番外編 宇宙漂流記ルミナス168 パーフェクト・ソルジャー5
メーテルリンクの放った対ATグレネードランチャーには鎖がついていた。
「どこ狙ってんだYO! このマヌケ!」
バトリングを見ていた観客のヤジが飛んだ。
だが、メーテルリンクはこれが想定内らしく、焦った様子は見えない。
彼は足に仕込んでいたジェットパックを使って一気に跳躍した。
これは本来人間が使う事を想定しているものではないので、その体に受けるGは相当のものだ。
メーテルリンクは一気に跳躍したままベルセルクの機体から離れた。
そして、手持ちの手榴弾をスリングショットを利用して放った。
このやり方なら普通に投げるよりも確実に遠くに飛ばせる、だが……あのジェットパックの反動の中で正確なコントロールで投げるのはかなりの腕が試されるだろう。
ベルセルクに巻き付いた鎖は動けば動くほど機体に絡みついて巻き付いた。
そうか! あのグレネードランチャーを見当違いの方角に向けて放ったのはこのためか!
ベルセルクに巻き付いた鎖の反対側はグレネードランチャーの擲弾の先端に括りつけられていた。
そしてグルングルンと回転しながら擲弾はベルセルクに絡みつき、足部分を絡め取った。
「食らえっ!」
「何だってェェェェ!?」
メーテルリンクのスリングショットからの手榴弾がさく裂し、ATベルセルクの右足が吹き飛んだ!
だが、運が悪い事にその機体はメーテルリンクの方に倒れこんだ。
あんな巨体が倒れてきたら即死確定だ、これだといくらメーテルリンクが勝ったと言っても倒れこんだベルセルクに押しつぶされてミンチ確定、バトリング会場の誰もがそう思っていた。
――だが、メーテルリンクは本編で使った戦法の機転で生き残った!
なんと、彼はトラック持ち上げ用のジャッキの下側に入り込み、ベルセルクの機体が倒れこんできた時のタイミングとずらしてその場を離れたのだ。
ジャッキが重さに耐えきれずに砕けたのは彼が倒れこむベルセルクから逃れたすぐ後の事だった。
本編では握り潰し回避に使ったトラックのジャッキだったが、今回は倒れこむベルセルクから逃れるために大活躍だったのだ。
「し、信じられない幕切れだ! なんと、メーテルリンク、生身でATベルセルクに勝ちやがったぁ!」
会場は興奮の坩堝になっていた。
一部のオレ達を除き、誰一人として勝てると思っていなかったAT対人間のバトリングを人間が勝利したからだ。
「キリオォ、頼むぅ、何か奢ってくれよ、俺さっきのバトリングで今日のもうけ全部つぎ込んぢまったんだよぉ」
「ヴァニラ、それは自業自得だ。まあここからどうにかして帰るんだな」
「キリオォ……」
キリオはバトリングで倒れたベルセルクの機体の元に向かった。
すると降着状態から出てきたのは、半裸の大男だった。
「やはりルシャットか。あの戦い方で分かった」
「キリオ、みっともないところを見せてしまったな、どうも小銭稼ぐはずがまさかのATがおシャカになっちまったぜ」
「フッ、勝負は時の運だ、お前は勝利の女神に見放されたんだよ」
「ㇵッ、違いねえ、まあ、死神には嫌われてるみたいだがな」
キリオは戦友のルシャットと会話をしていた。
すると、そこに軍の人間がずかずかと入り込んできた。
「貴様ら、早くこの場を解散しろ、ここは非常警戒宣言が発令された! 命令に従え!」
どうやらカメン王国正規軍と反乱軍の戦闘がこの街まで飛び火してきたらしい。
「どうやら早くここを離れた方が良さそうだな」
「だがどうやってここを離れるってんだ? 今は非常警戒宣言で自由に動けないんだぜ」
「フッ、こうするのさ」
そう言うとキリオはカメン王国正規兵に向かってパンチを決めた。
吹っ飛んだ兵士のポケットを探ったキリオはATの鍵らしいものを奪い取り、そのまま機体に乗り込んで正規軍に向かって威嚇をした。
「カメン正規軍に告げる、警戒班全員、こちらに来い! 反乱軍だ!!」




