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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第一部・二章 新米魔女は、騎士と邂逅する

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一夜明けて

 朝、カーテンから差し込んだ太陽の光で目を覚ます。

 胸にグリージャを抱いて、眠っていたようだ。

 起きてすぐに、彼女と目が合う。鋭い視線が、グサグサ突き刺さる。


「お、おはよう、グリージャ」

『ええ、いい朝ですわね』

「ごめんなさい。あなたを、抱き枕にして眠っていたみたいで」

『驚きましたわ。容態を見に行ったら、意識がないのに私を抱きしめたので』

「本当に、ごめんなさい。おかげさまで、元気になったわ」

『だったら、いいけれど』


 グリージャはぷいっと顔を逸らしつつ、そんなことを言ってくれる。

 改めて、ありがとうと感謝の気持ちを伝えた。


 昨晩、汗をたっぷり掻いたので、朝から風呂に入る。

 まずは浴槽に、水を満たした。


「――湧き出ろ、水よ(ヴァーテル)


 続けて、湯を沸かす。


「――巻き上がれ、火よ(フォティア)!」


 魔女術の火は、そこまで高温にならない。通常の火魔法に、風呂用という呪文を加えるだけで、適温まで温めてくれるのだ。


 続けて、天井から吊している薬草を手に取った。

 疲労回復効果のある、レモン草、マリンドロップ、岩塩をひと欠片。手のひらに握って揉みつつ、呪文を唱えた。


「――入り混ざれ、魔調合カン・コクション!」


 手の中にある素材が粉末状となった。それを、浴槽に入れてよくかき混ぜる。

 魔女薬湯の完成だ。 

 マリエッタは服を脱いで、薬湯に浸かる。


「はー、沁み渡る!」


 疲れが湯に溶け、癒される。

 体がしっかり温まったあとは、石鹸で髪の毛と体を洗った。


「うーん」


 魔女が使っていた石鹸を、マリエッタはそのまま使っていた。

 髪や肌と相性がよくないのだろう。髪はパサパサ、肌はすぐに乾燥する。

 結婚前に使っていたような、薔薇の成分が入った洗髪剤や石鹸ならば、ツヤツヤになるだろう。

 今は、自分に時間をかけている暇などなかった。

 可能であれば、街に行って様子を見たい。畑のぬかるみなど、魔女術で元通りにできるだろう。

 復興が終わったら、美容にも力を入れたい。マリエッタはそんなふうに思っていた。


 風呂から上がり、風魔法で水分を飛ばす。ごわごわの魔女の外套に袖を通し、長い髪の毛は三つ編みにしておいた。


 鏡を覗き込むと、目の下が黒ずんでいた。肌にそばかすみたいなシミもできている。


「隈にそばかす……!」


 隈は大きな魔法を使った弊害か。そばかすについては、日焼け止めを塗らないで出かけたからだろう。


 これまでは、侍女がいろいろ美容に気を遣ってくれていた。生まれてからずっとそれが当たり前だったので、ひとりになった途端に侍女への感謝の気持ちがこみあげてくる。

 風呂も、これまでは侍女が髪を洗い、体のあかすりをしてくれていた。

 初めて単独で入ったとき、どれくらい体をこすっていいのかわからなかった。思いっきり、擦った結果、肌が真っ赤にしてしまう。

 体を洗うときは、力一杯擦らなくてもいい。身をもって学習したのだった。


 魔女術を学んでいなければ、風呂すら沸かせなかっただろう。考えただけで、ゾッとしてしまった。


 スッキリしたところで、居間に戻る。グリージャは長椅子に丸くなって眠っていた。昨晩、マリエッタが抱き枕にしていたので、よく眠れなかったのだろう。感謝しつつ、ブランケットをかけてあげる。

