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11話 真白〜後編〜



「ー…い! おいっ待てって!!! 真白ッッ」


 教室を飛び出し廊下を走っていたが、直ぐに首に手を回され捕まった。


「いつも俺を追いかけてたお前に、俺が追いつけない訳無いだろッ」


 血相を変え息を付き、凄く慌てたのがわかる。

 私は両手で逃さないようにしている手を剥がそうとする。が、やはりびくともせず、足をバタつかせる。


「放してッッ! 放してってば!」


 くるりと体の向きを変えて腕の中で向き合い龍の胸部を拳で叩く。

――なんで。なんで追いかけて来たの。

 ふわりが好きな癖に。諦めきれない癖に。

――なのに、追いかけてくれて嬉しいと思っちゃう。

 私も、私で。


「話を聞けって!」

「うるさいッ。何も聞きたくない。龍のせいだッ。全部全部ー…」


 床に雫がボダボダと少しずつ溜まっていく。

 苦しそうに目を瞑ったその瞬間、龍が力強く抱きしめてきた。


「ー…悪ぃ! そうだ全部、俺のせいだ。俺のせいなんだよッー…」


 私は驚き言葉を失った。抱きしめる龍が小刻みに震えていたからだ。


「ー…俺、真白の事がー…好き、だったんだ。俺、バカだから、俺がもっと早く、真白の想いに気付けてたらー…ふわりの事、好きにならなかったかもしれないー…」


 途切れ途切れに必死に繋ぎ続ける。


「ー…ごめん、真白。遅かったんだー…初めてお前が俺を好きかもしれないって、そう思ったのはー…ふわりを好きにー…なった後でッッー…」


――あれは、そう言う意味だったんだね。


『なんでー…今なんだ』


――私のこと、好きだった時がー…あったんだ。

 ただ、お互いに気持ちが分からなくて。言う勇気が無くて。


「ー…俺の気持ちが変わらなかったら、俺がずっとずっとお前の事、好きだったらー…何で真白じゃ駄目なんだ。全部本当に俺のせいでー…だから、真白が悪いわけじゃー…ごめー…」


「ー…龍が、龍だって悪くないよ」


 龍の震える背中に手を伸ばし、そっと抱きしめ返した。


「さっきは龍のせいにしてごめん。永遠に気持ちが変わらない、絶対に、とは言えないよねー…だって誰が好きって変化してくれないと、ふわりにだって振り向いて貰えないじゃない? それにー…」


 真白の目にはまだ涙が溜まっているが、その表情は和ぎ、微笑んだ。


「龍が、また好きになってくれる可能性があるって事でしょ?」


 少し赤い目をしながら龍が、笑った。


「そーだな」



――いつだったか。

 久しぶりに見た龍の真剣な顔。ふわりに見せてたあの顔。

 私は、初めて見たわけじゃなかった。

 まだ私が龍への想いに気づく前の時。小学生低学年。

 変わらないメンバーで、私と比べて女の子らしかったふわりは海夏に肩車とかしてもらって。私と龍はよく手を繋いで肩車をしてのんびり行く海夏より先を走っていたっけ。

 いつも仲良く校舎のグランドを走り回ってた。だけど、その日はたまたま龍と仲いいクラスの男子たちと一緒にドッチボールする事になった。

 ふわりは運動が苦手で遠慮し、海夏が『俺はふわりと遊びたいからパスで』と結局、龍と私と仲いい男子達と遊ぶ事に。


『真白、勝つぞ』

『当たり前でしょ』


 そこそこ運動が出来てたから男子達とヒケを取らなかったため、結果は私達のチームが勝った。それが面白くなかったのだろう。


『お前ら、絶対ズルしただろ!』


 私は言い返した。


『ズルなんかしてないもん! 負けたからって言いがかり付けないで!』

『ハァ?! 女だからって調子に乗るなよッ! わったぞ。お前、俺らに何かしただろ!!』

『何かって何よ!』


 別の男子が言った。


『お色気の術とか?』

 するとさっきの男の子がニヤリと笑いながら、


『そーだよ。こいつ俺らにお色気で勝ったんだよ』


と言いがかりを付け、周りの男子達に同意を求めた。


『そんなのしてないもん!』


 集団というのは、多ければ多いほど調子に乗っていく。


『嘘つけ! お前試合中俺にパンツ見せつけた癖に』

『だからスカートも気にせずにいっぱい動いてたんだな』

『おい、お色気今もやって見ろよ』


 男子たちが私を囲み、その一人がスカートをひっぱった。

 嫌嫌泣きながら抵抗したその時。


『真白に触るな!』


 トイレから戻った龍が私を囲んでた円を崩し、スカートをひっぱてた男の子の手を掴んでいた。近くには一人男子が尻餅を付いていた。


『この手離せよ!よくも俺のー…真白を泣かせたなッ!!!』


 龍はその時から強くて。かっこよかった。

 龍が好きだと気付いたのはまだ先だったけど、龍の真剣な顔を見たのはあれが初めてだったー…。

 私を庇いながらしっかりと私の目を見て『俺が、お前を守るからな』と言って。


「龍、あの時の事覚えてる?」


 まだ少し赤い目をしながら2人並んで廊下を歩く。


「覚えてねぇしッ」


 そう言いながら少し耳が赤くなっている。


――あの顔は。好きな人に向ける真剣な顔をだったんだね。


 もっと早く伝えてれば。ううん、違う。今更か。

「私、諦めないからね! 好きだよ、龍」

 突然のことで口元を腕で隠しながら私の隣からはねずさる。


「バッッカー…お前、やってみろよ! バァーカ!!」

「バカって何よ! しかもせっかくこの前、龍が好きって言った団子ヘアにしたのに!! 意味なかったし……」


 私はショボンとする。

 龍がこの前のことを思い出したのか。


「あれはー…!! お前、あれはー…確かにそう言ったけど俺、その、左のページがー…!」

「はいはい。知ってますよーだ。本当は左に載ってたふわりみたいな人なんでしょ」


――私は龍が好き。好きな人にたまに向ける真剣な顔。でも、殆どが真逆の事を言ってしまう所とか。

 今はふわりが好きなんだろうけど、これをいつかまたー…。


 私に向けて欲しい。


 真白がお団子を解きながら龍の少し前を走り出し、振り返った。

 そして、笑った。

 そんな真白の姿を見て龍は、まぁ、大丈夫か。と微笑んだ。


 「左のページに写ってたのは2人だっただろ」と言わなくても。

 1人はふわりみたいなゆるふわウェーブ。もう1人はー…。


――真白のサラサラストレート。綺麗だなとか思ってねぇから。





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