シーン10悲劇。
『リオーーー?じゃあ行ってくるぞーーー!?』
俺はすやすやと寝息を立てているリオの頬にキスをすると玄関へと向かう。
これは俺にとっていつもの挨拶なのであった。
『もう……あなた!リオに毎日毎日そんなに愛情注いでいたら将来が心配よ?』
『リーナ』は今日に限ってそんな事を言ってくる。
『いやあ、でもリオがめちゃめちゃ可愛いんだぜ?これは仕方ないだろう?』
『可愛いっていうのは認めるけどやりすぎじゃないのかなって?』
『そんな事はないよなリオ!?』
リオはニコニコと微笑んでいる。
『いやいやあなた!このままでいったらあなたは将来絶対リオをお嫁さんには行かせないっていうタイプになるわ!!』
『なんだよ!そんなの当たり前だろ!?リオはずーっとパパの側に置いとくからな!?』
ついついそう言い放ってしまう俺。
『もう……さあ、リオの事は私に任せて今日も元気にお仕事いってきてちょうだい!』
『ええーーーーーーーーーーっ!?後五分でいいよ!?五分だけリオと一緒にいさせてくれーーーーーーーーーーっっっっっ!?』
◇
◇
◇
俺はまさかこの時……これが妻である『リーナ』との最後の会話になるとは思っても見なかったんだ。
◇
◇
◇
俺は職場であるマジェスト協会に辿り着く。
今ちょうど昨日からヤシュア様が別大陸に行っていたんだ。
その為このアメリスアードのマジェスト協会も手薄にはなっていたのかもしれない。
だがこの時、そんな事は思ってもいなかった。
俺は普段通りの仕事に取り掛かる。
この街で起こった事件とそして大きな事件においてはその対策の為の策を講じたりやる事は自警団にいた頃とほとんど変わってはいない事だった。
強いていえば我々が関わる事件は魔法や魔族に関わる事件がほとんどといった具合だったんだ。
『ふぅ……そろそろ昼か……』
俺はデスクでペンを置くと昼の楽しみであるリーナの作って持たせてくれてる愛妻弁当を広げる。
これを開ける時も結婚してからの楽しみになっていた。
すると俺は箸を手に取る。
その時の事である。
なんと俺が手にしていた箸がポキリと折れてしまったんだ。
消耗品である箸はいつ折れても不思議ではない、だが……。
俺の背筋に悪寒が走る。
昔から何かがある時……こんな悪寒を感じる事があった。
その異様な悪寒にこの時の俺は胸騒ぎが起こる。
俺は立ち上がりこのマジェスト協会を飛び出す。
『リーナ…………リオ………………。』
俺は大切な妻と娘の名を呼びながら自宅へと走ったんだ。
◇
◇
◇
『はあはあ…………』
俺は自宅前で息をつく…………家の中は静まり返り緊張感に包まれているように静まりかえっている様な雰囲気だ。
俺は開かれていた玄関から中に入ると、そこはしんっと無音状態だった。
『リーナ!?リオ!!???』
俺は叫び中に入っていくと、そこにはなんと……倒れているリーナ……そしてリーナに抱かれながらも驚き目をキョロキョロさせているリオの姿があった。
『リーナ!!???』
俺は彼女を抱き抱える。
彼女のリオを胸に抱いていた手の力が緩む。
すると俺に気づいたリーナが微かな声で言葉にする。
『あ、あなた…………』
『リーナ!?』
『魔族が………ここにきて………私……必死にリオを守ろうとしたら……そこでヘマしちゃって……』
『リーナ!?喋るな!?今病院に!!??』
俺の言葉にそれを遮るリーナ。
『私ね……リオちゃんに助けられたんだよ?』
『なにっ!?』
『あの子は凄い力持ってるの……ほら…リオちゃんを…見て…………』
その言葉にリオに目を向けるとなんとそこには可愛らしい光を放つリスがいたんだ。
『あのリスちゃんがあの子を守ってくれる魔神のようなの……』
『なんと…………………』
『あの子のおかげで魔族は追い払われて、私も今なんとか貴方が来てくれるまで息があったみたい。』
スーッと手の力がなくなっていくリーナ。
『リーナ!?』
『うふふ……貴方に愛されて……リオちゃんを産んでそして今まで本当に幸せだったわ。』
彼女の力が失われていくのがこの手に感じられ俺の感情が高鳴っていく。
リーナは俺にとって幸せをくれた本当に素晴らしい女性だった。
俺の人生に光をくれた大切な人。
そんな彼女を失う事は俺にとってどれだけの絶望なのだろうか。
心の中が苦しすぎてたまらない。
『あなた………ずっと……………あい……してる……リオちゃんを…………おね……がい………ね?』
『リーナ!!!???』
スーッと力が失われていくリーナの手。
俺はその手を握り……………。
叫んだんだ。
『リーナーーーーーーーーーーーーーっ!?』
俺はリオ………そしてリーナを抱きしめたまま。
彼女の名を叫んだんだ。
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