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第八章 終わらない物語⑤

 いきなり早口でまくし立てられて、どうやら本気で女神はその男神を嫌っているらしいとは察した。

「……変態? 神様なのに……?」

 元の世界にも色々今の価値観だとヤバいという神話があったけれど、こちらにもそういうのがあるんだろうか。この国は女神のみを信仰していると聞いていたけれど、他がそうだとは限らない。

『神にもいろいろいるのだ。そやつは過去に伴侶のいる女神につきまとった罰で幽閉されたはずなのだが、いつの間にか幽閉期間が明けたようだな。ずっと伴侶を求めているようなのだが、口説き方が強引すぎて嫌われていた。目をつけた相手をとにかくしつこく粘着するのでな。さらに目が合った者は自分に気があるという謎の思い込みをする癖がある。頭の中で何か妄想しているのか、いつも一人でにやにや笑っているので、誰も近づかない。一応神格はあるので顔だけは整っているが、内面の気持ち悪さがにじみ出ている』

 女神は怒濤の勢いでその変態神様のことを辛辣に語ってくれた。

 ……つきまとい行為は神様でも犯罪なんだ……。っていうか、そんな嫌われ者の神様にも信徒がいるんだな。信徒の前では大人しくしているんだろうか。

「……もしかして、女神様にも何かしたとか?」

 少し微妙な間が空いて、それから返答があった。

『わたしは独立した神だから伴侶を持っていないのだが、それが奴には自分のために独り身でいてくれると見えたらしい。勝手に恋人扱いしてきて、たびたび気色悪いポエムを送ってくるようになった。全部叩き返したが』

 気色悪いポエム……自語り的な陶酔系だろうか。好きでもない相手のポエムは確かに気持ち悪いだろう。独り身の相手がいたら自分のことを待ってくれているという思い込みも気持ち悪い。

「……それは痛々しいですね……」

『どうしてもっと長く幽閉しておかなかったんだ』

 ということはその変態さんはこの国というより女神を狙っているんじゃないだろうか。自分の信徒を増やして力をつけて国を作らせて。

 ……そもそも、姉さんが五十年前に滅茶苦茶にした小説の筋書きを今さら再現しようとする動きがおかしいんだ。コジモ王子の暴走もそうだけれど、デルフィーナの妹も、王太后も、ああまで派手なことをする必要なんてあるだろうか。

 もしかしたらその変態神様が女神様に「君のためにお膳立てしておいたよ? こういうのが好きだろう?」的なことを言って気を惹くためとか……。

 微妙に萌えをわかってない感じがして、痛々しい気はするけれど。

「その国が男神とどう繋がっているのかはわかりません。けれど、どうやらこのフィオーレ国に裏からちょっかい出しているみたいなんです。神殿に禁呪の魔法をあれこれ教えたり、貴族たちを唆してしていたようで。本来なら五十年前に魔族と和解ができているというのに神殿が聖女に拘りつづけていたのも何か裏があるのかもしれません」

 いつから介入していたのか。時間をかけてこの国の神殿を腐らせ、貴族を堕落させ、才能のない国王を立てさせて。先代聖女の功績を過小評価させたのでは?

 神殿は今も聖女に固執して、魔法を否定し続けている。本来なら協力して魔族対応するはずの魔法庁を敵視している。

 けれどデルフィーナを始め魔法庁の者たちが実績を積み上げてきたのに焦って、結果聖女召喚を行うように仕向けられたとしたら。

 そして、星躔祭を前に暴動を起こさせた? ラノベのストーリーが始まるように?

 エピソードの順番が違うし、すでに破綻してしまっている物語を強引に戻そうとしたって上手く行くはずがないのに。

 というか、今さら小説のストーリーに合わせるのがすでに間違ってる。この世界はこの世界の人々が紡いできた歴史であり、その結果のはずだ。現実を否定してどうする。

 女神がこの世界に小説の設定を持ち込んでラノベを再現しようとしたとしても、結局上手く行かなくて諦めて手を引いた。それでよかったはずだ。

『……奴の狙いはわたしを信仰しているこの国を弱らせ、わたしの力も弱らせることだろう。冗談ではない。あやつの好きにさせるわけにはいかない』

 女神の力を削いで、助けるフリをして口説き落とそうということだろうか。

『そなたの力はあやつを倒せるものではない。婚約者も同じだ。だが、あやつの眷属や手下くらいなら倒せるだろう。それにリナもいるのだから』

「つまり僕たちの相手はアラクランの工作員ということですね」

 さすがに神様と戦えと言われても困るなと光里はうっすら思っていたのでほっとした。

 王太后の逃亡を助けたのはその工作員の協力があったからかもしれない。神殿派が巻き返すためには、シルヴィオに代わる自分たちに都合の良い国王候補が必要だ。

 そうなるとコジモ王子も狙って来るだろう。

『そういうことだ。あやつを裁くのは神の仕事だ。他の神の領域に手出しするのは重罪だ。こんどこそあやつを永久の牢獄にぶちこんでくれる。人のことは人に任せる。また何かあれば呼びかけるがいい』

 どうやら女神は本気で怒っている。

 現時点でその変態神様の力がどのくらいなのかはわからないけれど……。

「わかりました。できる限りのことはします」

 光里が答えると、女神の気配は薄れていった。

「どんな話をしていたの?」

 ほっと息をつこうとした光里の背後からデルフィーナが問いかけてきた。

 そうだった。デルフィーナとミケーレもこの場にいたんだった。

「あれ? 女神様の声は聞き取れなかったの?」

「言葉自体がわからなかったのよ」

 隣にいたミケーレも頷いた。

「あれ? また日本語で話していた?」

 この世界に来た時に光里の言葉は自動翻訳されてしまう感覚だった。なのに、デルフィーナたちには聞き取れなかったらしい。女神に最初に日本語で話しかけた影響なのか。それとも女神がそれを選んだのか。

 光里は女神の言葉を二人に説明した。そして女神が渡してきた本を見せると、その中も紛れもない日本語だった。

「母が時々走り書きしている文字に似ているような……」

 ミケーレはそう呟いた。デルフィーナは綺麗なカラー印刷に感心した様子だったけれど、中身は全く読めないらしい。

「……これが光里のいた世界の文字? これって縦に読むの?」

「そうだね。多分僕が朗読したら翻訳できると思うから……それを文字に起こせば……」

 パラパラと頁をめくりながら光里は呟いた。手間はかかるけれどしかたない。

「そうね。それにしても、女神様以外にその物語にこだわっている神様がいるなんて。しかも女性の敵だし」

「いや、男性にも敵だよ。とりあえず戻ろうか」

 異性と目が合っただけで迫るとか、つきまとうとか。そんな男がいたら他の男も疑いの目を向けられるじゃないか。

 光里はそう答えてから、礼拝堂を後にした。

 明るい中庭を臨む廊下まで戻ってきたところで、ふと頭の中に疑問がよぎった。

 スピンオフの作者は元々の話の作者じゃない。それなのにどうして、アラクランという名前を思いついたんだろう?

 ラノベにはその名前は一切出てこないし、女神はその名前を嫌ってラノベを再現する世界を作っても、スピンオフ設定は入れなかった。

 まさかと思うけど、そのスピンオフの設定から、変態神様の介入が始まっていたとか……?

 

次回更新は19日予定です。当面週一更新ペースにしたいと思います。よろしくお願いします。

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