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訳ありメイド、汚豚公爵に追いやられました 上

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


連続投稿したら1日開けるペースでしたが、明日の投稿が難しいため本日アップです。



「ユーリィ·テッド、今日限りをもって我がセヴィリア家の使用人を辞めてもらう!」



そう言い渡されたのは、18歳の使用人ユーリィ·テッド。大勢の人の前で、血相を変えた主人から直々に下されたクビの宣告。


「ま、待ってくれ父上!ユーリィは僕を助けてくれて・・・」


「黙れハルト、私のコレクションを台無しにしたのに変わりはない!それとも何だ、セヴィリア家の所有物を破壊した使用人を呑気に置いておくというのか!?」


様々な言葉や考えが浮かんだが、主人に言われた以上どうしようもない。無駄口1つも叩かず、彼女はそっと宣告を受け入れた。


代々テッド家は、貴族セヴィリア家に仕える一族。その家で産まれたユーリィもその道理に従い、当主の息子であるハルト・セヴィリアの専属メイドになっていた。10歳を迎えたばかりのハルトだが、貴族としての誇りはしっかりある少年だ。きっと将来、立派な当主になっているに違いない・・・と、ユーリィは疑わない。一方で母を早くに失ったハルトにとっても、姉のようなユーリィはとても親しい仲だった。


専属メイドともあって、彼女の仕事はハルトに関するモノが大半だ。そのため、何があってもでもハルトの身に危険があったら、そちらを優先する。例えば主人の陶器コレクションの掃除中、階段を転びそうになったハルトを助けに行く程。


・・・・・・想像通り、走り出した衝撃でコレクションは落下。陶器ともあって大きな音を立て、原形を留めないほど壊れてしまった。セヴィリア家の現当主は一代にして大規模商会を築き上げ、経済的な地位を確立していることでも有名だ。陶器は商会の主要品目であること、元々当主自身が大の陶器好きであるということから、彼は先述したように大激怒。クビにされた次第である。


当主の所有物を落として壊したのは、確かに自分の不備だ。失敗によりクビにされること自体、ユーリィに文句はない。しかしやはり、仕事を失うことに不安を感じる。仕事で失敗したなど傷のある使用人は、しばらく再雇用が難しいのだ。少し傾き気味の実家には、長く迷惑をかけたくない。とにかく早く仕事先を見つけたい。


そう焦るユーリィに、主人がとある仕事を持ちかけてきた。


「ユーリィ、お前に良い話をやる。隣国の辺境に屋敷を構えるオーム・ファルトム公爵が、新しい使用人を欲しがっているそうだ。辺鄙な地であるからか、なかなか見つからなくてな。訳ありの者でも構わないと聞く」


訳ありでもいいなら有り難い、ユーリィはすぐに行くと決めた。出発の日、簡単に荷物をまとめて豪勢なセヴィリア家の邸宅から出ようとすると・・・「ユーリィ!」と、ハルトが慌てて駆け寄ってくる。


「ハルト様、お見送りありがとうございます」


「ユーリィ、本当に良いのか!?オーム・ファルトム公爵は“汚豚(よごれぶた)公爵”とも呼ばれてて、見た目も性格もキツいから、使用人が長く付かないって噂だぞ!そんなところに行ったら、酷く辛い目に・・・」


「ご心配ありがとうございます。ですが、私はもうセヴィリア家にはいられません。それに我がテッド家が大変な状況の今、雇っていただけるところがあるだけでも幸運でしょう。ハルト様、どうかお元気でいてくださいね」


ハッキリと「ここにはいられない」と言われてしまった以上、呼び止めることは難しいだろう。ならばと、ハルトはユーリィに約束をする。


「必ず、セヴィリア家に戻ってくるんだぞ!僕が当主になったら・・・いや、それよりもっと早く、ユーリィが戻ってきて良いようにするから!僕が戻ってこいといったら、必ず戻ってきてくれよ!!」


「ハルト様・・・感謝いたします」


ハルトから信頼されていると分かっただけで良い、これからも彼が元気でいることを願おう。ユーリィは深くお辞儀をして、セヴィリア家を去った。



ユーリィは1日かけて都へ行き、そこから馬車を乗り継いで辺境を目指す。進めば進むほど、森林地帯の奥深くへと向かっている感じだ。人が集まらないのは、都からかなり離れているからもあるだろうか。なんて思っていると、目的地付近に誰かがいるのに気付いた。


あれは・・・女性?この辺りでは見ない小麦色の肌に黄色い瞳をしている、年はユーリィと同じくらいだろうか。


「ユーリィ・テッドさんですね!長旅、お疲れ様です。私はここで働いているミーナです。ここから先は、私が案内しますねっ」


ミーナはひょいと荷物を持ち、コッチですよー!と明るく案内してくれた。若い女の子がいると、何だか安心する。ホッと胸をなで下ろす一方で、何だか噂で聞いていたのと違う感じを覚えた。訳ありメイドともあり歓迎されないと思っていたが・・・そうでもないらしい。


歩くこと数分、ユーリィの目の前には大きな屋敷が現れた。セヴィリア家の邸宅みたいな煌びやかさは無いが、古風故に凛とした美しさが備わっている。周りが森林だからかとても静かで、爽やかな風が気持ちいい。


