番外編 宇宙漂流記ルミナス167 パーフェクト・ソルジャー4
バトリングコロシアムは異様な熱気に包まれていた。
セドリックやマルコはこの殺伐とした空気にすっかり飲まれている。
そういうオレも実は内心かなりビビっている。
ここは街の中とはいえ、戦場の真っただ中にある土地だ。
いつどのような大惨事が起きてもおかしくはない。
そんな場所にいる住人が到底まともな神経をしているとは言い切れないだろう。
いうならば、サッカーや競馬場で暴発寸前のフーリガンの群体の中に紛れ込んだようなものだ。
「は? お前大バカかぁ? そんなもん金をドブに捨てるようなもんだろぉ!」
ヴァニラというキリオの仲間がオレの買った掛札を見て素っ頓狂な声を出していた。
まあ普通どう考えてもATと生身の人間なら生身の人間が勝てるわけが無い。
賭けの倍率は1.4対68.9、コレで勝てる方がおかしいと思われるだろう。
だが! オレはこのバトリングの結末を知っている。
どうやら相手は違うようだが、メーテルリンクには対AT用グレネードでバトリングを生き残ったエピソードがある。
もしその戦法を取ってくるなら、彼は確実に生き残るだろう。
「知らねぇからなぁ、お前、泣いても知らねえぞぉ、俺は止めたからなぁ」
ヴァニラの心配をよそに、オレは掛札を手にバトリングコロシアムの席に座り、パンとコーヒーで食事をした。
――苦!! 何だこれっ!?――
だがキリオは平気な面をしてこれを飲んでいる。
流石にセドリックとマルコはミルクを大量に入れて薄めて飲んでいるようだ。
「オレも……買ってみた。アイツは……生き残るだろう」
「テメェら二人ともそろって大バカかぁ!? もう俺は知らね」
ヴァニラの忠告を無視したキリオはメーテルリンクの姿を見ていた。
長い間戦場にいるキリオからすれば、どういう人間が生き残るのかを見極める力があるのだろう。
「野郎ども、今日は自殺志願者だけではなくコイツにかけた酔狂な大バカ野郎まで出てきたぞ、さあ、公開処刑のバトリング、存分に楽しんでくれ!!」
ガラの悪い司会によるバトリング開始のナレーションから戦闘が始まった!
ATの機動性を生かしたローラーダッシュでメーテルリンクを青いATベルセルクが追い詰める!
だが、メーテルリンクはそれを待ちかまえ、分厚いコートの中から何かの液体の入った瓶を取り出した。
アレは、ギギリウム溶液?
割れた瓶はベルセルクの機体にかかり、そしてすぐに蒸発した。
一体彼は何を考えているのか、だがオレにはわかっていた。
アレは、機甲擲弾兵メーテルリンクの四話で見せた戦法だ。
ギギリウムは機械の性能を大幅に向上させる、だが……それは反対に言えば、性能を本来の倍以上のモノにしてしまう事だ。
つまり、あまりの性能の高さは、機体に負担を与え、制御が難しくなる。
現にあのATはギギリウム溶液を浴びてから、ローラーダッシュのスピードが速くなりすぎ、メーテルリンクを確実に捕らえる事が出来なくなってしまった。
反対にメーテルリンクは最低限の動きだけでATの攻撃を避けている。
一度地獄を見た戦士は死など恐れずに冷静な判断で攻撃を避けている。
そして、メーテルリンクはかすり傷からぬぐった血を手のひらにベッタリと付け、四本の指を引き自らの顔に血化粧を施した。
アレは、メーテルリンクの本編で見せた上官への復讐を果たす時のポーズだ。
そして、彼はコートの中から何かを取り出した。
どうやら太い鎖のようだ。
彼はそれを投げてベルセルクの機体に絡みつけた。
「オイオイ、逃げ回るだけで勝てるのかよ!」
「真面目にやれよ、おれたちゃお遊戯を見に来たんじゃねえぞ!」
観客がブーイングしている。
だがそんな罵声を背に、メーテルリンクはベルセルク目掛けてグレネードを放った。
だがあのグレネード、何かがおかしい。
アレは、何だ?




