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マーちゃんの深憂  作者: 釧路太郎


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うまなちゃんとイザーちゃんの秘密

 マーちゃん中尉はイザー二等兵の攻撃を全て受け切ると、そのまま反撃に映ったのだが攻撃系基礎魔法を乱雑に撃ちまくるだけというお粗末なものだった。

 しかし、『うまな式魔法術』の中でも限られたものしか使うことが出来ない『うまな式高等魔法術』の効果でマーちゃん中尉の基礎魔法は全て大魔術師クラスの破壊力を持っていた。基礎魔法なので詠唱もなく魔力消費もほぼない状態でいくらでも放つことが出来るという状態にもかかわらず、『うまな式高等魔法術』の効果で威力が数千倍になっているので防ぎようがないのだ。

 ただ、イザー二等兵も『うまな式魔法術』を使うことが出来るので直撃したとしても魔法のダメージは一切ないのだが、当たる直前に感じてしまう死の恐怖を拭うことは簡単ではないはずなのだ。

 二人の勝負を見ていた人の心にも何らかの傷を負わせてしまうくらいに衝撃的な出来事ではあったのだが、一般公開された映像にはマーちゃん中尉の魔法の威力を柔らかい表現に変えるなどの配慮はなされたのだ。実際に阿寒湖温泉で映像を見ていた人と後で一般公開された映像を見た人で印象は変わってしまうのだが、『うまな式魔法術』の凄さを世間に再認識させるには十分すぎる結果になってしまったのだった。


「それにしても、マーちゃんは一回教えただけであそこまで『うまな式魔法術』を使いこなせるとは思わなかったよ。私の想定をはるかに超えた完成度だったよ。そのおかげで、イザーちゃんも生まれて初めて恐怖を感じたみたいだね」

 イザー二等兵は叱られた子供のように小さくなって震えているのだが、マーちゃん中尉から目を離そうとはしなかった。それがマーちゃん中尉に対する恐怖の表れなのかじっと見つめるその視線からは許しを請うような印象も受けてしまった。

「こんなに怯えたイザーちゃんを見ることが出来るのは今だけかもしれないからじっくりと見ておいた方が良いんじゃないかな」

「そんな意地の悪いことなんて出来ないよ。俺は無我夢中で魔法を使っただけなんだけど、なんで基礎魔法しか使えない俺があんなに派手で殺傷能力も高い魔法を使うことが出来たんだろ」

 マーちゃん中尉が使うことの出来る魔法はすべての基礎魔法なのだが、それ以上のレベルの魔法を使うことが出来ない。これは彼が意図してやっている事であって、基礎魔法から一段階でもレベルを上げてしまうと全種類の魔法を使うことが出来なくなってしまうからだ。全種類の魔法を使うことが出来ると聞くと聞こえは良いかもしれないが、全て基礎魔法であるため攻撃魔法の威力は虫を殺すことも出来ない程度でしかないのだ。

 そんな基礎魔法があれだけ派手で高出力のとんでもない魔法になってしまったのか。その答えは『うまな式魔法術』にあるのだ。

「マーちゃんの長所であると同時に欠点でもある全ての基礎魔法を使うことが出来るというモノなのだが、そのままだと長所にはなりえないってのはマーちゃん自身が一番よく知ってるよね。でも、その欠点が『うまな式魔法術』によって誰も真似することが出来ない長所になりえるんだよ。イザーちゃんとの勝負でもわかったと思うけど、『うまな式魔法術』の特徴でもある魔法の効果を何倍にもすることが出来るっていうのと全ての基礎魔法を使うことが出来るというのはとても相性がいいのだよ。でも、残念なことに基礎魔法は覚えなくても応用魔法を使うことが出来ちゃうんだよね。それに、全系統の魔法を覚えるくらいだったら自分の得意な魔法の練度を上げた方が良いって思ってもおかしくないんだよ。それなのに、君みたいに全系統の魔法を覚えようなんて物好きは頭がおかしいって思われても仕方ないんだ。でも、そのおかげで私たちの作った『うまな式魔法術』の完成を見ることが出来たんだよ」

「色々と言いたいこともあるし聞きたいこともあるんだけど、私たちの作ったってどういう事?」

 マーちゃん中尉の質問でしまったという顔をしていた栗宮院うまな中将ではあるが、あきれたようにため息をついてイザー二等兵がその質問に答えてくれた。先ほどまで怯えていたように見えたのが嘘だったんではないかと思うくらいに落ち着いた様子に戸惑っているマーちゃん中尉ではあった。だが、そんなマーちゃん中尉の気持ちなんて知らないとばかりにイザー二等兵は説明を続けるのであった。


「その前にさ、イザーちゃんはもう大丈夫なの?」

「それなら問題ないよ。あの子はいったん休んでもらってるからね。と、その説明もしないといけないのか。先に説明をしておかなくて申し訳ないと思うんだが、私はうまなちゃんを守るために作られた存在とでも言えばいいのかな。そんな感じでいくつかの人格が存在するんだが、表に出てきている人格によって能力が大きく変化するようになってるんだよ。つまり、入隊試験を行っているときの戦闘的なボクとこうして君と話をしているいつもの私と夜にだけ出てくる大人なアタシがいるってコト」

「ねえ、夜は関係ないでしょ。今は出てこなくていいよ。つか、一生出てこなくていいし」

「そんなにアタシの事嫌わなくてもいいのに。そんなに嫌われちゃうんだったら、うまなちゃんの大事な魔力を全部吸っちゃうゾ」

「それは本当にやめてほしいんだけど。そんな事したら、リセットしちゃうよ」

 栗宮院うまな中将とイザー二等兵の間に何かピリピリとした空気が漂っているのだが、それに触れていいのか迷うマーちゃん中尉であった。

「あのね、うまなちゃんって、今はこうして大人っぽい体型でスタイルもいいんだけど、魔力を失うと体が小さくなって子供みたいになっちゃうんだよ。一番小さくても小学校低学年くらいにしかならないんで面白くないんだけど、どんなに魔力を貯めても実年齢より老けることがないから面白くないんだよネ」

「変なこと吹きこむのはやめてよ。マーちゃんも困ってるでしょ」

「うーん、どうだろうね。そんなに困ってるようには見えないけど。でも、これ以上余計なことを言って消されても困るからさっさと消えちゃおうかな。またどこかで会おうネ。という事で、私もうまなちゃんも君に期待しているという事だ」

「いや、全然わかんないんだけど。何をどう期待しているのか全然わかんないんだけど」

「イザーちゃんが説明していたときなんだけどね、表に出てきたのはあの子だったんだよ。それで、余計な事ばっかり言って戻っちゃった。多分、イザーちゃんの説明の時に丸々入れ替わっちゃってたんだと思うよ」

 イザー二等兵は先ほどと違い怒っているような困っているような泣きそうになっているようなそんな感じに見える不安定な表情を浮かべていた。それを見たマーちゃん中尉はイザー二等兵の事を感情が豊かな人だなと思いながら見ていたのであった。

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