訳ありメイド、汚豚公爵に追いやられました 中
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
蒸し暑いです。無理して体調崩すより、お金かけて涼しくする対策しましょう!
とある日、オームの旧友である男が屋敷を訪れた。急な訪問であり、オームはすぐには顔を出せない。「少し待たせろ、茶は出せ」という指示の元、ユーリィは客人と対面する。
「おっ?君・・・見ない子だな」
「先月よりファルトム公爵家に雇われました、ユーリィ・テッドと申します」
「あー、新人ちゃんかぁ。こーんな辺鄙なところで大変でしょうな。オマケに主が、あの汚豚公爵だなんて」
・・・・・・何だか、嫌な気分だ。オームは確かに太っている、でも汚れているなんて思えない。ここに来てから、彼がそんな風に呼ばれることに不満を覚えるようになったユーリィ。思わず反論した。
「そ、そんなことございません!オーム様はお仕事に懸命ですし、オーム様なりの信念を持っていらっしゃる、素晴らしい方です。汚れてなど・・・」
「あぁ、アイツのこと知らないな?アイツ、元々はこの国の宰相だったんだよ」
宰相!?とユーリィはとても驚いた。都にいてもおかしくない人が、何故こんな辺境地に?驚き不思議がる様子に面白くなったのか、客人はオーム・ファルトム公爵の過去を語っていく。
10年ほど前、この国は戦争の危機になった。何でも犯罪集団から忍び込んだスパイが、両国で管理していた領土や資源を、片側の国が独占したように見せたからだ。二国の関係は一気に険悪になり、多くの貿易や協定が破棄寸前になる。
そして武力行使にまで勃発する直前、オーム・ファルトム公爵は交易情報に関して嘘の情報をばらまき、犯罪集団を表に誘い出すことに成功。集団ごと捕縛して諸悪は裁かれ、真実も明らかになり、両国の戦争は免れた。
しかし単独で動いた挙げ句、嘘の情報を公開するなど国政を麻痺させかねない行動から、オームは他の宰相などから糾弾される。法的措置は特になかったものの、責任をとって宰相を退いた。以来、彼はひっそり仲介商売をやりつつ、この辺境地に隠れ住むことを余儀なくされた。
2つの国を守るため、彼は汚名を自ら着たのだ。そうしてついた“汚豚公爵”というあだ名。
(そんな過去があったなんて・・・。私はまだまだ、オーム様のことを知らなかった・・・)
「どうやら、昔話で花を咲かせているようだな。ここに来た理由はそれか?」
ハッと気付けば、仕事を片付けたオームが応接間に入っていた。ドスドスと、いつもより足音が大きく聞こえるのは気のせいだろうか。
「あぁいや、アハハ・・・。いや、ちょいとそっちで扱う香辛料使いたいってところがあったから、紹介しようかと」
そうか、とオームはそのまま長話に入る。邪魔にならないよう、ユーリィはそっと部屋から出た。
彼が隠していたであろう過去を、不本意ながらも知ってしまったのだ。気分を悪くされただろうか、日中ずっとユーリィは不安だった。数時間ほどして、長話を終えたオームが声をかける。
「悪いな、アイツは昔から口が軽い。聞きたくもない話に付き合わせた」
「そ、そんな、滅相もございません。それより・・・オーム様に、辛い思いをさせてしまったのでは」
「生憎だが、俺はそれくらいでは壊れない程頑丈だぞ。体も心も、な」
ドやっと誇るような顔立ちでオームは言う。自分は気にしていない、という意思表示らしい。本当に無茶をしていないかまだ不安なユーリィ。そんな彼女を察したのか、オームはコホンと咳払いを1つ。
「確かに、過去のことは残り続ける。そう簡単に清算できん。だが、俺の場合は引きずっていてはどうしようもないモノだからな。俺はあの時、多くの者を救えると判断して行動した。その結果が正しいかなど知らん、だが今の俺が充分だと思っている以上、これ以上思い悩む必要など無い。
