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第九章 星躔祭と変態神様⑥

 星躔祭はそうして例年になく盛り上がって幕を閉じた。

 売り上げ競争の結果はヒカリの店が一位を総なめにしたのは当然だった。魔族の作った工芸品や魔法具はその後も注文が殺到したので、ミケーレ主導で王都に実店舗の準備に入った。

 ヒカリが提案した飲食のレシピも神殿の収益になるからと店を作ることになった。

 そうして実績を上げたことでヒカリを男の聖女だと愚弄する者は激減し、神殿内の運営も上手くいきそうだと聞いてデルフィーナはほっとした。


「というわけで、星躔祭お疲れ様でした会を開催します。まずは祭の成功を祝して乾杯」

 ステファノが第一声を上げて、グラスを掲げた。未成年なので中身は果実入りの炭酸水だ。

 祭から一週間後、ペオーニア大公家別邸にて星躔祭の打ち上げをすることになって、ヒカリとデルフィーナ、そしてミケーレとエリゼオ。そしてどういうわけかシルヴィオとダヴィデまでいる。

 さらに自分の向かいに座っているのが先代聖女リナと魔王エイスリン夫妻。彼らは魔法庁に設置したゲートで来たらしい。

 なんなのこの重鎮勢揃い感は。

「次にヒカリから一言」

 お疲れ会の前にヒカリは祭の総括報告書をシルヴィオとリナに渡していた。魔族の手工芸品などの売上額にリナが目を輝かせていた。

 この先正式な交易ができるようになれば彼らの生活も改善されるし、いずれあの瘴気の森も環境を整えられると言っていた。

「星躔祭、いろいろありましたが、大きな問題もなく終了しました。このまま来年も開催できればと思います。あと、女神様からですが、変態さんはめでたく神格剥奪されて謹慎が決まったそうです。なので、諸々解決できそうなので今日のところは楽しくお話しましょう」

 変態男神は神様ではなくなってただの変態になってしまったらしい。そのせいか捕縛されたアラクランの密偵たちは支配を失ってあっさりと自供したという。

 逃亡していた前王太后とデルフィーナの義妹ピエラたちは発見されて連れ戻された。彼女たちはシルヴィオを追放してコジモを王位に就けられると甘言でそそのかされたらしい。

 そのコジモは一人牢に残されておとなしくしていたのだから皮肉な話だ。

 後日彼らの正式な処分が決まるだろう。

「……一体なにがしたかったのかさっぱりわからないが、これですべて終わったのだろうな」

 シルヴィオがそう言って少し安堵したような表情を見せた。元々王位に就くつもりもなかった彼が今や新国王となった。

 これについてはこの国の将来を考えれば良かったのではないかとデルフィーナは思う。

 女神が物語の再現を諦めて目を離していた間に、不正が行われていたのだから。本来ならシルヴィオが王になるはずだったのだ。

 今まで我が物顔に振る舞っていた神殿や神殿派の貴族たちは今までの悪行が暴かれ地位を失った。今後は魔法庁と神殿の連携もすんなり行くだろう。何しろ魔法庁の長官はヒカリだし、神殿の最高位司祭もヒカリなのだ。

 ヒカリの言っていた物語に振り回されていた。女神がその物語に夢中になって再現しようと企んでいたのが元々の原因だが、そのせいで意味不明な出来事が続きすぎた。

 ……もう何事もないと信じたいものだわ。

「まあ、女神様に振り向いてもらおうという涙ぐましい努力は認めるけれど、そのアラクランという元神様、女心がわかってないわ」

 リナがあっさりと断言した。ヒカリが頷いた。

「なんとなくわかる気がする。余計に嫌われているよね。あの本読んで納得したよ」

「本?」

 デルフィーナは首を傾げてから、そういえばヒカリは女神様から何か本を受け取っていた。中身は異界の文字だから何が書いてあるのか大雑把に教えてもらったけれど。

 ヒカリは少し考える仕草をしてから口を開いた。

「例えば贈り物をするときに、まず相手の好きなものを考えるよね? でも、食べ物とかならいいけど、相手のこだわっている分野のものって贈りにくいでしょ? もし僕がデルフィーナに魔法の本を贈るにしても、もう持っていたり、その内容のレベルが違っていたりしたら喜ばないよね?」

