第十話 巨大獣ゴミンゴ ケン坊の命を救え! 4
俺は訳が分からなかった。
三島長官はニセモノ、そしてあのケン坊……むしろあっちの方がよほど原作の三島長官に近い動きだった。
あの見事な戦いぶり、アレは間違いなく原作で北原未来要塞ベースに侵入したダバール兵を返り討ちにした三島長官の動きだ。
俺は彼の事が気になり、人のいなくなった守衛室にスパイドローンを潜入させて医療室の監視カメラ映像を再生してみた。
この動き! 間違いない。
あのケン坊、原作で亡くなったはずの彼に本物の三島長官の魂が入ったのだろう。
そうなるとやはり今の防衛軍三島長官の中に入っているのは、原作のアイツという事になる。
だがこんな荒唐無稽な話、誰に話しても信じないだろう。
この事実は俺の中だけの秘密にしておこう。
「ブキミーダ殿、ブキミーダ殿はおられるか?」
「ここにいますよ、バルガル将軍殿」
「緊急用の医療ポッドの空きはどれだけ有るのか? 想定外の負傷者が出てしまったのでな」
バルガル将軍が負傷者の兵士を大量に連れて戻ってきた。
負傷者は大量に居たが、幸い死者は出なかったようなので、ミザーリンは相手を殺さないように防衛隊員に指示を出していたのだろう。
中でも傷の大きかったのはあのケン坊の姿の彼と戦った兵士達だった。
「あ、あの子供……恐ろしく強かった。信じてくれ、子供に負けたなんて恥ずかしくて言いたくないが……あの恐ろしさは一度味わった者でないと分からないぞ」
「安心しろ、お前達が嘘を言っていない事は吾輩がよく理解しておる。あの小僧、なかなかの手練れだ。あの年であそこまで動けるとは、地球人も侮れんものがある」
まあバルガル将軍の評価は過大評価では無い。
ケン坊の中の彼は原作では数十数百の銃を持ったダバール兵士を日本刀一本でねじ伏せた最強の男だ。
俺はバルガル将軍の言葉で、あのケン坊の中の人物が三島防衛長官だと確信した。
つまり、今三島防衛長官の中に入っているのはブキミーダであり、ケン坊の中に入っているのが本物の三島防衛長官というわけか。
なんというかトコロテン現象とでもいうべきなのだろうか。
俺がブキミーダに入ってしまった事で、ブキミーダは本来の身体を追い出されて三島防衛長官の身体に入ってしまった。
そして押し出された三島防衛長官の魂は本来死亡するはずだったケン坊の身体に入り、現在に至るというわけだ。
この流れが原作の変化にどのように響くかはわからない。
だが一つ言える事は、ガッダイン5でのロボアニメの定番キャラとも言える基地に出入りする子供枠に最強のキャラが増えてしまったという事だ。
足を引っ張る無能な上官としての三島防衛長官のアイツと、子供ながらにダバール兵をスチール製の箒一本でねじ伏せるケン坊。
原作とは大きく異なるキャラが追加されてしまったこの流れ、俺の今後にどう響くのかはまるで分らない。
どうやらここから先は、原作の記憶だけを頼りに生き延びようとするのは難しくなりそうだ。
それに原作と違うもう一つの変化としては、ミザーリンの立ち位置だ。
彼女は間違いなくダバール星の諜報官だ、それは間違いのない事実であり、下手に裏切るとはとても思えない。
だが……演技で青木流の姉のフリをした彼女は、流に情が移ってしまい、地球防衛軍の女士官として彼を今後も助けてしまうかもしれない。
そうなった場合、バルガル将軍とミザーリンが下手すれば対峙する事になってしまう。
俺としてはその流れは是非とも避けたいところだ。
そう考えるとやる事がどんどん増えてしまう。
ミザーリンとバルガル将軍の事を考えつつも、自分自身が処刑されずに生き残る方法を考えなくてはいけない。
そしてダバール星人と地球人の間の戦争を終わらせ、平和的解決に向かうようにする。
その為には三島防衛長官の姿をしたアイツは絶対に最大の障壁となるだろう。




