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訳ありメイド、汚豚公爵に追いやられました 下

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


これで完結です!一部「おねショタ」要素もあるので、ご注意ください。

セヴィリア家はテッド家の使用人をクビにしてから、次々に人員削減を打ち出した。表向きは技術向上による効率的な体制を打ち出していた当主だが・・・実際は浮いたお金で、様々な高級陶器を買いあさっていたのだ。これには、息子であるハルトも黙っている訳がない。


「父上、いい加減にしてくれ!次々に色んな人をクビにしたと思えば、そんな陶器のコレクションばっかりにお金を使って!!」


「えぇい、黙れ。使えない使用人より、長く残る陶器の方が価値があるだろうがっ!!」


もっともな言い分だとは思うが、既に陶器に使った金額は、使用人をクビにして浮いたお金を遙かに超えている。これ以上使われてしまえば、セヴィリア家の維持も危うい。


「そんなに陶器にお金を使ってどうするんだよ!セヴィリア家の維持も商会の運営も、どんどんキツくなっていくだろう!」


「ふん、資金はお前が思っているよりずっと残っている。商会から巻き上げれば、まだまだ財は増える」


ピクッと、ハルトは動きを止めた。まさか父は・・・商会のお金を横領している!?いくら運営側とはいえ、私的な用途で商会のお金を使えば、明らかに非難される。これ以上、父の横暴を許すわけにはいかない!


「もう我慢できない、このことを皆に言ってやる!」


「馬鹿者、そうすればセヴィリア家は取り潰しだ!!お前も今後、暮らせなくなるぞ!」


「非道なことをやって儲けてる家なんてこりごりだ!そもそも父上の悪行で終わるんだ、取り潰しはそっちの責任だろう!!」


そうして部屋から出ようとしたハルトだったが、突如現れた男達が彼を取り囲む。


「お前ら、コイツを地下に幽閉しろ!考えを改めさせるまで出すな!!」


どれだけ自分勝手な人なんだ!もはや実の父に、憎悪しか感じなくなっていたハルト。しかし当主の命は絶対、彼はそのまま地下部屋に閉じ込められることになる。外には一切出られず、世話もほとんどない地下。それでも彼は決して、父に屈服などしなかった。


そもそも直属の跡継ぎである息子が死ねば、困るのは向こうだ。あの人は目の前のことしか考えないと、弱っていく頭でボンヤリ考える。


これで良い、これで・・・・・・。


(でも・・・ユーリィに言ったこと、叶えられないな。僕が当主になったらユーリィをセヴィリア家に戻すって、あんなに言ったのに。ゴメン・・・・・・)


涙が1粒落ちそうになった、その時。コツコツと、誰かが素早く地下に降りてくる足音がする。食事を持ってきた使用人かな・・・と思い顔を上げると、そこには懐かしい姿が合った。


「ハルト様!今お開けいたします・・・!」


「・・・・・・ゆ、ユーリィ?」


セヴィリア家のメイド服とは少し違うが、確かに格子の向こうにいるのはユーリィだ。彼女は鍵をそっと開けると、横になっていたハルトをバッと抱き寄せた。


「ど、どうして、ここに・・・・・・」


「詳しくは時間がないので割愛いたしますが・・・ともかく、ここから出ましょう」


ユーリィはハルトを抱きかかえると、ドタバタと階段を上がっていく。


「ま、待て!僕が許しも得ずに出たのを、父上が知ったら・・・」


「いえ、問題ありません。当主は現在、オーム様の計画に嵌められていますから」



ユーリィがハルトの元へ行っている頃。ミーナは「ファルトム公爵が扱う香辛料の商談」を名目に、セヴィリア家の邸宅に足を踏み入れていた。実はオームの旧友が提示した取引先の1つに、セヴィリア家の有する商会が含まれていたためだ。


新たな価値のある商品を探している当主は、高品質の香辛料に目を付けた。汚豚公爵の元に行かされたユーリィを見てやろうという魂胆もあったが、きっと彼女は屋敷で雑用なのだろう。そこは面白くなかったが、まぁ良しとする。