そんな雰囲気に浸っていると、ドスドスと大きな足音が聞こえてくる。ハッと我に返れば、入り口から大柄の男性がやって来ているではないか。大きな頭に肩幅、飛び出た腹が最初に目に入る。彼がオーム・ファルトム公爵だろう。ユーリィは気を引き締めて挨拶をする。


「お初にお目にかかります、オーム・ファルトム様。私は・・・」


「ユーリィ・テッドだな。セヴィリア家で代々使用人をするテッド家の末裔だが、主人の怒りを買って辞めさせられたと聞く」


うっ、とユーリィはうろたえた。そこまで知っているのか。そしてここで触れてくるとは・・・少し性格はキツいと聞いていたので、覚悟はしていたが。


「陶器を壊されただけで怒り狂い、有無も言わさずクビにするとは・・・セヴィリア家の当主は、相変わらず器の小さい者だな。あそこまで心が狭ければ、仕事先どころか家族からも見捨てられそうだが」


フン、と息をならすオーム。どうやら彼女ではなく、彼女をクビにした当主に苦言を呈しているようだ。


「まぁ良い、今は関係ないな。ミーナ、彼女を部屋に案内しろ」


オームの言葉に「はい!」と明るく返事をするミーナ。早速ユーリィを、部屋まで案内した。


それにしても・・・それなりに大きな屋敷だというのに、人の気配があまりないことに驚く。この屋敷には何人いるか聞いてみたところ、なんと先程の3人で全員だと言うではないか。


「私も最初はビックリしちゃいました。でもオーム様のご要望らしいです、なんでも人が多すぎると落ち着かないとか」


なるほど、それなら使用人があまりいなくても良いと。使用人がすぐに辞めるのではなく、そもそも使用人をつけない主義らしい。


オームは現在、香辛料の仲介商売を1人営んでいる。組織と比べては少規模だが、普通の品物より高品質なため得意先も多い。日中ずっと外に出ては、夜は部屋に閉じこもり書類管理と忙しいという。


「忙しい時はちょっと不機嫌っぽく見えますが、本当はとっても頼りになる方なんです。私も色々教えていただきましたし。あまり気負いせず話すと、オーム様も喜びますよ!」


ニコニコと話すミーナに、ユーリィは少し戸惑う。当主に対してそう安々と話しかけて良いのだろうか・・・。セヴィリア家の感じとかなり違うのだと、改めて実感した初日だった。



ユーリィの新しい職場・・・ファルトム家での生活は、驚きの連続だった。


屋敷は広いというのに、彼女への掃除への割り振りはそこまで多くなかったのだ。オームは権力者らしくなく「自分のことは自分でやる」という考えらしく、自室のことや所有物については自分で管理している。


ミーナとはよく共同作業することも多く、掃除について教えることもあれば、食材の下処理を教えられながら手伝うこともある。明るいミーナは「ちゃんと眠れてますか?」「こっちには慣れました?」なんて、気を遣ってくれるのも嬉しい。セヴィリア家では大勢のメイドは全員黙々と作業し、私語厳禁だった故に、こうして話せるのも新鮮だ。


そして何より、オームの食事。料理を担当するミーナは、毎食パーティでもするのかという程の量を作っては、オームは苦もせずそれを平らげていく。「大きな体こそ強さの証」らしく、それなりに太っていることを誇っているらしい。ついでにミーナは「いっぱい食べてくれる人が好き」らしく、こういった面で利害が一致しているのか・・・と、ユーリィは納得する。


「ミーナさんは、料理されるのがお好きなんですね」


食事後の片付けで、ユーリィは共に食器洗いをするミーナに声をかけてみる。


「はいっ!私、元々もっと離れた国の出身で、実家が料理屋だったんです。幼い頃から手伝っていて、いっぱい食べてくれることがとっても嬉しくて。小さい頃の夢はお店を継いで、いっぱい料理を食べてもらえる料理人だったんです」


「そうだったんですか!・・・では、何故こちらに?」


少し踏み込みすぎた?と一瞬不安になったが、ミーナは「それがですねー」と明るく話してくれた。


「実家のお店が、不景気で潰れちゃったんです。コッチへ移住して、頑張って料理は続けてたんですが・・・皆“異国人が作るメシなんか気味悪い”って言って、食べてもくれなかったんです。それが、凄く寂しくて・・・。


そんな時、オーム様に出会ったんです。見慣れない料理にも関わらず食べてくださって、スッゴく気に入ってくださって。香辛料のアレコレに使える!みたいな感じで、縁あってこちらで働いているんです」


そんな経緯があったのか、ユーリィはまた驚いた。見た目も性格もキツい“汚豚公爵”のイメージと、実際の姿は大分かけ離れている。


何故オームは、そう呼ばれているのだろうか。もしかしたら、何か過去にあったのだろうか。ミーナに聞こうとしてみたが、彼女を嫌な気分にしてしまいそうだったので、グッと抑えることにした。


本人に聞くのは・・・仕事の邪魔だからやめよう。


ムクムク膨れる好奇心を抑えようと、ユーリィは食器洗いに集中するのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


「中」は明後日の夜に投稿する予定です。

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