第八話 巨大獣ガゴンゴ ミザーリンの美しき罠 4
「姉さん! 本当に……姉さんなのか!?」
「流、大きく……なったね」
渚は優しそうな顔に涙を浮かべて流に微笑んだ。
マジでミザーリンの演技が原作よりも上手くなっている。
マーヤなんてそれを見て目を巨大化させてウルウルしている。
マーヤちゃん、これ演技だから、あーもー、ハンカチで鼻かまないで。
「姉さん……どうして、ここが?」
「偶然街でテレビを見たの……すると、あのロボットから流の声が聞こえたから……」
「そうだったんだ! 姉さんっ! 会えるとは思っていなかった」
普段のクールな流からはとても想像のつかないような表情だ。
俺は原作でこのシーンを見た時、声優さんの演技の凄さを思い知った。
「流、大きく……なったね」
ミザーリンはその大きな胸で流の顔を埋めさせ、頭を軽くぽんぽんと叩いた。
流は疑いもせず、ミザーリンにひっしと背中から手を回して抱き着いている。
普段の相手を疑う事から入る流からはとても考えられない姿だ。
「でも、どうして優しい流が、あんな戦いを……?」
「父さん、母さんはあの戦争で死んでしまった。だからおれは戦争を許せない! おれみたいな思いをする奴を一人でも減らす為におれは戦ってるんだ!」
どうやらミザーリンはこの基地に潜入する前にガッダインチームのデータを収集しておいたようだ。
流石は腐っても諜報官。
最近テレビを見ているかマーヤと馬鹿やっているイメージだったが、仕事は確実にこなしていたわけだ。
ミザーリンの変装した渚は誰にも疑われる事は無かった。
「流、その人は誰だ?」
「流くんっ。その人が……お姉さんっ?」
「綺麗な人ですたい。流どん、良かったでごわすな」
姉に甘えた姿を見せてしまっていた流は、後ろのガッダインチームの全員に気が付き、途端に普段の態度に戻った。
「なっ、何見てんだ!」
「ほっほっほ、流くん。その人がお姉さんの渚さんでしたか。さあこちらへどうぞ」
「貴方が代々木博士ですね。流がお世話になっております。流、皆さんと仲良くするんですよ」
ミザーリンはとてもいい笑顔で流に微笑んだ。
この表情、原作よりよほど柔らかくて美人だ。
やはりミザーリンは原作のトゲトゲしたイメージが今や全然見えない。
ひょっとして、コレって俺のせいなのか?
まあとにかく今後の展開を考えると、俺が巨大獣を作って北原未来要塞ベースに攻め込む流れは確定だろう。
「ブキミーダ! ブキミーダはおるか?」
シャールケン提督のお呼びだ。
「はい、ここに居ります」
「すぐに謁見の間に来るが良い。話がある」
何の話だろうか?
あまり良い予感はしないが……。
俺はマーヤと一緒に謁見の間に向かった。
「ブキミーダ、これは何だ??」
シャールケンがバルガル将軍に持って来させた物は、大きなブラウン管テレビだった。
「妹の部屋にあった物だ、お前が置いたのか?」
「はい、エリーザ様に頼まれまして……」
「たわけ、余の妹を地球の世俗に毒してどうするつもりだ!? 恥を知れっ!」
「も、申し訳ございません! シャールケン様」
シャールケン激おこ。
この表情、長富演出のスポコン野球での目に炎が燃えている状態だ。
これは……シャールケンもテレビ付けにして逃れよう!
「ですがシャールケン様、一言申させて頂いてよろしいでしょうか?」
「何だ、あまりにくだらない事なら営倉にぶち込むぞ!」
「地球の諺に――敵を知り、己を知らば百戦危うからず――というものがあります。これはつまり相手を知らなければ、戦には勝てないという意味なのです」
この俺の発言にシャールケンが少し反応した。
「ほう、それとこの箱に何が関係あるというのだ?」
「つまり、シャールケン様が地球を征服の暁には、大衆が求めている娯楽を提供する必要があるのです。恐怖や弾圧だけで支配する者はいつか転覆させられます。その為に世俗を知る必要はあるかと」
我ながら適当な詭弁を並べたもんだ。
これで説得できるなら世話はない。
「うむ、そこまで言うならそのテレビとやらを余にも見せてみろ。バルガル、お前も情報採取の為見ておくのだ」
「はっ!」
さて、この連中に興味を持たせるならやはり時代劇か……。