これが俺の乗り越え方、少々荒いが俺自身が納得できるモノだ。お前には合わせ具合が分からんかもしれないが、そこはすまないとしか言い様がないな」
オームの言葉には、納得することもあれば、少し受け入れがたいところもある。それでも、彼が良いと思っているなら良いのだろう、無闇に詮索する必要など無い。
それに何だが、ユーリィにも当てはまるような気がしたのだ。例えコレクションを壊し主人からクビにされたとしても、あの時ハルトを守れたのなら・・・自分は、彼を救うことを優先した。その思いによる行動なのだ。勿論自分よがりだとすればそれまでだが・・・なんだか迷いに、1つの区切りがついた気がした。
「あっ、お2人ともここでしたか。そろそろご飯ですよ~!」
ミーナの変わらぬ明るい声で、オームは「うむ」とだけ言ってズンズン向かっていく。その後ろ姿にフフッと微笑み、後を追っていくユーリィだった。
○
「ユーリィさん、お手紙です!」
こちらに来てからおおよそ半年、ユーリィの元に1通の手紙が届いた。セヴィリア家の印が押されているようだ。もしかしたら、ハルトからだろうか。
「ほぉ。セヴィリア家当主の息子には、信頼されているのだな」
「はい、前は専属メイドでしたもので」
封を開く・・・が、中にあったのは真っ白な紙。あら?と首を傾げた。
「い、入れる紙を間違えたのでしょうか・・・」
「うーん・・・アレ、何か酸っぱい匂いがするような気がしますね」
酸っぱい匂い、ミーナの言葉を聞いてオームはピクリと反応した。ボテボテと2人に近付くと「少し見せてもらえないか」と、ユーリィから手紙を預かる。
「もしや・・・ユーリィ、この手紙を暖炉の火に近づけて良いか」
「えっ?え、えぇ」
戸惑うユーリィだが、つい承諾してしまう。するとオームは迷い無く、チラチラと燃える暖炉の火に、手紙の全面を炙っていく。「お、オーム様!?」と目を丸くする2人だが、手紙には先程見えなかった文字が見えてきた。
「こ、これって・・・」
「あぶり出しだ。柑橘の絞り汁などで文字を書き、火など熱を与えると見えてくる。・・・・・・こうでもしないと伝えられないものが、セヴィリア家にあるのか」
【当主が犯罪 ハルト・セヴィリアを地下に監禁】
震えたような文字の、隠されたメッセージは明かされた。
ーーー僕が戻ってこいといったら、必ず戻ってきてくれよ!
あの時交わした約束が、ユーリィの脳内に蘇ってくる。
「は、ハルト様・・・!?」
ユーリィはすぐに、セヴィリア家に戻ると決めた。とはいえ、正面から行っても追い返されるだけ。手紙の内容からして、ユーリィ1人では何も出来そうにない・・・だが、今は違う。
「ユーリィ、セヴィリア家に戻るのなら俺たちも協力する。なぁに、今のセヴィリア家当主を成敗する必要がありそうだからな」
オームは何かを企んでいるようだ。それでも、その笑みはどこか安心できる感じがした。「私も協力します!」と、ミーナも真剣に言ってくれる。
翌日から、一行はセヴィリア家の邸宅に向かう。ここまで来るのに数日はかかった、最低でもそれくらいはかかる。急がなければという思いが、馬車のスピードに噛み合わず焦るばかりのユーリィ。
そんな中でも懸命に作戦を立て、情報を集めてくれる2人には、感謝してもしきれない。なんとしてでも、当主を捕らえねば・・・息子を救わねば・・・。馬車の中で計画は練られ、眠れない日が続く。
ハルト様、どうかご無事で・・・!!ユーリィはただ、それだけを望んでいるのだった。
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「下」は明日夜に投稿する予定です。