「・・・・・・こちら、私の出身国の特産品でして。現在こちらの国での相場ですと、この量で金貨100枚ほどの価値になります。勿論、生産量による変動はありますが、80枚の価値は保証できるかと」


「ふむ、なるほど。確かに我が商会の取引先も、香辛料を欲しがっているところが多いな」


この香辛料を商会でも扱えれば、利益はさらに増加する。そうすればセヴィリア家の立場は、さらに確固たるものとなるだろう。何より、もっと高価な陶器を自身のコレクションに出来るはず。


それに、この娘。小麦色の肌に黄色い瞳を持ち、こちらの娘とまた別の華があり可愛らしい。見た目が悪いと聞く汚豚公爵の元にいるより、こちらの商会に来た方が良いだろうに。そんな邪な考えが、当主の頭を侵食していく。


「予測が入りますが、もしこちらの香辛料を利益率10%で取引しますと・・・」


チラッとミーナが目をやったのは、陶器のコレクション。確かアレは、異国で作られた貴重な品。


「あちらの陶器を買われた時に払ったお金、おおよそ20倍分が定期収入になるでしょう」


「そうなのか!アレは異国の商人から買ったモノでね。かなりの価値があるんだ、それが分かるとはお目が高い」



「えぇ、価値があるのは分かります。だってアレ、我が国の()()ですから」



ピタリ、と当主から笑みが消えた。異国の商人・・・またの名を、裏ルート。


「な、急に何を・・・」


「コレ、我が国の古代王族が使っていた神器なんです。本来は国の歴史館で保管されていましたが、数年前の火事で盗まれまして。一部では、盗賊が資金集めのため異国に売買したという噂がありました。


何故我が国の重要文化財が、セヴィリア家にあるのですか?」


先程までのほんわかさから一転、ミーナは真剣な目で当主を見る。自分がしたことが分かっているのか、とでも問いかけるように。


「ぐっ・・・おっ、おい!誰か来い!!」


ばつが悪くなった当主は、すぐさま人を呼んだ。息子と同じく、都合の悪い者を監禁するために。


だが、その声に合わせて現れたのは、見慣れぬ兵達。そこからドシドシと足音を立て、オーム・ファルトム公爵が顔を出した。


「セヴィリア家当主、貴殿は盗賊に金銭援助を行ったな。さらには当家商会の運営金横領の疑いも浮上している。既に都管轄の警察より逮捕状も手配済みだ、大人しくお縄に付け!!」


なっ、と声を上げる前に、兵は当主を一気に押さえ込む。


「何故だ、汚れ豚なんぞが警察と・・・!!」


「悪いが、そちらから急にテッド家の使用人が来た時点で不審に思ってな。ある程度金銭状況を知っているテッド家を追い出したのは、今回の横領に繋げるためだと勘づいた。


お前は知らないと思うが、ファルトム家と多少関わりのある使用人がいてな。密かに状況報告を頼んでいたのだ。そしたらユーリィ宛かつ内容を隠すあぶり出しだ、貴様が手紙1つにも徹底的に漏出を嫌っていたのがよぉく分かった」


ズシン、ズシンと近寄っていくオーム。


「警察に連絡したところ、それなりに貴様を注意人物と見込んでいたそうでな。丁度良いので協力させてもらったわけだ。まぁ俺がかつてこの国とちょくちょく顔合わせした宰相だから、というのもありそうだが」


「だ、黙れ!そんなもの、昔取った杵柄だろうが!汚豚(よごれぶた)公爵なんぞが、調子に乗りやがって・・・」


「調子に乗ったのはそちらの方だろうが。確かにお前は様々なモノを持っていた。だがさらに求めるがあまり道を踏み外し・・・全て、失ったのだ。哀れな奴め」


連れて行け、と一言だけオームが言えば、セヴィリア家当主はあっという間に外に出されていく。「やめろ、離せ!俺を誰だと思っている!」と言葉で抵抗をしていたようだが、もはや無意味だろう。


