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第二章 白炎の魔女と悪役令嬢④

 ライトノベル「光の乙女と永遠の大地」 

 聖女により魔王封印から約五十年、魔王が復活する気配があった。

 フィオーレ王国の神殿は召喚の魔法を用いて新たな聖女を呼び出すことを決める。

 そして『星躔祭』を間近にした夜、一人の少女が召喚に応じて現れる。少女の名はヒカリ。彼女は聖女として魔王との戦いに巻き込まれていく。

『主人公の名前が光里と一緒なんだ。それで買ったんだけど面白いよ。読んでみる?』

 光里の姉がお気に入りだった小説だ。異世界に渡った現代人の少女が王子たちと協力して魔王を倒すという物語だ。押しつけられて光里も読んだ。

 その小説にデルフィーナという女の子が出てくる。プライドの高い貴族令嬢で、主人公の資質を疑って冷たく当たるいわゆる「悪役令嬢」だ。

 ……もしかして、この世界はあの小説に似ているのでは……。いや、似ているだけだよな。だって。

 デルフィーナは強気な言動をするけれど考え方はまっとうで理由もなく誰かに意地悪するようには見えない。気さくで貴族令嬢みたいに気取ったところもない。

 小説とは全然キャラが違う。だったらあの小説とは関係ない。

 違いは他にもある。

 聖女召喚に立ち会って、主人公と一緒に魔王討伐をする王子は厄介聖女オタクみたいな男じゃなかった。真面目で国を憂う青年だったし名前も違う。

 国王の名前も違ったような気がする。読んだのが随分前だから記憶が曖昧だけど。

 ……なにより招かれた聖女は小説の中では現役女子高生だったのに、名前が同じだけの二十歳過ぎた野郎って……違和感ありすぎだよな。

 ってことは偶然の一致、でいいのかな? だって小説の中に入るとかそんなラノベ展開とかあるわけないし……多分。よし、気のせいだ。解散。


「どうかしたの?」

 気がついたら二人ともじっとこちらを見つめていた。光里の様子がおかしいと気づいたのだろう。

「……あ、いや。何か作るなら僕も手伝えることあるかな? チアガールのポンポンを作ったことがあるくらいだけど」

 つまり、ステファノはお祭りで出すバザー商品を作るノルマを持ち帰ってきたということだったと思いだして光里はそう提案した。

 ラノベの件は今は関係ない。それに助けてくれたデルフィーナのことを悪役だとか失礼だ。彼女はそんな子じゃない。だから忘れよう。

「チアガールのポンポン?」

 光里の言葉に二人が揃って同じ角度で首を傾げた。小動物のような動きに光里は身悶えしそうになった。

 うわあ。そこでシンクロする? 滅茶苦茶可愛いんだけど。可愛すぎるだろうこの生きもの達は。……というか見とれている場合じゃない。

 こっちにない言葉は翻訳されないらしいことは気づいていたけれど、うっかりしていた。

「あー……それはね……」

 光里はしどろもどろになりながら「チアガールのポンポン」について説明する羽目になった。

 ビニールの紐はこっちにはない。ラメのテープを使ったりもするけど、それもきっとない。実演するのは難しい。だから誰かを応援するときに使う道具だと説明した。

 ……まあそのポンポンは、姉の陰謀で体育祭でチアガールの女装させられた時のものだとは黙っておこう。黒歴史だよ。二卵性だってのに、高校入学くらいまでは姉と見分けつかないくらい似てたからなあ……。

「じゃあ、ヒカリ。造花作り手伝ってくれる?」

 光里が手内職が苦にならないと言いたいのだと理解してくれたのか、ステファノは大きな鞄から部品らしきものを取りだした。

「……これは?」

「これはねー、出店で売る予定の新作だよ。造花の茎に魔法が仕込んであってね、周囲の物音を感じるとくねくね踊るんだよ。面白いでしょ?」

 いや、何かそういうのあっちの世界で見たことあるぞ。こっちにもあるとは思わなかったけど。凄いな異世界。

 そう思いながら光里は曖昧に頷いた。

「あー……歌に合わせて踊ってくれる的な?」

「あ、それいいなあ。売り文句に使っていい?」

「構わないよ」

 作業は花びらのパーツをぐるりと円形に並べて花っぽく仕上げるだけの簡単なお仕事だった。ただし、量はある。

 たわいもない話をしながら、デルフィーナが夕食の支度をしている脇で二人で手内職に励んだ。美味しそうな煮込み料理の匂いが漂ってきて、会話も弾んで。

 ああ、こんな家庭的な雰囲気はこの世界に来るまで久しくなかった。家族を亡くしてからずっと一人だったから。

 そう思うと鼻の奥がつんと痛くなった。

 食事を一緒にする家族すらいなかった自分にはこの世界の暮らしはラッキーかもしれない。いつまでもデルフィーナの家に居候するわけにはいかないけれど、もう少しこの状況を楽しんでもいいだろうか。

 光里はそう思いながらせっせと手を動かした。

 出来上がった造花は予想以上に奇妙な動きを見せてくれたので、全員で爆笑した。これがたくさん並んでいる屋台は結構見応えがありそうに思えた。

 ああ、本当に楽しい。ここに来て良かった。

 光里は心の底からそう思った。


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