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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・二章 新米魔女は、騎士と邂逅する

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たくさんのお客様

 コツコツコツコツと小さく扉が叩かれる。

 ディーが初めてやってきたとき、失敗したので外に出る前に声をかけた。


「どなた?」

『俺様だ!』

『ぼくもいるよ』

『あたしも!』


 この可愛らしい声は、リスの兄弟妹である。マリエッタはすぐに扉を開いた。


「まあ、いらっしゃい!」

『邪魔するぞ!』

「ええ、そうぞ」


 兄はずんずんと、大股で入って行く。弟と妹は、会釈したのちに兄のあとを追った。

 土産に、たくさんのキノコや木の実をもらう。


「こんなにたくさん、いいの?」

『ああ。受け取りやがれ』

「ありがとう」


 お返しとばかりに、マリエッタは蜂蜜を塗ったビスケットと薬草茶をふるまった。


『な、なんだ、このドロドロとした甘いものは!』

『おいしい!』

『舌がとろけそう!』


 蜂蜜は蜜蜂の巣から採り、不純物を丁寧に取り除いたものである。森に棲む者達にとっては、未知なる甘味なのかもしれない。


『ジャムもうまかったが、この蜂蜜とやらも絶品だな』

「お口に合ったようで、何よりだわ」


 薬草茶を飲んでホッとひと息ついたところで、本題へと移る。


『そうだ。俺様達は、お礼を言いに来たんだった!』

『そうだった!』

『忘れていたわ!』

「お礼?」


 なんのことか。頭上に疑問符はてなを浮かべるマリエッタに、リスの兄弟妹が口々に感謝の気持ちを口にした。


『森をきれいにしてくれて、ありがとうな』

『森のみんな、喜んでいたよ。ありがとうね』

『妖精さんや精霊さんも、にこにこしていたよ。本当に、ありがとう』

「ええ、そう。よかった」


 マリエッタの浄化魔法は、森全体にまで及んだ。おかげで、過去にないくらい美しい森になっているという。

 木々は甦り、草木は活き活きとしている。森に棲む生き物たちも、快適になったと口々に話しているようだ。


『みんな、何かあったら手を貸す、助けを求めてくれと言っていたぞ』

「嬉しい……!」


 森を荒らす魔物もいなくなり、平和だという。話を聞いていたら、マリエッタまで嬉しくなった。


『さっきのキノコや木の実は、森の仲間達から感謝の気持ちだ』

「そうだったの。こんなにたくさん」

『精霊も、暇があれば挨拶にこいってさ』

「精霊様まで!?」


 通常、精霊は人の前に姿を現さない。勇者や聖女などの、選ばれた人間の前でのみ、新鳴る姿を見せるという。

 そんな精霊が会いにこいと一介の人間に言うのは、前代未聞だろう。


「なんだか、緊張するわ!」

『別に、構える必要はねえよ。優しい精霊だから』

「そうなのね」


 一時間ほどリスの兄弟妹と会話を楽しんだあと、別れる。

 森の精霊に会いに行こうかとグリージャに話したら、引き留められた。


『マリエッタ、今日一日くらい大人しくできませんの? あなたは昨日、寝込んでいたことを、お忘れになったのでしょうか?』

「そ、そうよね」


 庭くらいであればいいだろうか? マリエッタが問いかけたら、グリージャが目を鋭く尖らせて叫んだ。


『庭仕事も、駄目に決まっています』


 あまりにも大きな声だったので、家が揺れた。天井から、パラパラと砂の粒が落ちてくる。


「えーっと、今日一日、家でゆっくり過ごすわ。これで、いい?」

『当たり前ですわ!』


 グリージャはふんふんと鼻を鳴らしつつ、去っていった。マリエッタはホッと胸を撫で下ろす。


 本でも読んで過ごそう。魔女の家には、魔法書がたくさんあった。まだマリエッタが知らない魔女術もあるだろう。

 立ち上がったところで、再度家の扉が叩かれた。

 トントントン。

 この叩き方は、リスの兄弟妹ではない。

 マリエッタは玄関まで駆けていき、開く前に声をかけた。


「はーい、どなた?」

「……」

「どなた?」


 返事がないので、首を傾げつつ扉に取り付けられている覗き穴から外を見る。

 扉の向こうに立っていたのは、美貌の青年ディーだった。

 マリエッタは頭巾を被ってから、扉を開く。


「ディー様、いらっしゃいませ! 今日は、どうなさったの?」


 飛びかかるような勢いで出たので、ディーは目を見開いて驚いている。


「まさか、今日もいらっしゃるなんて」

「いえ、昨日、元気がなかったので、誰もいない家で、苦しんでいるのかと思い、再訪したまでです」

「そうだったのね。わたくしはこの通り、元気!」

「みたいですね」


 そのまま踵を返して帰ろうとしたディーを、マリエッタは引き留める。

 ちょうど昼だ。マリエッタはディーを食事に誘う。


「わたくし、ディー様にもらった食材で、シチューを作ったの。よかったら、召し上がっていって」

「いいえ、結構です。食材は、あなたにあげたものです。私が食べたら、意味がないでしょう」

「意味はあるわ。食事は、誰かと食べたほうが絶対においしいもの!」


 その瞬間、ディーの動きが止まった。じっと見つめられているような気がするものの、マリエッタは頭巾を深く被っているので目と目は合わない。


「あなたは――」


 何か、問い詰められてしまいそうでドキンと胸が高鳴る。

 マリエッタは大きな声で、「どうぞ中へ!」と言って中へと案内した。

  依然として、ディーは動かない。何か、躊躇ためらっているようにも見える。


「ディー様、どうかなさったの?」

「いえ。淑女の家に、上がり込むのはどうかと思いまして」

「まあ、淑女だなんて。わたくしは魔女だから、お気になさらず。ささ、こちらへ」


 ディーの腕をぐいぐい引っ張ると、しぶしぶといった感じでついてきてくれた。

 食卓がある部屋まで案内し、しばし待つように言った。

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