第一章 聖女召喚ダメ絶対③
それからも、父が怪しげな投資に欺されて大金を失ったと侯爵家の家令に泣きつかれるし、異母妹があちこちで婚約者のいる男性に言い寄って修羅場増産中だのと苦情が入る。
さらにコジモ王子が問題を起こすたびにその尻拭いに呼び出される。
デルフィーナはさすがにもうこれは不運だと言ってもいいのでは? と思い始めた。
どうして私は身内や婚約者に足を引っぱられ続けなければならないの。
いっそ侯爵家と王宮を爆破して更地にしたらスッキリするんじゃないかしら。いっぺんやってみようかしら。
などと思うくらいにはデルフィーナは屈折していた。
ああもう、馬鹿馬鹿しい。もう実家とは一日も早く縁を切りたいし、王子との婚約どころかこの国にいたくないんだけど。
そうして、デルフィーナが苛立ちを抱えた日々を送っていると、禁忌とされた聖女召喚をコジモ王子が強行したという情報が入ってきたのだ。
それを聞いたデルフィーナの口から出たのは、
「やっぱ更地にしとくんだったわ」
という心からの後悔の一言だった。
五十年に一度、魔族が魔の森から押し寄せてくる。聖女の力によって魔族の侵攻を押しとどめ、彼らを追い払うことができる……という。
聖女はこの国の民から現れるが、時には召喚術によって異界から招いていた。
先代も異界から招かれた聖女だった。たった一年で魔族を追い払い平穏をもたらしたという。
彼女は「自分のように望まないのに故郷や親兄弟と引き離されるようなことは二度とあってはならない」と訴えて、討伐と引き換えに召喚術に関わる資料を全て廃棄させ、禁呪とすることを要求した。
当時の司祭長と国王が臨席して女神に宣誓したと伝えられる。つまり女神との約束だったのだ。
そして、魔族の出現が近づいていた。神殿は血眼になって聖女の資格を持つ者を探し回っていたが、まだ見つかっていない。
聖女を早く迎えたい神殿側と聖女に執着しているコジモ王子の思惑が一致して、召喚術を復活させようという企みを思いついたらしい。そもそもコジモ王子の母親である王妃は神殿の司祭長の妹に当たる神殿派の筆頭だ。
五十年前に魔法陣や呪具は全て破壊された上に封印され、二度と使えないはずだった。けれど姑息にもギリギリ復元できる細工は残していたらしい。
その召喚術によって罪のない人が生まれた地に二度と帰れない状態にされるのだとわかっていない。先代聖女が訴えたことを全然理解できてないじゃないの。
召喚術には術式に適した星回りの日、完全な魔法陣と詠唱、そして大勢の術者が必要になる。それだけのことを行うには今の神殿には知識も経験も足りない。だから無理だと魔法庁側は予測していた。
けれど通報を受けて駆けつけたときにはもう術が完成していて、目の前に人の姿がぼんやりと見えた。
デルフィーナたちは大喜びしている神官たちや王子を見て、自分たちの見立てが甘かったことに唇を噛んだ。