「……そうね。わたしもヒカリの贈り物に絵の道具は選ばないわ」

 わからない分野のものをうかつに選んだら、相手に失礼になりそうだもの。

 それにわたしもヒカリからなら趣味じゃない魔法書でもありがたく受け取るけど、好きでも何でもない人だったら受け取りたくもないわね。

 しかも、それで恩着せがましくされたら魔法書ごとこんがり焼きたくなるかもしれないわ。

「女神様が再現したいと思うほど気に入って読み込んでいた物語を、他の人が同じ世界観でスピンオフという形で書くのはいいけれど、それを君のために書かせたとか押しつけられるのは嫌だと思わない? 元の物語の世界だけが好きな人にとってはそれは違う、って思うこともあるかもしれない。良かれと思って男神は異界に干渉してスピンオフ本を作らせた。そして本来の物語が上手くいかないなら、そのスピンオフの物語を再現させたら喜ぶかもしれないって思ったんだろうね」

「確かに……。好きじゃないものを勝手に作って押しつけられたらわたしもキレるわ」

「解釈違いってやつよね。それ。界隈によっては戦争になるわ」

 リナが苦笑している。

「あの本は当時、賛否両論だったのよ。結構キャラが改変されたりしてたから。女神様は本編推しだったのね」

「聞いてみたら、女神様の最推しはシルヴィオ陛下みたいだよ」

「そうなの? ならこの国と仲良くして損はないわね」

 つまり女神はシルヴィオ陛下のことが気に入っているってこと? 道理で花冠を与えたわけね。

 ヒカリたちの話が聞こえていたのかシルヴィオがむせ込んだ。

「一体何を……」

 ヒカリがニコニコしながら答えた。

「女神様は陛下の治世に期待しているというお話です」

「そう……なのか? それは光栄だが……」

 シルヴィオはなんとか納得したように頷いた。それからヒカリに問いかけた。

「ヒカリにいろいろと重責を任せてしまっているが、いずれは分担させる予定だ。いろいろと後手に回っているが、デルフィーナとの挙式までにはなんとかする」

 多くの貴族が処分を受け、そして人事も入れ替わりが激しい。まだシルヴィオの治世は始まったばかりで、人材も時間も足りない。

「挙式の日程が決まったのかしら?」

 リナが目を輝かせる。シルヴィオが頷いた。

「確実な日付は決まっていないが、中央神殿跡地に礼拝施設が完成したら最初に行う祭事になる。聖女の婚姻となれば神殿にとっても一大行事だ」

「そうなのね。だったらぜひデルフィーナちゃんのドレスはうちで手がけたいわ。刺繍やレースが得意な人がいるから。今から作れば間に合うでしょ。ヒカリの服も」

 シルヴィオがヒカリに目を向けた。ヒカリは困ったように微笑む。

「何か伝統的な決まり事がないのでしたら、姉に任せていいかと。魔族の手工芸の宣伝にもなりますし」

「わかった。では衣装は魔族に発注しよう。代金はこちらが負担する。ヒカリはわたしの養子だし、それにデルフィーナの後見もわたしだから」

 シルヴィオがそう言うとリナは頷いた。

「それは予算はお任せということでよろしいでしょうか?」

「姉さん、あんまり無茶は……」

 ヒカリが止めようとするとシルヴィオは手を上げて遮った。

「かまわない。お手柔らかにお願いするが」

「かしこまりました。物語を終わらせるためにも張り切らせていただきます」

 リナはそう言って一同にぐるりと目を向けた。

「物語は最後に『その後みんな幸せに暮らしました』で終わるものと相場が決まっているんです」

 そうしてこの世界にはめ込まれていた異界の物語が完結する。リナはそう断言した。


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