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第七章 星躔祭まであと何日?⑤

「あ、そういえば二人に相談があったんだ」

 ヒカリが不意に何かを思い出したように二人を見た。

「魔族の工芸品を扱うなら商品説明の責任者が必要だろうって、姉さんのところの末っ子が星躔祭まで手伝ってくれることになったんだ。こちらの言葉はある程度話せるし、外見も姉さん似だからさほど目立たないだろうって。ただ滞在先をどうしようかと思って」

 ヒカリの姉リナ。先代聖女は魔族の王エイスリンとの間に三人の子がいるらしい。二人はエイスリンと同じ魔族の外見だが、末っ子だけは母親似で人間の街への憧れが強いのだとか。

 今後の魔族との交渉のためにも有用な人物になってくれれば、とヒカリは引き受けるつもりらしい。

「末っ子……って何歳くらい? 男の人?」

「今年で二十五歳って言ってたかな。男だよ。僕より年上だけど一応甥っ子ってことになる」

「それなら僕の家で預かるよ。あちこち改装中だけど部屋は余ってるし」

 ステファノがあっさりと答える。彼の今の住まいはペオーニア大公家の別邸だ。将来ヒカリとデルフィーナの住まいになる準備で改修中だが確かに部屋は余っている。

「二人も王宮が窮屈になったらいつでも泊まりにきてよ。どうせ引っ越してくるんだから同じじゃない? あんな広すぎる家、僕だけで住んでるのも何かつまんないからね」

 なるほど。確かに魅力的なお誘いだわ。大公家なら警備はしっかりしているし、あちこちに魔法障壁が置かれているから不審人物は入れない。

 ヒカリも少し心惹かれたのか表情が明るくなった。彼は一挙一動を誰かに見られている生活に慣れていないせいで、王宮生活一晩にして疲れているように見えていた。

「いいわね。あの家なら許可は出るんじゃないかしら? 王都へのゲートもあるから行き来もできるし」

 聖女などという身分のせいで、ヒカリがこれ以上窮屈になるのは可哀想だし。

「十分豪華だけど……王宮よりは落ち着くかも。一応陛下の許可が必要だろうけどお願いしてみようかな」

「ヒカリはこれから貴族の振るまいとか覚えないと大変だよ?」

 ステファノに言われてヒカリは机の上に突っ伏した。

「わかってるんだよね。一応講師もつけてもらう予定なんだけど、ひとまず星躔祭が終わるまでは保留にしてもらったんだ。いくつもいっぺんにはできないよ。頭がついていかない」

「ぜんぶ一人でやろうとしてない? 僕やフィーがいるんだから言ってよ?」

「ありがとう……」

 机から顔を上げてヒカリは笑みを返した。

 デルフィーナが把握しているだけでも聖女のお披露目と婚約発表、魔族との和解成立の公表、星躔祭の一連の行事、新国王の戴冠式……と大きな予定が詰まっている。

 その間に今回の暴動や偽聖女騒動などの裁判や、神殿の再建計画も彼が関わることになるはずだ。そして彼が魔法庁長官に就任すればさらに仕事が増える。

 優秀な補佐がもう何人か必要だわ。貴族の振るまいや実務ならラウロが補佐してくれるだろうけど、ヒカリが遠慮なく相談できるような人が。

 異性だからか、年齢差もあってか彼はまだデルフィーナに遠慮気味な一面がある。

 とりあえずこれからヒカリの人間関係を拡げたほうがいいわ。まずは彼に信用できるお友達を作ることからよ。


 それから毎日魔法庁での業務と王宮での行事の準備に追われていたデルフィーナとヒカリだったが、星躔祭の十日前、ついに辺境からのゲートを越えて魔族からの商品が届けられることになった。

 その立ち会いのために魔法庁のゲート前で待ち構えていた。

 魔法庁に残っていた職員は魔族というものを見たことがないので戸惑っていたが、元々魔法使いは好奇心旺盛な者が多い。角のある青白い肌と屈強な体つきの彼らに怯むよりも興味津々の様子だった。

 ヒカリが通訳をしてくれたのでほとんど支障なく作業ができた。

 そうして荷物を降ろし終わると、一人を残して魔族たちは去って行った。

 ……ああ、彼がエイスリンの子なんだわ。

 デルフィーナは納得した。当初から彼は浮いていた。この国の人間と言われても違和感がない外見だが纏っているのは魔族たちと同じ衣服。こちら側を観察しているかのように一歩下がっていた。

 黒い髪と金色の瞳。面差しはリナよりエイスリンに似ているように思える。

「初めまして、皆様方。魔族の王エイスリンの子ミケーレともうしまちゅ……」

 その場にいた全員が「噛んだな」と思っただろうけれど、誰も笑ったりはしなかった。

 何しろそのミケーレはどう見てもまだ二、三歳にしか見えなかったからだ。

 いやー。小さいのにこちらの言葉ちゃんと覚えてきて偉いですねー。というほんわかした空気になっていた。

 ……でも、ヒカリは二十五歳って言ってなかった? 五歳の間違いじゃないわよね? どっちが正解なのかしら。事前に年相応の外見じゃないらしいとは聞いていたけど……。

 彼はちょっとだけ顔を赤らめて、咳払いをした。

「魔族代表でお手伝いにまいりました」

 ヒカリは彼に歩み寄って膝をついた。目線を合わせるようにしてそれでも子供扱いしないというように頭を下げる。

「協力に感謝します。僕が店舗の責任者のヒカリです」

「叔父上ですね。おあいしたかったです」

 ぱっと目を輝かせる。傍で見ていれば親子のようで年上だとは忘れそうになる。

「魔族は成長が遅いと聞いてましたけど、思ったより見かけがお若くてびっくりしました。不自由があったら言って下さいね」

「では、難しい言葉はまだ覚えていないので、なるべく易しい言葉をおねがいしましゅ……」

 また噛んでしまった、と恥じ入ったのか彼は自分のほっぺたをぐにぐにと指で摘まんで引っぱっている。その仕草も可愛らしい。

 ……でも中身二十五歳って……扱いがよくわからないわ。

 ヒカリはよく平然と大人扱いできるわね。ミケーレを見た時に、何やら「アバターとかブイチューバーと似た感じだと思えば何とかなる」って呟いていたのは聞こえたけど、その言葉の意味がわからないから、参考にならないわ。

 デルフィーナは困惑ぎみに楽しげに話している叔父と甥を見つめていた。 



勝手ながら次回更新は24日予定とさせていただきます。よろしくおねがいします。

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