 朝食は何にしようか、と考えたら、同時にお腹がぐーっと鳴った。

 そういえばと思い出す。昨日、ディーが食料を持ってきてくれていたのだ。

 革袋は、テーブルの上に置いてあった。

 いったい何を持ってきてくれたのか。グリージャを起こしてしまわないよう、革袋を持って台所まで移動する。

 ディーは軽々と持ち上げていたが、マリエッタはふらついてしまった。ヨロヨロと、歩いて行く。

 調理台の上で、中身を広げた。


「小麦粉と、バター! それからミルクに、お砂糖、わっ、お肉もある!」


 ひとつひとつ丁寧に、食材名が書かれた札が付けられていた。

 生物なまものは、新鮮さを保つ魔法紙に包まれてある。ミルクの瓶にも、劣化防止の呪文が刻まれていた。

 食品が悪くならないよう、魔法が付与された道具が惜しげもなく使われていた。


「ディー様は、お金ものなのかしら?」


 こういう品々は、とても高価である。一介の貴族では、手に入らないような代物だ。

 マリエッタ相手に使うくらいなので、よほど裕福な家の生まれなのだろう。


「あ、蜂蜜もある!」


 思わず、持ち上げて掲げた。

 蜂蜜には、魔力がたっぷり含まれている。魔法を使う素材として、かなり優秀なのだ。


「お肉は、なんだろう」


 包みを開いてみると、薄紅色の肉であった。それを見た途端、マリエッタは首を傾げる。


「これは、なんのお肉なのかしら?」


 肉は調理済みの物しか見た覚えがなかった。そのため、生の状態で見てもピンとこなかったのである。


「これは、鳥? 牛? 豚? 困ったわ。まったくわからない」


 肉は三種類あった。

 全体が薄紅色の塊肉に、ぶ厚い脂肪が付いた薄紅色の薄切り肉、刺しの入った真っ赤な肉。

 腕組みし考えるが、どれがどの肉なのかまったくわからない。


「そうだわ! 魔法で調べてみましょう」


 魔女術の中に、品物の鑑定する魔法がある。通常は薬草やキノコを調べるものだが、肉に使ってもいいのだろう。

 マリエッタは蜂蜜で魔法陣を描き、左右の手を合わせて輪を作る。そして、呪文を唱えた。


「――見定めよ、識別鑑定アイデンテンファイ!」


 手で作った輪を、薄紅色の肉塊に向けた。すると、文字が空中に浮き上がってくる。


「鶏肉、上質なももの部位。なるほど、これが鶏肉」


 続いて、分厚い脂肪が付いた肉を調べてみた。


「豚肉、肩から背にかけてついた、やわらかな肉。ふむふむ、豚肉か」


 最後に、真っ赤な肉を調べてみた。


「牛肉、最高級のヒレ肉。そういえば、牛のポアレはお肉に赤みがあったわね」


 肉の種類がわかったので、料理に移る。

 が、ふと思い至った。朝から肉料理が食べられるのかと。


「む、無理かもしれない……!」


 赤葡萄酒があるので、シチューを仕込んでおいて昼に食べることにした。

 これも、魔女術で作る。

 本格的なシチューを作ろうと思えば、数日かかると魔法書に書かれていた。

 魔女のシチューは、魔法で時間短縮しつつ作る。


 まず、赤葡萄酒に肉と野菜、薬草を漬け込み、魔法で浸透させる。続いて、肉のみ取り出して焼き色を付け、これに葡萄酒に漬け込んだ野菜を入れて煮込み魔法をかけるのだ。

 別の鍋で、キノコやニンジン、ジャガイモ、トマトをソテーし、粉砕魔法でペースト状にする。

 これを、葡萄酒で煮込んだものと合わせ、塩、コショウ、砂糖などで味を調えていった。

 最後に、二時間ほどの長い煮込み魔法をかけておくのだ。

 鍋におたまを差し込むと、勝手に混ぜてくれる。便利なものだ。


「あとは、放っておいても大丈夫かな」


 ひと息ついたところで、空腹が限界となった。

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