦だと思い、声をかけてみる。


「ご、ごきげんよう」


 声をかけると、樹が淡く光った。

 魔法陣が浮かび上がり、精霊が姿を現す。


 精霊は、どんな姿をしているのか。

 その詳細は、どの魔法書を読んでも曖昧だ。

 美しい女性の姿だったり、逞しい男性の姿だったり。

 見たことのない四足獣だったり、光の塊だったり。

 また、姿も声もないけれど、存在を感じるという記述のある魔法書もあった。

 妖精のように、姿は一定ではなく、見た本人の想像力に依存している、という研究報告も見かけた。

 ようは、精霊の姿を見た人はほとんどおらず、各々自由に想像し解釈しているのだろう。


 ドキドキしながら、精霊が現れるのを待つ。

 魔法陣が消え、精霊の姿が明らかになった。


 天を衝くような大樹の前に、毒大根マンドラゴラに似た、目と口、手足がついた生き物が立っていた。

 大きさは、生まれたばかりの赤子くらいか。

 木の枝と葉っぱの手を、サッと挙げて言葉を発する。


『ハジメマシテ、〝メルヴ・トゥリー〟ダヨオ』

「メ、メルヴ・トゥリー?」

『ウン、ソウ』


 摩訶不思議な生き物は、メルヴ・トゥリーと名乗った。

 マリエッタは震える声で、問いかける。


「あなたが、この森を守護する精霊なの?」

『ソウダヨー』


 手足をジタバタさせながら、言葉を返す。

 どうやら、この大根のような生き物が、この森を守護する大精霊らしい。

 厳かな雰囲気は、これっぽっちも感じなかった。どこか愛嬌があって、可愛らしいと言えばいいのか。

 マリエッタは横目でグリージャを見る。目を見開き、信じがたいという視線を向けていた。


『ヨロシクネー』

「あ、えっと、よろしく」


 メルヴ・トゥリーは、サッと手を差し出してくる。握手を求めているのか。

 マリエッタは恐る恐ると接近し、メルヴ・トゥリーの手を握った。

 触れた瞬間、ほわっと心が温かくなる。

 自身の中にある不安や焦る気持ちが浄化されたような、不思議な感覚になった。


『コレカラ、困ッタラ、メルヴ・トゥリーガ、助ケテ、アゲルカラネエ』

「あ、ありがとう」


 これにて、精霊メルヴ・トゥリーとの会話は終了となった。

 暖かな風が吹くのと同時に、メルヴ・トゥリーの姿は消えてなくなる。


 しばしぼんやりしていたが、グリージャの叫びでハッと我に返った。


『ちょっとマリエッタ! あなた、大精霊と契約状態になっていますわよ!』

「え!?」


 グリージャは手の甲を見ろと言う。


「え、何これ!?」


 いつの間にか、手の甲に葉っぱに似た紋章が浮かび上がっていた。

 大精霊メルヴ・トゥリーとの、契約の証らしい。


「い、いつの間に契約したの?」

『握手したときですわ、きっと!』

「ええーーーー!?」


 メルヴ・トゥリーとの間に結んだ契約は、極めて珍しいものだという。

 通常、精霊や妖精と契約を結ぶさい、対価を必要とする。

 けれども、マリエッタとメルヴ・トゥリーが交わした契約は、対価はない。無償でメルヴ・トゥリーはマリエッタの呼び出しに応える、と紋章に書かれてあるという。


「こんなのって、ありなの?」

『ありえないですわ』


 イマイチ実感しないまま、帰宅する。


「あら?」


 家から賑やかな声が聞こえた。

 なんと、熊や兎、鳥達が庭で列を成していたのだ。

 いったい何をしにきたのか。マリエッタは背伸びをして様子を窺う。


『これ、魔女さんに。いいカゴが作れると思うよ』


 鹿が、角に絡めた蔓を持ってきていた。


『アリガトネエ』


 大精霊メルヴ・トゥリーが、うやうやしく受け取っているではないか。

 熊は木の皮を、鳥達は珍しい花をマリエッタに持ってきていた。

 森をきれいにしてくれた、感謝の気持ちだという。


 慌てて出て行ったら、ありがとうの大合唱を受ける。


「えっと、ど、どういたしまして……」


 食料だけ押しつけるのも迷惑だろうと思い、暮らしに使える素材を持ってきてくれていたようだ。

 それを、マリエッタと契約したメルヴ・トゥリーが受け取っていたというわけである。

 メルヴ・トゥリーと一緒に、去りゆく動物達へ手を振った。


「まさか、わたくしよりも早くやってきていたなんて」

『森ノ中ハ、自由ニ、行キ来、デキルンダヨオ』

「そ、そうなのね」


 どうやら、メルヴ・トゥリーも一緒に住むらしい。

 グリージャは仕方がない、という表情でいた。

 マリエッタは、当然大歓迎である。


 そんなわけで、マリエッタの家に新しい住人が増えた日の話であった。

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