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第九章 星躔祭と変態神様③

「ヒカリのいたところにも、こういうお祭りってあったのよね?」

 店を回って一通り食べ物を買ってから、広場に設置されたベンチに座って食べることにした。エリゼオとミケーレも並んで座っておいしそうに菓子を頬張っている。

 ヒカリは頷いて少し遠い場所を見つめている。

「秋に大きなお祭りがあったんだ。収穫祭みたいな感じかな。こんな風に屋台の出店が来て、お小遣い握りしめて買い物するのが楽しかった」

「そうなの。こちらとあまり変わらないのね」

「デルフィーナは貴族のお嬢様だから買い食いなんてしないのかと思ってた」

 ヒカリはそう言って笑う。デルフィーナはヒカリに向き直った。

「あら。わたしがおとなしく遠目にお祭りを眺めてるだけで済ませると思う?」

 おとなしく貴族令嬢として屋敷から出なかったのは母が亡くなるまでのことだ。その後は学院に入って他の学生たちと同じ生活をしてきた。だからお祭りにも学院の生徒として参加した。

 ヒカリは貴族令嬢というのは皆深窓のお姫様だと思っているのかもしれない。けれど、ほとんどの令嬢がささやかな自由を満喫する手段を持っているのだ。

「そうか……。それに学生のときはステファノみたいに出店をやってたんだよね?」

「そうよ。お店についてはわたし、ヒカリの先輩だから」

 デルフィーナがふんぞり返って答えると、ヒカリは声を上げて笑っていた。

「……そういえば、ステファノたちのお店はどうなったかな」

 ヒカリはステファノの商品作りを手伝ったせいか、彼の店のことも気になっているらしい。

「あのお花は完売したよ」

 背後からいきなりそう言われて、振り向くと両手に串焼きの肉を手にしたステファノが立っていた。

「あら。すごいじゃない」

「そりゃあね。聖女様が制作に協力したって売り文句にしたら飛ぶように売れたよ。嘘じゃないけど、なんか複雑な気分だよ」

 ステファノの学年の商品、あのくねくね動く花だけは完売したらしい。ヒカリはそれを聞いて同じように複雑な気分になったようだった。

「聖女様の店はもうほとんど店じまい状態だってね。あれ見て学院生は勝ち目ないって嘆いてたよ」

 売り上げ競争をしているというのに、初日ですっかり諦めかけているらしい。

「護符も魔族の工芸品もほとんど売れちゃったんだ。明日は商品が少ないから、そうなると売り上げは下がるんじゃないかな」

「いや、学生の商品とは単価が違うでしょ。聖女の護符なんて後々付加価値ついてとんでもない値段になるんだからね」

 ステファノがそう突っ込んでいると、離れた場所から学院の制服姿の一団が声をかけてきた。

「あ。友達が戻ってきたから行くね。二日目もがんばろうね」

 そう言い残して去っていく。それを見送ってから、ヒカリはそういえば、とつぶやいた。

「飲食で出したメニューのレシピを冊子にして商業ギルドに登録したら、なんかすごいお金が振り込まれてて、あれは売り上げに入らないよね?」

「……そうね。入れない方がいいと思うわ。ステファノが凹んじゃうかも」

 他にも神殿再建のための募金箱とか、いろいろと店舗の収益とは違うお金が集まっているらしい。

 ……そう考えると今まで神殿が聖女を抱え込んでそういう収入を全部取り込んでいたってことよね? 聖女で商売するのはかなりお金になる。ステファノの作った造花が昼前に完売してしまうくらいだし。

 先代聖女が聖女召喚を禁じたのにやらかしたのは、そういう事情もあったのかもしれない。同情は全くしないけど。

「ヒカリの報酬も出るんでしょ?」

「僕の報酬分は寄付したよ。僕は魔法庁から給料もらってるし、他にも報償が出てるから。レシピ代は店と関係ないから僕が受け取ることになったけど。筋金入りの平民だから金額見ただけでちょっと心臓がキュッとなりそうだったよ。今後は屋敷の維持費とか使用人の給料とか扱うお金増えるから、慣れなきゃいけないのはわかってるんだけど」

 胸を押さえてそう言うヒカリを見ていると、この金銭感覚を父に見習ってほしかったと思った。結局父の代でリーラ侯爵家は取り潰しになった。

 ……ヒカリならきっと家を傾けるようなことはしないわ。ちゃんと人の話を聞いてくれる人だもの。

「そういうのは家令が相談に乗ってくれるわ。わたしも協力するし」

 ふと顔を上げると太陽が傾きかけている。そろそろ広場に移動するべきだろうか。

 巨大女神像も楽しみだけど……。

 そっとヒカリを窺い見ると、彼もこちらを見つめていて目が合った。

「あ、ごめん。ちょっと見とれてた」

「わたしに?」

 見とれるような要素あったかしら。でも、彼がわたしを見ていてくれたのは嬉しい。

 彼が隣にいてくれると、嫌なことを思い出してもどうでも良くなる。

「……だったらいいの」

 他の人を見ていないのなら。

 デルフィーナは少しだけ高鳴った胸を自覚しながら微笑みかけた。


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