そんな失墜した当主の後ろ姿を、部屋の外でじっと見つめるユーリィとハルト。


今感じるのは、主かつ父であった男への怒りか悲しみか、空しさか。これからへの不安か希望か。とにかく色々なモノが、グチャグチャに混ざっている。


「・・・・・・これでもう、終わったんだよな」


「・・・・・・えぇ」


ただ言えるのは、1つの終止符が打たれたことだった。





セヴィリア家当主はその後、商会の資金横領や盗賊への金銭援助などにより逮捕、後に有罪となった。資産の大半は没収となり、商会は解散、彼が好んでいた陶器も当然失うことになる。ちなみに重要文化財の神器は、無事にミーナの母国に返された。


今回の一件から、オーム・ファルトム公爵は“汚豚公爵”の汚名返上となり、貴族の尊厳をある程度取り戻した。彼の香辛料商売もかなり活気となる。しかし表舞台を好まない彼は今まで通り、辺境地の屋敷で静かに暮らす。


・・・・・・いや、正確には前より人が増えた。父を反面教師とし、勉学を重ねるハルト・セヴィリアが、彼の元で暮らすようになったからだ。屋敷自体が差し押さえられた理由もあるが、「将来活躍する見込みがある」とオームから気に入られたためでもある。


ユーリィをセヴィリア家に戻すことは叶えられなかったが、こうしてユーリィと共にいられる。勉学中、「今の方が嬉しいな」なんてハルトが言っているのを、ユーリィは思わず聞いてしまう。


「そうですね、当主様の不正が暴かれて良かったです。あのまま好き勝手されていたら、きっとハルト様はもっと危険な目に巻き込まれていたことでしょう。本当に、オーム様とミーナが協力してくれて良かった」


ホッと胸をなで下ろすユーリィに、どこかもの言いたそうなハルト。


「・・・・・・なぁ、ユーリィ。オーム・ファルトムのことは、どう思ってるんだ?」


「え?あぁ、主様は勿論ハルト様です。オーム様からも、ここの使用人兼ハルト様の専属メイドと認めていただいてますし」


「ち、違う!」と、何故か真っ赤な顔で反論し出すハルト。その様子に、ユーリィはあら?ときょとん顔に。



「し、将来の・・・・・・伴侶として、どうなんだ!?」



伴侶・・・思いがけない言葉に、ユーリィはしばらく言葉が出なかった。


「も、勿論、ユーリィの意志を尊重する!で、で、でも・・・僕はずっと、ユーリィを迎えたいと思っているから!!僕が20歳になったら、少しは考えてくれないか!?」


まさかまさかのプロポーズだ。10歳というまだまだ未熟な彼ではあるが、その大きな声や真っ赤な顔は、どれも本気のようだ。そんなに思ってくれてたなんて・・・ユーリィはじんわり、心が温かくなる。


「一応、この国は18歳から婚約できるぞ」


扉が開いたと思えば、ノシノシと聞こえる足音。休憩しようと人数分のお茶とお茶菓子の山盛りを、オームとミーナが持ってきてくれたようだ。まさかの公開プロポーズになってしまい、ハルトは「わわわーっ!」とさらに顔を赤くする。


「まぁまぁ、先の長いことは一旦置いておいて。お腹が減ってたら大変ですよ、おやつにしましょ!」


「あ、あぁそうだな!」と空気を誤魔化すように、ハルトはクッキーに齧り付く。彼の専属メイドから、彼の伴侶になる・・・悪くないかもしれない。彼を支えられるのなら、もっと近い関係になるのも良いだろう。


8年後が楽しみね。なんて思いつつユーリィは、ハルトのお茶を注いでいくのだった。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


次回はファンタジー世界のボーイズラブ作品になる予定です。が、まだ完成してない・・・!急がねば!!

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