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マーちゃんの深憂  作者: 釧路太郎


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シュガー軍曹とマーちゃん中尉

 ほぼ何も出来なかったマーちゃん中尉ではあったが、思っていたよりも落ち込んではいないようだった。負けることはわかっていたとは思うのだが、あそこまで一方的にやられたことで何らかのショックを受けているのではないかと思ってイザー二等兵と妖精マリモ子は慰めるためにマーちゃん中尉のもとへやってきたけれど、本人はいつもと変わらない様子だったので拍子抜けしてしまった。

「あれ、二人が一緒にやってくるなんて珍しいね。何かあったの?」

 表情からも口調からも落ち込んでいるようには感じられなかったので戸惑っていたのだが、妖精マリモ子は心の底から心配しているのを隠すこともなく少し動揺しながらマーちゃん中尉に駆け寄っていた。

「昨日あれだけ一方的にやられちゃってたからもっと落ち込んでるのかと思ってたんだよ。ここに来るときにイザーちゃんとばったり会ったから一緒にマーちゃんを慰めようと思ってきたんだけど、全然落ち込んでないよね?」

「え、全然落ち込んでないけど。落ち込む理由とかないし」

 マーちゃん中尉は妖精マリモ子が何をそんなに心配しているのか本気でわかっていたなかった。彼にしてみればミルク伍長との戦いは負けるのが当然だとでも思っているような感じであった。


「つまり、マーちゃんは最初からミルク伍長に勝てるとは思ってなかったことだよね。それってさ、戦う前から負けることを考えてたって事なんだよね?」

「そりゃそうでしょ。俺は今でこそ無理やり階級を中尉にされてるけどさ、実力的には研修生とそれほど変わらないんだからね。魔物とか相手だったら『うまな式魔法術』によってそれなりに戦えているけどさ、同じ人間相手には俺の長所が一切活かされないんだよ。むしろ、基礎魔法しか使えないって状況でどうやって戦えっていうのさ。俺の攻撃魔法は『うまな式魔法術』を使える人には何の意味もないんだからね」

 一瞬ではあったが三人の間に気まずい沈黙が流れた。そんな沈黙を打ち破ったのは意外なことにイザー二等兵だった。

「マーちゃんがそんなに結果にこだわらない人だとは思わなかったよ。うまなちゃんもマーちゃんが負けたことに対して特に何も言ってなかったけどさ、もう少し頑張って戦おうって気持ちにはならないのかな」

「全くならないね。そもそもだけど、俺は戦うこと自体好きじゃないんだよ。強い人同士で戦えばいいのにって思ってるんだけど、世間から見たら『うまな式魔法術』を使う前から魔法が使えてる俺は強い人側何だろうね。でも、それは魔法が使えただけであって魔法を使って戦えるとは一緒じゃないんだよ。イザーちゃんと違って俺は戦う才能なんてないのは自覚してるからね。そんな俺を世間では誤解しているままだと思うし、ミルク伍長の素早さはそんな強い俺でも対処できないくらい凄いんだって思ってるんじゃないかな」

「それはわかるんだけど、そんなことして何の意味があるのかな。マーちゃんにメリットなんてなんもないと思うんだけど」

「メリットならあるよ。俺よりも強い人がたくさんいるってことは、俺が戦場に出向かなくてもいいってことでしょ。ほぼ平和になったこの国で魔物と戦う事なんてほとんどないとは思うけど、外国はそうでもないからね。そんな国に派遣するとしたら、俺みたいに中途半端に全種類の魔法を使えるだけで役に立たない男と、『うまな式魔法術』に頼らなくても戦力になる男だったらどっちを選ぶかなって話だからね」

 イザー二等兵も妖精マリモ子もマーちゃん中尉の話を聞いて納得はしていないのだが、マーちゃん中尉の考え方は少しだけ理解してあげることにしたのだった。

「うん、そうだったね。マーちゃん中尉は初めて会った時から戦う事には積極的じゃなかったもんね。すっかり忘れてたよ。で、次のシュガー軍曹とのエキシビジョンマッチも負けるの?」

「勝てるわけないからね。俺の攻撃をいくら当てても効果ないだろうけど、俺は向こうの攻撃がかすっただけでも死んじゃうかもしれないからな。そんな状況で勝てるなんて思う程自惚れてなんていないさ」

「そうかもしれないけどさ、マーちゃんにはもう少し頑張ってほしいよ。イザーちゃんもマーちゃんもあの男と会うことがないから気にならないかもしれないけど、ミルク伍長との試合の後の松之助ってすっごくウザかったんだからね。ミルク伍長にマーちゃんが手も足も出なかったのがすっごくすごく嬉しかったみたいでさ、予定時間を十分以上も越えて自慢話を聞かされたからね。一目会った時からあいつのことは嫌いだったけどさ、その事でますます嫌いになったよ。だから、シュガー軍曹に対してちょっとでも抵抗してもらえないと私の拘束時間が延びちゃうんだよ。なんでゲスト解説なんて引き受けちゃったんだろう」


 マーちゃん中尉はシュガー軍曹の攻撃をかなり余裕をもって交わしていた。

 一撃一撃が重いかわりに動作が読みやすく攻撃をかわすことは容易だったのだが、そこはシュガー軍曹も戦いなれているという事もあって段々と角に追い詰められていくマーちゃん中尉。

 振り下ろし気味の左フックをギリギリで避けながらシュガー軍曹の左側から抜けて角を脱出しようとしたのだが、マーちゃん中尉が避けたその場所にジャストタイミングで回し蹴りが飛んできた。左フックの勢いに乗って体を回転させたまま繰り出された回し蹴りはマーちゃん中尉の顔面を綺麗にとらえてしまったのだ。

「これは完全に決まったな。エキシビジョンマッチも二連勝ってことだし、マーちゃん中尉はこれからも絶対に俺たちには勝てないだろうな」

 妖精マリモ子は苦虫を噛み潰したような顔で画面に映し出されているマーちゃん中尉の姿を見ていた。完全に失神していたのだが、担架に乗せられても反応がなかったので心配になってしまった。

 栗鳥院松之助の話を聞くことになる妖精マリモ子ではあったが、今回はマーちゃん中尉の事が心配だからと言って抜け出すことが出来ないか考えているのであった。

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