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第九章 星躔祭と変態神様④

「でもどうして大きな女神像を作ることになったの?」

 広場には話を聞いてか人が集まっていた。ヒカリは迷っているように眉を下げた。

「女神様の方から依頼されたんだ。変態男神がこの件に関わっていると確かめたいからと。派手な動きがあれば必ず引っかかるはずだって」

「……変態男神……」

「もちろん像の設置中に干渉してきた人は全員名簿にして国王陛下に渡してあるし、様子を伺っていた人間も確認済みだ。女神様の言う、アラクランの工作員かもしれない」

 この国にこっそりと干渉してきた変態男神を信奉するアラクランという国。それが前王妃や神殿派の貴族たちをそそのかしてすでに必要のない聖女召喚を行わせた。

 まるで女神のために小説の筋立てを再現させようとするかのように。

 そしてデルフィーナの元婚約者コジモ元王子や聖女を騙った義妹ピエラも何らかの形で洗脳されていたのではないだろうか。まるで物語に縛られているかのように。

 聖女至上主義の者は多いけれど、あれだけ妻にすると執着するのも気持ちが悪いもの。だって、聖女というだけでどんな人かもわからないのを王妃に据えるなんてあり得ないわ。

 それで聖女召喚に失敗したからと強引にピエラを聖女にするのもおかしい。

 ……それをおかしいと思わない神殿派の連中もおかしいのよ。

 ほとんどが捕縛されているが、逃走した前王妃とピエラの行方がわからないのも、変態の仕業だろう。けれど、次に打ってくる手が読めない。

「で、大きな女神像が出現するとなれば、変態男神は興味を持って現れる可能性もある」

 その膠着状態をどうにかするために、ヒカリは女神と相談して巨大女神像作りを企画したのだ。失敗しても人々は珍しい催し物に喜ぶだろうから損はしない。

 つまり巨大な女神像、実際は映像で作った張りぼてのようなものだが、目的はどうやら変態男神を刺激するための囮らしい。

 デルフィーナはふと不安がよぎった。

「けど、その変態さんが来て何かしたら、見物客たちに危害が及ばない?」

「ああ、その点は大丈夫。女神様がなんとかしてくれる」

 ヒカリは何故か笑うのをこらえているような表情をしていた。

 ……一体何を……?

「そろそろ行こうか。像の点灯式をやるから」

 そう言ってヒカリはデルフィーナの手を引いて広場の真ん中に設置された演台の上に上がった。待ち構えていた神官たちが深く頭を下げる。比較的若い神官が多いのを見て、彼らは「聖女派」の神官らしいとデルフィーナは察した。

 どうやら神殿内部も「聖女派」と「旧神殿派」に分断されつつあるらしい。旧体制を嫌って改革を望む神官たちが前者、今までの利権を手放したくない旧体制の者たちが後者。

 神殿の再建も「聖女派」が主導することになっているし、今回の星躔祭もほとんどがヒカリを信奉する神官たちが動いている。

 集まっていた人々が少しずつ静まりかえる。ヒカリは人々の前に出てゆっくりと語りかけた。

「……星躔祭が無事今年も開催されたこと、とても喜ばしく思います。女神フィオーレのお姿をこの場に映し出し、皆で神への感謝を捧げることでこの祭の最後の催しといたします。どうか、台座の上に注目してください」

 ヒカリが台座に触れると、台座の上方に光があふれた。空に向かって美しい女神の姿が映し出される。花の冠とヴェールで顔は見えないが、わずかに見える口元は笑みを形作っていて、幾重にも重ねた薄い衣がひらめき、花びらが降り注いでいる。

 ……動くんだ。ただの像じゃないわこれ。

 見ていた人々も驚愕に固まっていたが、やがて口々に女神への祈りの言葉を口にする。

 ヒカリは芸術の才があるらしく、以前も絵の道具を購入していた。何故か描いたものは見せてくれたことがないのだけれど。たまに書類の隅に時々小さな絵を描いたりしている。

 この映像も彼が作ったのだろう、女神の姿がそこにあるかのように生き生きとしていて本当に美しい。

 すごいわ。ヒカリはこんなに美しいものを作れるのね。

 デルフィーナは人々に手を振って応えるヒカリの背中を演台の隅から見つめていた。

 初めて会った時はずぶ濡れで怪我をしていた。彼は職場の同僚と交際相手に裏切られてひどい目に遭ったらしい。

 そんな状態なのに、彼は誰かに当たることもなく、この世界になじもうとしてくれた。彼の心根はまっすぐで芯が強いのだと感じた。それならと、人手不足の魔法庁に引き込んだら予想外に優秀だった。

 本当の彼は男性ではあるけれど、誰より聖女を名乗るにふさわしい人だった。

「デルフィーナ。どうかな? うまく作動したでしょ?」

 ヒカリが振り向いて笑みを見せた。女神像が放つ光が彼の周辺を照らして、あたかも彼自身も輝いているように見える。

 ……わたしは、こんなに美しくて強い人を部下としてこき使っていたんだわ。本当なら彼は聖女として神殿で手厚く迎えられていたかもしれないのに。

 けど、そうしなかったのは神殿の連中が愚かしくて古い考えに凝り固まっていたからだし、わたしのせいじゃないわ。それに、今更彼を祭り上げても返してなんかあげないけど。

 だって、彼はわたしの婚約者なんだから。

 デルフィーナはそう誇らしく思いながら、ヒカリに歩み寄った。

 その瞬間、空に異変が起きた。


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