シーン14村の英雄ベルーガ。
俺はリオの成長を見た気がしていた。
今は俺の手の中ですやすやと可愛い寝息を立てているがこれから成長していくのだろうなと、楽しみでもあり寂しさも僅かに感じていたんだ。
すると。
俺が聖獣様の話を聞くべくお願いしていた長老が口を開く。
『聖獣様とは……この世界が生まれた時……神は大地に三種族を造られた……そしてその均衡を保つ為に神は世界に三体の聖神……魔神を造られたとされてはいるが実際は聖獣という存在をお創りになられたという……そしてその古代の三体の魔神……そして魔神具を創り生み出したのがその『聖獣アルビダイヤ』様だと言われているのです。』
『なるほど………………』
俺はその言葉に納得させられる。
すると長老は続ける。
『聖獣様は………確かにこの地……ケニージアにおる……そしてそれはこの村からも見えるあの山……『キリマジャーロ』あの山のどこかにすんでおられるとの話なのです。』
この村からも大分先に見える巨大な山。
明るい時に見たあの山の大きさにはやはり凄さを感じたのだ。
だが、あの巨大な大山……あれこそが聖獣様の棲むキリマジャーロ。
俺はそこにタダならぬ気配を抱いていたんだ。
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夜も明けきれてはいないが今……俺は村の入り口に立っていたんだ。
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◇
◇
俺は、まだすやすやと眠るリオを見つめていた。
すると、その小さな手には何かが握られていた。
(これは…………………………………………………)
リオが初めて同年代の友人になるであろうこの村の男の子……確か名はイシメールとか言ったか。
食事の時、彼と口論を始めたリオであったがこの村に着いた時、二人は仲良く遊びはじめたのだ。
その頃の子供などきっとそのようなものだ。
まだ幼い子供にとってほとんどの子供は、自分の感情が最優先され……そしてその事ですぐ喧嘩になる事もしばしばだろう。
だがその後は仲直りもすぐできるのも子供にとっての優れた能力なのだろう。
仲直りをした証と言われ彼から貰ったキラキラした石をもらい喜んでいたリオ。
それを大切そうに握り寝ているリオ。
俺はこれからこの大切な宝物を守るために、あのキリマジャーロへと行かなければならない。
やがては魔族の力からもこの子を守るために。
『リオ……パパは行ってくるから………お前は………この村で待っているんだぞ?』
俺はリオの頬にそっとキスを残すと部屋を出てきたんだ。
◇
◇
◇
俺は一人……村を出発する。
すると背後から俺を呼ぶ声が聞こえる。
『リオちゃんのパパ!?』
『ん?』
俺が振り向くとそこには小さな村の男の子イシメール君が立っていたんだ。
『どうして君が!?』
すると背後にはあのベルーガもいたのだ。
『ベルーガまで!?』
『ああ………俺たちマサイア族は夜明けと共に起きる部族……早く目覚めるのは貴方だけではありませんよ。』
『そうか……………』
するとイシメール君が口を開く。
『リオちゃんを置いていくの!?』
『ああ……ここからは俺が一人で行かなければ意味がないのでな……。』
『ええ………長老からはその命をうけました……そしてリオちゃんの事はこのベルーガの生命をかけてでもお守り致します……。』
『ありがとう……ベルーガ。』
するとイシメール君が俺の元へとやってくる。
そして彼は俺に小さな拳を突き出してくる。
俺はそんな彼に嬉しさを覚えていた。
『おじさんっ!リオちゃんは僕が必ず守るから!!任せて!!』
俺に男の子がいたらこんな気持ちも覚えることもあったのかもしれない……そう思うと俺にこうして自分の気持ちをぶつけて来てくれたこの子に感謝すべきだろう。
『ありがとうイシメール…………リオを……頼む。』
俺はこうして村にリオを任せ、そしてあのキリマジャーロへと旅だったんだ。
気がつくといつしか村人は起きてきたようだ……俺を見送ってくれたマサイア族の人々。
それはいつしか皆の本当の姿を見せてくれた。
そう…………この村の人々は獣人だったんだ。
兎の獣人もいれば犬、猫、などなど、村中の全てが獣人だった。
『任せてよ!おじさん!!!』
そう言ってくれたイシメールはまだ幼いが逞しいゴリラの獣人だった。
そして。
ベルーガは他の誰よりも大きな身体で立ち尽くしていた。
『その姿は本当のベルーガなのか!?』
『ああ…………俺は。』
するとベルーガの言葉を遮るようにイシメール君が叫ぶ。
『ベルーガさんはこのマサイア族の英雄なんです!!僕もいるし!!だからこの村とリオちゃんを任せてください!!』
俺はその言葉に彼らの姿にリオを任せ今…キリマジャーロへと一歩。
足を踏み出したんだ。
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