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マーちゃんの深憂  作者: 釧路太郎
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うまなちゃんとイザーちゃんがマーちゃんのもとに来た理由

 違和感しかない三人組が一般隊士と同じ食堂を使っているという事は明らかに場の空気を読んでいないと思われる。疲れた体も心も癒してくれるはずの食堂に突然現れた栗宮院うまな中将の姿を見て冷静でいられるものは二人しかいなかった。一人は栗宮院うまなの付き人であるイザーであり、もう一人は部隊の隊長であるマーちゃん中尉なのである。

「さすがに一般隊士が使う食堂にうまなちゃんを連れてくるのはまずかったんじゃないかな。みんなうまなちゃんの階級章を見て引いちゃってるよ」

「それもそうですね。次からはうまなちゃんを省いて二人出来ましょうか」

 イザーは冗談めかしてそう告げながらうまなに視線を動かしていたのだが、肝心のうまなは特に気にする様子もなく本日の日替わりランチを三つ注文していた。この国で栗宮院うまなの顔と名前を知らない人間はいないと思うのだが、さすがにこのような人の多い場所に本人が来るはずもないという思いもあって食堂のおばちゃんたちは目の前にいるのが本物の栗宮院うまなだとは思ってもいないようだった。

 有名人であるがゆえに栗宮院うまなの偽物は数多く存在するし、その中には双子なのではないかと思えるくらいにそっくりな人も存在する。また、熱狂的な栗宮院うまなファンの中には自分も栗宮院うまなと同じような顔に整形手術をする人物もいるそうなのだ。だが、そんな偽物が十九番隊隊舎の中にやってくるなんて命知らずなことをするはずはないとこの場にいる隊士はみな思っていたのだ。

「私さ、こういうところのご飯って好きなんだよね。いつもはレトルトのおかずをレンジでチンして食べてるんで、こうやって手作りのご飯ってそれだけでありがたいなって思っちゃうよ」

「うまなちゃんも私も料理は出来ないからね。マーちゃん中尉は料理とかするんですか?」

「それなりに料理はするよ。自分で食べる分くらいは時間があれば作るって感じかな。でも、本格的な料理ってよりはレトルトに近いと思うよ。買ってきた肉を切って焼くだけとかだし」

 三人はそれなりに会話をしながら料理を堪能していたのだが、無言で食べてしまうと周りの一般隊士が栗宮院うまなに気を使って食事をとらないのではないかという二人の配慮もあったのだ。だが、栗宮院うまなは何を食べても美味しい美味しいと言って料理を堪能していたのである。それを見ていた隊士たちも心なしかいつもより美味しいご飯を頂く出来ていたようなのであった。


 食事を終えてマーちゃんの執務室に戻った三人であったが、マーちゃん中尉には二人に確かめておかなければいけないことがあった。それを聞くためにはどうすれば切り出しやすいか考えてはいたのだけれど、マーちゃんはついにそれに対する答えを導き出すことが出来なかった。何かに取り繕って聞くなんてことは出来ず、ついついストレートに聞いてしまったのだ。

「そうだね。私がマーちゃんの部隊を選んだ理由は色々あるんだけどさ、一番の理由はマーちゃんが魔法を使えるって事かな。他にも魔法が使える人ってのはたくさんいると思うんだけど、その中でもマーちゃんが一番私の理想に近い魔法使いなんだよ。ほら、君って意味もなく基礎魔法を全て習得しているじゃない。普通だったら全種類なんて覚えようなんて思わないからね。自分の得意な系統とそれに類似する系統を三つくらい覚えたら応用に進むもんだもん。何か特別な理由でもあるのかな?」

「それは本当の理由なんてないよ。しいて上げるとすれば、俺は自分の限界値がそこまで高くないってのを知っていたからかな。他の人に追いつけないってのはよくわかっていたし、追いつけないんだったら違った形でアプローチするためにも全種類使えるようになっておいた方が良いかなって思ってたんだ」

 マーちゃんの言っていることは半分は本当でもう半分は全くのでたらめだった。彼が他の人と魔法修練度に差が出来てしまうというのは本当で彼の得意魔法を極めようと思ったところで何かの役に立てるとは思っていなかった。そこで考えたのが、基礎魔法とはいえすべての系統の魔法を使えるようにするという事だ。今までそんなことを考えた人がいないので試行錯誤の日々が続いてしまったのだが、彼は二年ほど前に基礎魔法とはいえ全系統の魔法を使えるようになったのである。

 彼の行ったことは人類史上初めての快挙と言えるのだが、全種類使うことが出来るとは言ってもその全てが基礎魔法であるために実戦では何の役にも立たないのだ。むしろ、全系統を使うことが出来るという事で連携が大事な魔法戦闘において威力の弱い魔法を使うことは迷惑行為と受け取られかねないのであった。それなのに、彼が全系統の魔法を習得しようとしたことには理由がある。その理由とは、全系統の魔法を使えるようにするために訓練を重ねていくという事だ。実戦では何の役にも立たないことに時間を使うのはどうかと思うが、仮に彼が一つの系統に絞って努力を重ねたとしてもさしたる影響はなかったとも言えるのであった。

「そうは言いますけど、マーちゃんの使える魔法って基礎魔法の中でも基礎中の基礎って感じの魔法ばっかりだよね。うまなちゃんの開発した魔法術となら相性がいいと思うんだけど、基本的な威力がないに等しいからどうなのかなって思うよ。中途半端な攻撃は相手からの怒りを買いかねないから気を付けた方が良いかもね」

「俺の事はいったん置いておいて、イザーちゃんがここを志望した理由って何なのかな?」

「そんなの決まってるじゃないですか。うまなちゃんがここじゃなきゃ嫌だって駄々をこねたからですよ。それがなければ私もうまなちゃんも中央でぬくぬくと過ごしていたと思うんですけどね」

「その気持ちわかるかも。俺も戦地に赴いて敵を抹殺するってのよりも後方待機で訓練してた方が良いわ」

「ああ、それはちょっと違うかもしれないです。どうでもいいことなんで気にしないでおきますけど」

 栗宮院うまなはマーちゃんの使っている机に置かれていた分厚いファイルを手渡していた。受け取ったそのファイルの中身を見たマーちゃんは二度三度と瞬きをしつつ自分の目がおかしいのではないかと目薬を何度もさしていたのだ。

「こんなにたくさん入隊希望者がいるってどういうことだ。十九番隊に配属されるのって不名誉なことだと思われているのに、なんでこんなにたくさん入隊希望者がいるんだよ」

「そんなの決まってるじゃない。私がここに配属になったからよ。って言っても、それは私がいろいろな力を使って決めたことなんだけどね」

「あの場にいたみんなを納得するのは大変でしたよね。そのおかげで私は二等兵に降格しちゃったけどね。いつもの事だから問題ないと言えば問題ないんだけど、このファイルの人達を全員面談して入隊させるかどうか決めるのは大変だね。その辺は中尉殿と中将閣下にお任せしちゃうしかないよね」

 イザーは二人の事を気の毒そうに見つめていたのだが、二人に背中を見せたあとはその表情はとても悪いことを考えているようにしか見えなかった。

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