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第四章 辺境戦線異状アリ①

 初めて訪れた王都の中央神殿で、光里は衝撃を受けた。

 そこにあった先代聖女リナの彫像、それが光里の姉の本多有梨奈にそっくりだった。

 どうして死んだはずの姉さんと先代聖女がこんなに似ているんだ。死んだのではなくこの世界に召喚されていたなんてことがありえるんだろうか。しかも五十年も前に。

 その彫像の手首にお揃いで買ってもらった腕時計と光里がプレゼントした勾玉のついたブレスレットがあった。

 ……まちがいない。この彫像の人は姉さんだ。でもどうして?

 そして、さらに光里のそんな疑問を吹き飛ばすような事態が起きてしまった。

 魔族が宣戦布告してきたのだ。しかも理由が先代聖女との約束を破ったからというものだった。

 そして、魔族の王の妃として連なっていた名前が、「リナ」だった。

 ……確かあの小説の中に、名前をすべて知られたらそれによって魔法で服従させられるという設定があった。デルフィーナも最初に会った時にそのことを口にしていた。

 だから、この世界に来て、あの小説との共通点に気づいた姉さんがとっさに本名を名乗らなかった可能性はある。リナという名前は姉さんがモデル活動の時に使っていた名前だ。

 でも、先代聖女と魔王の妃が同じ名前っていうのはどういうこと? 姉さんが魔王の妃になってるってこと? 一体何やってるの? ちょっと訳がわからないんだけど。


 魔族からの宣戦布告という前代未聞の事態を受けて、魔法庁では全職員の招集がかかった。

 聖女不在の事態にも対応できるよう、職員は普段から訓練を受けている。

 デルフィーナはそう言っていたけれど、皆の顔色は冴えない。

 そりゃそうだよな。これから実際に魔族の対応のために辺境に向かうことになるんだから。ヘラヘラ笑っていられるはずもない。

 光里は彼らの表情を見ながら、ふと思い出した。

 そういえば、神殿が新しい聖女の存在を公表していた。デルフィーナの異母妹というのは意外だけど……。

 本来なら女子高生の「ヒカリ」が聖女としてこの世界に来るはずだった。けれどそれが無かったから物語が強制的につじつまを合わせようと新しい聖女を誕生させたんだろうか。

 疑問がないわけじゃない。そもそも元々聖女になれる力の持ち主がいるというのなら、聖女召喚なんてしなくて良かったんじゃないのか? ピエラという少女は僕が召喚されるより前から神殿に行儀見習いで働いていたらしいし。

 当代の聖女が存在するなら魔法庁の負担がへるかもしれないと思ったけれど、それを考えると今ひとつあの聖女の力量が不安になってくる。

 ……不安は多いけれど、僕はデルフィーナについていく。いくら彼女が強い力を持つ魔法使いだとしても、もう誰かを送り出してから後悔したくない。


 広間に招集された職員たちの前に立ったシルヴィオは、見るからに黒々とした怒りのオーラを漂わせていた。

 シルヴィオの後ろに並んでいるデルフィーナも堅い表情をしている。

「魔族の出現と宣戦布告については皆の知るところだ。魔法庁はこの件の対応を正式に国王陛下から命じられた。それと同時に王宮騎士団と王軍の総帥から連絡があった。今回は王都の警護のため魔族討伐には同行しないとのことだ。そして、神殿は聖女選出を発表したが、聖女はまだ討伐ができる訓練を受けていないから今回は出ることができないそうだ。よって今回の討伐は魔法庁と辺境警備軍のみで行うこととなった」

 シルヴィオの言葉に職員たちからざわめきが起きた。

 軍も神殿も動かないというのか? 魔族が宣戦布告してきたのに? それは国防的にどうなんだ? 国王陛下もそれを認めたのか? どうせ神殿派の貴族たちの嫌がらせだろう?

 そんな怒りの混じった声を耳にしながら光里は何となく事態を理解した。

 神殿からすれば魔法庁が目障りなんだろう。魔法庁の評価が上がれば上がるほど、それまで魔法を否定してきた神殿の権威が失われるだろうし。

 だから軍に手を回して魔法庁を孤立させようとしている……ってことかな。

 こんなの非常事態にやることじゃないよ。

 魔法庁を失敗させて笑いものにしたいのだろうけれど、魔族対策で失敗したら被害が出ることはわかっているのだろうか。

 そもそも、魔族の侵攻よりも深刻なのは魔族が森に現れるだけで住処や食物を奪われた魔獣たちが人里に押し寄せてくることだ。魔獣たちは強い魔力を持つ魔族を恐れていて、彼らには逆らわないらしい。

 過去にも森からあふれ出た魔獣によって死者が出たり周辺の集落で農地や家屋の被害も出ている。魔獣討伐を行う辺境警備軍も同様だ。光里が読んだ書物にはそう書かれていた。

 もしあの森に住む魔獣たちが王都まで押し寄せたらどうするんだろう。

 最悪国がなくなったら、自分たちの立場もなくなるとか思わないんだろうか。


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