魔法が使えない王女様
「何、魔法が使えない娘だと!? ありえん! 魔法の塔に、閉じ込めておけ!」
王太子ユウェルが、美しい顔を歪ませながら叫ぶ。
雪の国の王女マリエッタは、呆然と美貌の王子を見上げていた。
侍女らが、マリエッタの背中を押す。
行き着く先は、囚人を収容するような高い高い塔だった。
マリエッタ・フォン・シュノーベル――十歳。
彼女は輿入れしてきた当日に、魔法の塔に閉じ込められてしまったのだった。
◇◇◇
銀の国と呼ばれる大国〝ジルヴァラ〟の周囲には、五つの従属国があった。
雷鳴響く国〝オンウィア〟。
風吹く国〝ウイント〟。
水が豊富な国〝ワーテゥル〟。
海に囲まれた国〝ゼー〟。
雪深い国〝スニューウ〟。
五つの国々は、自治権を得る代わりに、大国ジルヴァラを守るよう命じられている。
戦争となったさいに兵を挙げてジルヴァラを守ることはもちろんのこと。それ以外に、国を守護する聖獣を王妃として選ばれた姫君が召喚するのだ。
長きにわたり、ジルヴァラは従属国出身の王妃の聖獣により守られてきた。
そんな王妃は、従属国の中から順番に選ばれる。
五つの国の中で争いが起こらないよう、古くから決まっていた。
従属国の国王は多くの妻と娶り、いつでも王女を差し出せるようにしている。
雪の国スニューウでは、百三十年ぶりに王女を輿入れさせるよう命じられた。
選ばれた姫は十歳になると、ジルヴァラへ渡って花嫁修業を行う。
数年かけて、聖獣召喚について学ぶのだ。
スニューウ国は第一王女マリエッタを、ジルヴァラ国の未来の王妃とするために差し出した。
十歳のあどけない少女は、侍女のひとりも付けられずに輿入れする。
厳しいことも、辛いことも、悔しいこともあるだろう。
けれども、何があっても耐えなさい。
父王より言葉を託され、マリエッタはやってきた。
覚悟も、自分の重要さも、よくわからない年齢である。
まだ、十歳だ。
だから、王太子ユウェルに魔法が使えないことを非難され、魔法の塔へ閉じ込められてしまったことも、よくわかっていなかった。
魔法の塔は、壁一面に魔法書が収められた、魔法使いのために存在する塔である。
そこには、老婆の魔法使いがいた。
彼女は、禁術に手を染め、閉じ込められているのだという。
耳と言葉を封じられ、魔法は使えない。
そんな老婆が、魔法使いの教師だった。
マリエッタは文字で意思の疎通を取りつつ、老婆から魔法を習う。
老婆はとても厳しかった。マリエッタが理解していないと気づくと、指示棒で容赦なく叩くのだ。
けれども、彼女はめげない。
幼少期に読んだ童話にでてくる魔女に憧れていたので、魔法は嫌いになれなかったのである。
頑張れば、いつか魔法を使えるようになるはず。
そう思って努力していたものの、いっこうに魔法は使えない。
そんなマリエッタの楽しみは、興味がある魔法について調べること。
授業では儀式的な魔法しか習わない。マリエッタが興味があるのは、生活の営みのために編み出された魔女術――ウィッチクラフトと呼ばれるもの。
魔女術はかまどに火を点したり、風を起こして洗濯物を乾かしたり、風呂釜に湯を満たしたりと、日々の暮らしを送るために使われる。
魔女術はマリエッタにとって、ワクワクするものだった。
老婆の魔法使いより、魔法の歴史について学び、魔法の仕組み、魔力の流れを理解し、呪文を暗記した。
それなのに、マリエッタはいつまでたっても魔法が使えないまま。
そのうち、別の教師も送り込まれてくるも結果は同じ。
マリエッタが聖獣の召喚に失敗したら、ジルヴァラ国の守護はなくなってしまう。
王妃の守護聖獣の契約は、王太子が二十歳を迎えて即位するまでと決まっているのだ。
聖獣の守護がなければ、途端に余所の国から侵略されてしまうだろう。
ジルヴァラ国と五つの従属国の平和への鍵は、マリエッタが握っているも同然。
だから、何があっても召喚を成功させなければならない。
魔法が使えないマリエッタであったが、希望がまったくないというわけではなかった。
召喚は魔法ではなく、祈り。
もしかしたら、マリエッタの召喚に応じてくれる親切な聖獣がいるかもしれない。
だから、マリエッタは希望を捨てずに、毎日欠かさず聖獣へ祈り続けた。
王太子ユウェルの即位する二十歳の誕生日に、どうか召喚に応じてください、と。




