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24話


 あたしは抜け出そうと、ソファについた太い腕を両腕で退かそうと力を加える。だが、びくとも動かない。

――逃げなきゃ。

 髭が、カサついた唇が、ザラついた舌が、肌に触れ寒イボが立った。耳たぶを舐められたのだ。


「うッッ…………」


 気持ち悪いのを我慢しながら歯を食いしばる。

――大丈夫。このくらい大丈夫。海夏君の痛みに比べたら、このくらいー…。


「あいつもお前も嫌ってくらい思い知るだろうー…俺に逆らうと、どうなるかってなぁ」


 今度は首筋を下から上へと舌が這う。

――大丈夫。このくらい大丈夫。海夏君の痛みに比べたら、このくらいー…。

 海夏君の背中の傷が浮かんだ。ずっと一人で誰にも頼れず抱えていた。


「海夏の彼女よぉ……お前らー…何処までいってる……? もうとっくにキスは終わったんだろ? だが、アイツのことだから舌入れたキスはどぉだろなぁ……ええ?」


 肌に刺さると痛い髭が、黄ばんだ歯が、口臭を漂わせる息が、固定した顔に近づいてくる。

――大丈夫。このくらい大丈夫。海夏君の痛みに比べたら、このくらいー…海夏君ッ!

 あたしは抵抗しようと足をバタつかせるが腹に乗られているため足が届くわけもなく。

 強がりも限界で、気持ち悪さとどうしようもないほどの嫌悪から涙が込み上げ目を瞑った。


「このくらいでビィビィ泣くんじゃねぇよッ」


 あたしの頬に痺れが走った。

 義父はそのまま怒鳴り続ける。


「まったくよぉー…言う事聞く奴もいいが俺は気が強いやつのが好きなんだよッ! たくよぉ、まだアイツのほうが良かったぜぇ……海夏の姉ー…夏江、奈都美だっけなぁ? アイツはこんなことでは泣かなかった。良い女だったぜぇ……だからよぉー…」


 重い、気持ち悪い、逃げられない。助けて。誰か助けて。


「このぐらい我慢しろよなぁッッ?! ええ? 出来るよなぁッッ?!」


 ふわりは首を左右に揺らしながらぼやけた視界から涙を流す。


――アクアマリンの瞳が火花を散らした。


 ぼやけた視界から男の顔がいっきに遠のいたかと思うと、あたしの体が軽くなった。

 驚いて瞳を開けると新たに溜まっていた涙が大粒となりこぼれ落ち、視界が少し開けそこに海夏君がバットを片手に荒い息をついていた。


「テメェー…ふざけんなよッ……」


 そこには、怒りに身を震わせた海夏君がいた。


「俺はッ……俺はずっとー…ずっと、耐えてきたんだ……! 俺は傷付いたっていいッ! 煙草押し付けられたって、ナイフで刻まれたって、サンドバックにだって幾らでもなってやるッ! でも、でもなー…ふわりを、姉貴を、妹を、母さんを傷付けることはー…許せねぇッッ!!」


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