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第七章 星躔祭まであと何日?④

7/18更新分です。予約セット忘れてました。

 ステファノが姿を見せたのは午後しばらく経ってからだった。事情は聞いているらしく、スッキリした表情で駆け寄ってきた。

「二人とも無事でよかったよ」

「ステファノも大変だったでしょ?」

「まあ、僕はこの町に引きこもってただけだし、街の中は通常の生活をしてたんだよ。学院の授業も普通通りやってたよ」

 王妃たち神殿派の貴族が勝手に動かしてきた軍を追い返して魔法の障壁を展開させたのはステファノだった。そしてゲートの発動を察知して辺境に知らせてきたのも。

 けれどその後は外から手出しされないことをいいことに普通通りの生活をしていたらしい。今までも魔法庁はあれこれ言いがかりをつけられていたので、もしかしたら慣れてしまっているのかもしれない。

 人的にも施設的にも被害は出ていないと聞いてデルフィーナはほっとした。

「これから大変なのは父上と兄上だから。僕は元々大公家を継ぐつもりで勉強してたけど、あの二人は王家に戻るとは思ってなかっただろうし」

「そうね。ダヴィデの眉間の皺が取れなくなってしまいそうだわ」

 そう言って笑いかけると、ステファノもにこりと笑みで応えた。

 それから彼は事務室を見回して感動したように目を輝かせる。

「すごいな。あれだけ書類で埋まってた机がちゃんと見えるようになってる。やっぱりデルフィーナがいないと仕事回らないんだよね。……ところでヒカリは何をやってるの?」

 ステファノはヒカリの机の上に置かれた資料や書きかけの書類を目ざとく見つけて覗き込む。

「……星躔祭の企画……? え? ヒカリもお店を出すの?」

 ヒカリは仕事の合間に星躔祭の出店の詳細を書類にまとめていた。意図せずステファノたち魔法学院生と商売がたきになってしまった後ろめたさからか、言葉に迷っている様子だった。

「あ……これはね……なりゆきで」

「ほら、神殿の人たちは今星躔祭どころじゃないでしょ? でもこういうときこそお祭りは大事だろうってことになって。だから神殿の代わりに聖女様のお店を出すことになったのよ」

 デルフィーナがそう説明すると、ステファノがますます驚いた顔をする。

「えー? 神殿が参加できないなら魔法学院は売り上げ一番を狙えると思ったのに。強敵出現じゃないか……」

 毎年神殿が派手な店を出すので二位以下をぶっちぎりの売り上げ一位を獲得していて、魔法学院の出店はまったく歯が立たなかった。デルフィーナの在学中からそれは変わらない。今年こそ、というステファノの気持ちはよくわかる。


 今は神殿の人たちは再建のための寄付集めに奔走していて、お祭りの参加どころか自分たちの住まいすら確保できていないらしい。ご丁寧に彼らが溜め込んでいた資産も全て女神の御業で砂にされてしまったらしい。

 贅沢に慣れきった高位の神官は行き場を失って支援者の貴族に頼ろうとしたはいいものの、神殿派の貴族の多くが暴動に関わったために捕らえられていて、歓迎はしてもらえていないとか。

 下級神官や見習いたちは救護院などで仕事を手伝いながら身をよせているらしい。

 ヒカリの案では居場所や仕事を失った下級神官たちに異界の料理を販売する店を手伝ってもらう。彼らは炊き出しなどで大人数の調理の経験がある。準備込みで日当も払うし宿も斡旋する。神殿再建までの間の生活費になるだろう。

 料理は「テンプラウドン」や「サンドイッチ」など聞いたことの無いものばかりだった。収益は孤児院や救護院の充実のための寄付金にする。

 それから魔族の作った工芸品や魔法具を売る店と商業ギルドが押し込んできた聖女様の絵姿の入った品を売る店はヒカリ自身が店長を務めて、販売は王宮からの人員で行う。

 こちらの利益は半分が魔族、もう半分を魔法や魔族への印象を良くするための予算にしてもらうという。

 予算の見積もりや販売予想、店の図面から看板や販売品につけるマークまで自分で書いている。

 ……こんな細かい計画書なんて見たことない。あっちじゃ「パソコン」でやってるから手書きなんて久しぶりだ、とは言っていたけど。

 ヒカリはきっと向こうでも仕事ができる人だったんだわ。だから同僚に妬まれたりしたのね。


「ごめん。国王陛下直々に依頼されたから。でも、そんなに凄いことにはならないよ」

 ヒカリはそう言っているけれど、国王自らが提案したということは人員も予算もそちらで準備してもらえるということで、実際かなり大ごとになっているのに気づいていない。

「父上はヒカリの味方するんだ。ずるいなあ。だったらあの踊る花、聖女様が作ったって言ってもいい?」

 ステファノはちゃっかり聖女の名前を使って商売するつもりだ。彼はこういう発想に長けている。しかも、本当に作るのを手伝ったのだから詐欺じゃない。

「……まあ、嘘じゃないからかまわないよ。僕もあの花が売れてくれたほうが嬉しいし」

 ヒカリは力が抜けたような笑みで答えた。ステファノに会って、やっと日常に戻ってこられた気持ちなのかもしれない。

「じゃあ売り上げ競争は正々堂々やろうね」

 ステファノはそう言ってヒカリに笑いかけた。


次回更新は7/20予定です。

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