第十章 終わりよければすべてOK③
当代聖女の結婚式は再建された中央神殿で静かに行われた。空は晴れ渡り、穏やかな天候。
王都の人々はひと目姿を見ようと集まり、神殿の周囲は人波で溢れた。
異界から来た当代聖女は男性で、その伴侶は魔法庁所属の「白炎の魔女」。そして、彼らの後見をしているのは新国王シルヴィオということもあって、多くの人が注目し、歓迎した。
「今のところ旧神殿派の動きはない。エーヴァ元王太后が処罰されたことですっかりなりを潜めているようだし」
国王の名代で出席するダヴィデは職業病なのか会場の警備を確認してきたらしい。王子という立場になっても彼はさほど変わる様子がない。
「父上がこっそりこちらに現れないように侍従たちに転移ゲートを見張らせているんだが、万一のことがあってはいけない。警備は厳重にしないと」
……あー……警戒してるのは旧神殿派というより国王陛下の行動なのかも。
シルヴィオはヒカリの養父という立場とデルフィーナの後見という立場から結婚式に出たがっていた。それをなんとかダヴィデが説得してくれたらしい。
さすがに形式上身内とはいえ一臣下の結婚式に国王が出ていては示しがつかない。
「それにしてもそのドレスは先代聖女が仕立てたと聞いたが……なかなか斬新だな」
ダヴィデが白いドレスをまとったデルフィーナに目を向ける。すっかり身支度は済んでいてあとはヴェールだけだ。
「すごいドレスでしょ? 遠目に見てもキラキラしてるし、近くで見ると細かい細工に驚くのよ」
魔族の技術とリナの知る異界の技術によって作られたドレスは純白の生地の上に様々な色の光沢を放つ薄い生地を重ねて、グラスビーズの刺繍を施されていた。
パニエで大きく膨らませるのではなく緩やかに広がるシルエットも珍しい。
「デルフィーナの銀髪とそのドレスで新雪が陽光を反射しているようなまばゆさだな。おそらく聖堂の中だともっと目立つだろう」
「兄上、そこは素直に美しいと褒めるところですよ」
ひょっこりと現れたのは本日デルフィーナの親代わりの付き添い予定のステファノだ。
「ありがとう。ステファノ。ほぼドレスの力だと思うのよ。魔法庁の同僚からは『詐欺みたいに綺麗です』とか訳のわからない賛辞をもらったんだけど。確かにこの姿で『白炎の魔女』は名乗れないわ。おしとやかにしないとリナに申し訳ないもの」
「フィーが着ているからだと思うけどなー。でもこの調子だと魔族へドレスの注文が殺到しちゃいそう。宣伝効果抜群だし」
「その点は問題ない。父上が魔族との交流になるからと販路を設けるように交渉済みだ」
星躔祭の時の出店でも魔族の工芸品は好評だった。王都に正式な店舗を構えて魔族との交易の窓口にすることになっている。それに服飾部門も増えるということだろう。
小説の中では主人公の聖女が魔族との和解を達成することになっている。リナの力もあってそれがほんの少し早まるだけのことだ。
魔獣対策についても魔族の協力が得られるだろうし、魔獣をけしかけてくる周辺国との関係も変わる。何よりこの国に聖女が存在しているというだけで、他の国がちょっかいを出して来なくなるのだと、過去の記録で伝わっている。
学生時代から戦場に出ていたデルフィーナからすれば、それは嬉しいことだった。
……戦場なんて行かずに済むほうがいいに決まってるもの。これからもっといい方に進むと思いたいわ。
ヒカリと新たに任じられた司祭たちによって再建された神殿は、規模も派手さも抑えられたものだった。広い庭園は公園として整備され、その中央にヒカリが星躔祭の時に作った大型女神像が設置されていた。要望が大きかったらしい。
そして礼拝の場として作られた聖堂も荘厳さを残しながらも余計な装飾のないものになった。今日の婚礼のために各所に花が飾られて、華やかさを添えてはあるけれど、過去の無駄にゴテゴテした大聖堂を知る者は驚いただろう。
祭壇の前に立つヒカリの長身に目を向けて、デルフィーナは小さく笑みを浮かべた。
神官服を元にした婚礼用の礼装はデルフィーナのドレスと似た光沢のあるもので、細かな刺繍は金糸が使われている。
ステファノに付き添われて祭壇に向かうデルフィーナを見て、彼が目を瞠ったのがわかった。
……絶対当日までヒカリには見せないし、秘密だからね。その方が面白いじゃない? 祭壇で腰抜かして尻餅つくくらい素敵なドレスにするから。
リナが真顔でそう言っていた。
ヒカリは異界にいたときは家族を失って一人で生きていた。職場の人にも付き合っていた人にも裏切られて、職も失っていたかもしれないと言っていた。
この世界に呼ばれても男だから聖女じゃないと放り出されたりして。
彼の本当の価値を、すごいところを見ない人ばかりでよかったと、今なら思う。
……今さら何を言われても、彼を誰かに渡すつもりはないわ。見る目がない人たち、残念でした、って言い切ってあげる。
ヒカリが差し伸べた手に自分の手を重ねると、デルフィーナは心からの笑みを浮かべた。




